指輪の行方
半年という期間は瞬く間に過ぎて行った。
ルイスお兄様がなるべく家族の時間を取るように動いているのは気付いていた。
それを嬉しいと思う反面、寂しいとも思う。
私は寂しいと思う気持ちをお兄様に隠す事ができただろうか。
お兄様は危険な情勢の中、直ぐに戦地に放り込まれるかもしれない。
そんな不安をお兄様が見せる事は一度としてなかったけれど、私は万が一何かあったら、と不安な気持ちを隠す事ができただろうか。
そして私は笑顔で見送ることが出来るだろうか。
そんなことばかり考える半年だった気がする。
古代魔法の研究も、サンプルこそそれなりに増えたが、古代文字らしき模様の解読はおろか見えなくなる魔法陣の謎も解けない。
守りの魔法陣を解明して、結界魔法より効率のいい魔法陣を刻んだ装飾品を作って、お兄様に渡したかった。
けれど、どう頑張ってもお父様から借りたこの守りの魔法陣が刻まれた指輪には叶わなかった。
それならば、と私は明日旅立つルイスお兄様の部屋へ突撃した。
「お兄様!!」
ばんっと勢いよく扉を開けた。
「ああローズ、いつになったらノックが出来るようになるんだい?」
まったく、と呟きつつ困ったように笑いながら私を出迎えてくれた。
「お兄様、これ…持っていてください。」
手のひらに乗せた指輪を差し出した。
「これは、ローズが研究している古代魔法の入った指輪じゃないのかい?」
「お父様から許可はもらいました。本当はもっと効率のいい魔法陣を開発してお兄様に贈りたかったのだけど…。やっぱりこれには叶いませんでした。」
てへっとなるべく明るく振る舞った。
てっきり笑って受け取ってくれるかと思っていたのに、急にお兄様は私を抱きしめた。
だめだ。涙が出そう。
涙が我慢できなくなってしまう。
「ローズ、悲しいときは泣いたっていいんだ。ずっと我慢していただろう?」
(ああ…、もう、…お兄様には叶わないな。)
「うっ…ふえぇーん…」
ずっと堪えていたものを諦めたら、後から後からこぼれてくる。
私はお兄様の体に顔を押し付けて、声をなるべく漏らさないように静かに泣いた。
その間お兄様はずっと抱きしめて背中を撫でてくれた。
どれくらいそうしていただろうか。
少し落ち着いて体を離した。
少し気恥ずかしくなって、小さな声で謝罪した。
顔を上げると少し赤い目のお兄様がいつもの優しい顔で笑っていた。
「お兄様、タチアナ様とおっしゃるんですよね?」
お兄様の政略結婚のお相手である。
「そうだよ。」
「どんな方なのですか?」
そう聞いたら、なぜかくすくすと笑いだした。
「くくく、ああローズ、…くくく、普通はね、それ婚約の話を聞いたときに聞くものだよ?あはははは!」
もう堪えきれないと言うように、爆笑し始めた。
「もう!笑っていないで教えて下さいませ!」
「あははは。ごめんごめん。相変わらずローズがローズだったからおかしくて。くくく」
暫く笑いが止まらなかったようだけど、笑い過ぎて出た涙を拭きながら漸く教えてくれた。
兄曰く、陽だまりのような人らしい。
最初は私を安心させるためのお世辞かと思っていたけれど、どうやらお互い気に入って成立した婚約らしい。
お兄様は、もしロザインの夜会で彼女に出会っても、きっと彼女を選んだだろうと笑って言った。それを聞いてとても安心した。
「もっと早く聞いておけば良かったです。」
そうすれば、少しは安心して半年間を過ごす事ができたかもしれないと思ったのだ。
「私はいつ聞いてくるのかと思っていたよ。くく、前日とは。やっぱりお前は私の想像の上を行くね。」
そう言って、お兄様は高らかに笑った。
翌日、私は笑ってお兄様を見送ることが出来た。
行ってくるよと、お兄様も笑って旅立った。




