家庭教師
流石にめちゃくちゃ怒られて、大人しくしている今日この頃。
でも塀の向こうへの憧れは止まないので、魔法学はこっそり見て色々と暗記している。
効果はよく分からないのが多いけど。
そんなある日、お父様に呼ばれた。
執務室に入ると、見知らぬ男の人が立っていた。
「こんにちは、可愛いお嬢さん。私はローラント・デッセル。
魔法学の研究者をしています。」
「魔法学!!」
私がそう叫ぶと、お父様の視線が脳天に突き刺さった。
絶対刺さったと思う!
何か、…何か痛かったよ?!
「は、初めまして、デッセル様。私はブラントミュラー公爵が娘、ローズマリーです。」
魔法学と聞いて一瞬で上がったテンションが、お父様の一睨みで一瞬で下げられた。
「まだお小さいのに、挨拶がちゃんと出来るなんて立派ですね。
今日から私はローズマリー嬢の魔法の監督ですよ。」
「魔法学を教えてくれるのですか?!」
私がキラキラと目を輝かせて言ったら、お父様は即座に言った。
「違う!監督だ!お前の魔法に危険がないか見るだけだ!
お前の質問に答える事はないからな!!」
「お父様のけち!!」
なんてやり取りがあった後、デッセル先生は一日おきに来てくれるようになった。
その日は好きに魔法を試す事が出来る。
何て素敵!!
塀の外が近くなった気がする!
しかも先生は「子供の為の初級魔法学」なんて、素敵な本をくれた。
先生が来ない日に打ちたい魔法をひたすら覚えて、先生が来た時に片っ端から試した。
最近先生の挙動が不審なのが気になるけれど。
あっという間に一冊終わってしまったので、次の本をおねだりした。
「ゆ、ゆっくりでいいんだよ?そんなに急いでしなくても…。」
「?急ぐ?」
私は首を傾げた。
「ああ、何でもないよ。じゃあ次に来た時に持ってこよう。」
何故か先生は死んだような目でそう言った。
「デッセル先生、今日はまだ、時間ありますよね?
私、お父様の魔法書に書いてあった魔法を試してみたいのですが、構いませんか?」
「ど、どんな魔法かな?」
何故か先生は怯えたような顔でそう言った。
「んー効果はもう忘れました。詠唱だけ覚えています。」
「意味が分からないよ、もう…。」
手で顔を覆い疲れたような顔でそう言った先生に構わず、私は魔力を喉に集めた。
「とにかく、やってみますね。イヌメラビリス アパルタ パルヴォス フォラメン」
「わ――――待って待って!!」
ボコッ、ボコボコボコボコ
「あーこれってこうなるのね。」
庭一面に人の頭くらいの大きさの穴が無数にあいた。
先生が燃え尽きたように佇んでいる。
その日は。
帰宅したお父様に先生が平謝りしていて。
流石にちょっと悪い気がしたので、ちゃんとごめんなさいしました。
私、できる子。