お兄様
ローズマリーには歳の離れた兄が二人いる。
長男のレオナートは既に結婚し、領地経営をして父を支えている。
現在は領地で過ごしている為、一緒には暮らしていない。
次男のルイスは数少ない竜騎士だ。
竜騎士はパルスやルフスと並んで国民の憧れの職業で、一族から竜騎士が出ることは貴族にとっても誉である。
竜騎士になる条件はたった一つ。翼竜とパートナーになること、それだけだ。
パートナーになるための具体的な方法もかなり単純だ。
翼竜の背中に飛び乗り、自分の魔力を直接流し込むのだ。
翼竜自身が受け入れるか、心臓近くにある魔核と呼ばれる器官まで到達するほどの量をたたきつけるように込めればパートナーになれる。ただし翼竜はとても攻撃的で、動くものを見ると攻撃してくる。
けれどもし攻撃をし返し傷つけてしまうと、その翼竜とは絶対パートナーにはなれないと言われている。
翼竜は群れで暮らす生き物の為、気付かれずに近づくのは至難の業である。
気付かれても攻撃をすり抜ける程のスピード、背中に乗ると振り落とそうとめちゃくちゃに暴れるので、振り落とされないだけの力、かなりの高度から振り落とされれば命を落とす可能性も高いので、風魔法などをとっさに使える魔法力、そしてなによりそれでも挑戦しようという胆力が必要である。
因みに卵から育てれば良いじゃないかと、かつて卵泥棒をした人もいるが、何度やっても卵から翼竜が孵ることはなかった。
翼竜はパートナーになると、生涯その人間としか暮らさない。番は持たないのだ。
そして、同時に2匹以上をパートナーにすることはできない。
竜騎士になると、翼竜と一緒に住める宿舎を与えられ、そこで共に生活することになるが、お金持ちの貴族など自前で一緒に暮らせる場所を確保できる者は、国に申請しさえすればそこで暮らすことができる。
だからルイスが竜騎士になった時、本来なら家族と離れて暮らす事になっただろうが、父公爵がとても喜び、ルイスとパートナーである翼竜リリーの為に、公爵家の敷地に専用の家を建ててくれた。
お蔭で、ローズマリーも毎日リリーと会うことができた。
「ただいまリリー、珍しいわね。貴方達の方が帰宅が早いなんて。」
お茶会から帰ると、玄関先でリリーが主であるルイスを待っていた。
毎日本館に帰宅の報告をしてから、一人と一頭の暮らす別館に移動するのが常なので、今帰宅したばかりなのだろう。
リリーの頬をなでてから、ローズマリーも家に入った。
家に入ると、メイドたちがバタバタしているというか、実際には教育の行き届いたメイド達は走ったり大きな声を出したりする事はないので静かなのだが、何だか空気が騒がしい。
「おかえりなさいませ、お嬢様。」
出迎えてくれたメイドも、何だか忙しない雰囲気を出していた。
「何かあったの?」
「はい。ルイス様に関係のあることですので、詳細はまた夕食の席で公爵様からお話があるかと存じます。」
「そう。」
基本的に自分に関係のない話は右から左なローズマリーは、大人しく自室に戻った。
夕食の時間、いつもローズマリーが先に呼ばれるので、長男であるレオナートが先に座っていて驚いた。
領地から帰って来たようだ。
メイド達が騒がしかったのは、それも一因だったらしい。
「お久しぶりですね、レオお兄様!お帰りなさい!」
座っているお兄様の背中に抱き着いた。
「やあローズ、ただいま。」
「領地から帰ってきていたのですね!」
「ついさっき着いたばかりなんだ。ローズは少しはお淑やかになったのかな?」
ローズマリーは首をかしげた。
お淑やか?…何それおいしいの?
である。
「そんなことよりお兄様、何か面白い核は見つかりまして?」
核、と言うのは人にも存在する心臓近くにある臓器機関で魔力が生み出される場所である。
魔物の核の場合魔核とも呼ぶ。
大型の魔物などの一部は、肉を解体する過程で石のように固くなった核が出てくることがある。
魔鉱石に少し似ているが、種によってまだらに模様が入っていることが一般的で、魔力を込めても入りにくくまた出しにくい為、普通捨てられる物なのだが、昔から魔法に関することには目がないローズマリーは、核を見つけるといそいそと自分の宝物入れに入れていた。
領地にいる兄は、領地を守るため時々周辺の森で害獣が増えすぎないように狩りをするのだが、毎回核が出ると可愛い妹の為に取っておいて領地に帰るたびに渡しているのだ。
「ああ、今回は予定外の帰省だったから、数はないけど一つ面白い核を見つけてね。ルイスには内緒にしてくれよ。翼竜の核なんだ。」
「まあ!楽しみです!」
ローズマリーもリリーは可愛いが野生の翼竜なら話は別だ。
これが翼竜愛の強すぎるルイスお兄様は、友を殺されたくらいの勢いで怒り狂うので、これは絶対に秘密にしなければ。
二人でそんな話をしていると、父と母それにルイスお兄様がそろってダイニングに入ってきた。
「おかえり、レオナート。領地はどう?」
「変りありませんよ。母上」
「久しぶりですね、兄上。少し太ったのではありませんか?」
「お前は…。相変わらずのようだな。」
軽口を交わしながら全員が席に着き、夕食が始まった。
食事の席で父は兄ルイスが婚約の打診を受け、取りあえず顔合わせをしてから婚約を受けるか決めると発表した。
もしも結婚するなら、相手は後継ぎのいない隣国の公爵家の令嬢なので、隣国に婿入りし、兄が隣国の公爵家当主になるようだ。
「何だか色々と信じられない話ですね。」
レオナートが困惑して言った。
通常ならありえないのだ。
公爵家の当主ともなれば、後継ぎがいなければ普通自国の親戚筋で用意するものだ。
おまけにこちらは希少な竜騎士である。
本来なら国王陛下が却下するような案件である。
「寝耳に水だ。陛下から少し情報は得ているが、取りあえず私とセレナは明日から一か月ほどルイスに付いて隣国に向かうので、その間屋敷を頼む。」
「事情を探ってくるのですね。分かりました。」
そんな話をしていたから、ローズマリーは自分には関係ないと、パクパク食事を進めていた。
母から爆弾発言を聞くまでは。




