残念な子。
家族にとってローズは概ねそんな認識。
「それよりローズマリー、あなたまたお茶会でやらかしたのですって?」
危うく口の中に入れた食べ物を吹き出すところだった。
母がローズマリー呼びをするときは大抵ろくなことがない。
「ローズはまた何をやらかしたのですか?」
レオお兄様が聞いた。
冷や汗が出てきた。
急に口の中もカラカラになってきたような気がする。
口の中の物を飲み込むことが出来ずもごもごしつつ、思い返すも身に覚えはない。
大体いつもない。
「貴方にも婚約の打診が来たのです。王太子殿下との。」
「ぶふっ」
今度こそちょっと出た。
慌ててテーブルナプキンで口を拭う。
何とも言えない微妙な空気がダイニングテーブルに流れていた。
「もっとも、ルイスの事があるので断って構わないとのお話でしたから断ってきました。」
全員がほっと息を吐き出した。
ちょっと失礼ではないだろうか。
普通打診がきたら喜ぶものでは?
そんなことを考えながら、お茶会の何がいけなかったのかもうちょっと考えてみた。
(ん?婚約の打診が来たのだから、成功だったんじゃないの?)
「母上、ローズは何をやらかしたのですか?」
兄たちも同じ疑問に行き着いたらしい。今度はルイスお兄様が聞いている。
「ローズマリー、魔法の研究について報告することがあったのではなくて?」
はっ!!と目を見開いて固まる私。
色々察したらしい兄達は呆れた顔で私を見た。
(ああ、やっぱりあの研究は怒られる案件だったのか…)
怒られるタイミングが変わっただけだったと肩を落としてローズは諦めたように言った。
「古代魔法の魔法陣を現すのに成功しました…。」
「「んなっ!!!」」
兄二人は固まっていた。
「なぜ黙っていたのです?」
「だって、いつも研究結果を報告したら怒られるんだもん。」
唇をとがらせて不貞腐れたように言った。
「それはあなたが、研究結果として花壇の花を全滅させたり、庭を穴だらけにしたりしたからでしょう?いまわたくしは、黙っていたことを怒っているのです!」
庭を穴だらけにしたのは、魔法研究ではなくて魔法練習ですと言いかけて、口をつぐんだ自分は賢明だったと思うの。
それに隠密系の魔法開発はそれ自体かなり怒られなかったっけ。
なんてこともきっと今言ったら大変な事になりそうな気がするので私は貝になった。
「では今回すぐ報告していたら怒られなかったのですか?」
「当たり前です!!!」
(何てこと!!今回は怒られない方の研究だったか!)
どこまでも残念な思考のローズマリーだった。
「母上、本当なのですか?」
「どうやら、本当のようですよ。お茶会で見せたのですって?」
「はい。殿下がしていた腕輪が古代魔法の魔道具のようだったので、最初のお茶会の時から目をつけていたのです!魔法陣を現すことが出来るようになったと言ったら、王妃様がどうするのか聞いてきたので、それを使ってお見せしました。凄いのですよ!殿下の腕輪は常時発動だったのです!お父様にお借りした指輪と魔法陣の形が違っていたので、先ほど護符で試したのですけれど、通常の魔法陣を常時発動の魔法陣に変える方法がもう少し検証すれば分かるかもしれません。その為には常時発動の別の古代魔法の魔道具がないと確証が持てないのですが、お心当たりはございませんか?」
ローズマリー以外の全員が、なぜか頭を抱えていた。
「待て。色々と突っ込みたいが、陛下から聞いた事を確かめておきたい。古代魔法の魔法陣を現すのに成功したのは、アルトゥールと共同なのか?」
お父様が頭痛を堪えているような顔で聞いてきた。
「はい、そもそも二人いないと不可能なのですわ。」
「それで、古代魔法の魔法陣であれば護符でも問題なく発動するのだな?」
「実は…発動こそしますが根本的に何かが違っているようなのです。発動することを考えれば魔法陣に間違いはないと思うのです。性質は同じ魔法が展開するのですから。けれど効果時間や魔力効率が雲泥の差なのです。性能も多少劣化版のような感じで…。魔法陣が見えない謎を解明できれば何か分かるかもしれませんが。」
「そうか、…まだ実用的に使えるレベルではないのだな?」
お父様は物凄く疲れた顔をして、何もかもを諦めたように言った。
「はい。性能はまだ現代魔法の方が良いくらいです。ただ、古代魔法特有の他の魔法と干渉しないと言う性質はちゃんとありますから、魔法の種類によっては使いようもあるかもしれませんね。でもまあ…サンプル不足ですね。あ!明日アルトゥールが別の古代魔法の魔道具を手に入れたようで持ってきてくれる約束なのです!楽しみです!」
にこにこと報告したのだが、なぜか全員残念なものを見る目で私を見ていた。
お父様はため息まで吐いている。
解せぬ。
翌日、宣言通りお父様とルイスお兄様は隣国へ旅立った。
リリーともしばしのお別れである。
「行っちゃった。」
玄関先で見送っていたローズマリーの頭を、レオナートはぽんぽんとあやすようになでた。
「そう言えば、ヴァネッサお姉様は領地でお留守番なのですね?」
ヴァネッサとは兄の奥さんである。
「ああローズ…普通、それは昨日の内に聞く質問なんだよ…。
まあいい。そうだよ。一か月も夫婦そろって領地を留守にするわけにはいかないからな。」
若干呆れ顔のお兄様は、そう言って家に入って行った。
結局、ローズマリーは古代魔法研究に忙しく、レオナートは慣れない本宅の執務に忙しく、公爵夫妻とルイスは隣国の情勢を把握するのに忙しく、家族皆、この一か月は目まぐるしく過ぎて行った。




