非常識が常識
お茶会が終わって3日後、ブラントミュラー公爵は再び頭を抱えて唸っていた。
「もう、初めてのお茶会から無難に戻ってきたのですもの。そんなに心配なさらなくても大丈夫ではなくて?」
「だがなぁ、王妃とお茶会だぞ?今度こそあやつが暴走して周囲を呆れさせる未来しか見えん。」
「まぁ何か変な要求をしないよう、釘を刺しておかなくてはいけませんね。」
「変な要求?」
「あら、貴方にも言っているではありませんか。こないだのお茶会に行く時も、魔道具を貸してくれるなら行くとか。お菓子を食べないように言いつけたら、帰ってからお菓子を好きなだけ食べさせてくれたら、だとか。アルトゥールにも色々言っていましてよ。あの子要求には要求で答える癖があるみたいで。もし王妃様が得意な魔法を見せて欲しいなんて言ったら…」
「宝物庫の魔道具を一個貸してくれとか平気で言いそうだ。ああ、いくつ注意をしておかねばならんのだ!」
「あなたがあの子を隠し過ぎたせいですのよ。内々でも今回は断らない方が賢明ですもの。仕方ありませんわ。」
実はこの招待状、王妃から直々に呼ばれ圧を掛けながら直接渡されたのだ。
公爵は「この招待、断らないわよね?」と言う副音声を聞いた。
二人は困ったような顔をして対策を練った。
「お招きいただきありがとうございます。」
何で呼ばれたのか全く分からないまま、今私は王妃様のお茶会に来ている。
場所は王妃様の庭園付きの私室の一つで、内々のお茶会と聞いている。
丸いテーブルを囲んで向かいに座った。
「そんなにかしこまらないで。ブラントミュラー公爵が貴方を可愛がって外に出さないから、わたくし会ってみたかっただけですのよ。」
おほほと上品に扇を口にあて、笑った王妃様は噂通りとても美しかった。
噂と言ってもアルから聞いただけだが。
他に友達がいないので。
「私など取るに足らないような娘でございます。」
お父様のせいじゃないか!隠すから見たくなるんだ!と父に心の中で悪態をついた。
お茶会なんか行きたくないなんて騒いでいた自分は、とりあえず棚に上げておく。
ああ早く帰りたい…。
「とても聡明だと聞いていましてよ。魔法学がお好きなのですって?」
「はい、大好きです。今は古代魔法を研究しています。」
今日は父から魔法の話は解禁と言われているのだ。
正直王妃様と魔法の話で弾むとは思わないけれど、しても良いと言われているので、その話題が出ただけで上機嫌である。
単にこれを禁止したら、恐らく間が持たないとの母の判断だったのだが。
「まぁ、古代魔法はストラでも研究に行き詰っていると聞いていましてよ。何か、新しい事は分かりまして?」
「はい。魔法陣を現せるようになりました!」
ローズマリーは元気いっぱいに答えた。
「え?!」
それまで穏やかに話していた王妃様がびっくりした顔をして、扇を手に固まっていた。
そこへ、ノックの音が聞こえ誰かが入ってきた。
王妃様ははっと我に返り、にこやかな顔をした。
「いらっしゃいジーク。」
なんと入ってきたのは王太子殿下だった。
実はお茶会の次の日、王太子殿下と父は話をしたらしく、無事に魔道具をもらえたので、殿下には感謝しかない。
「こんにちは、ローズマリー嬢」
慌てて立ち上がろうとしたが、「どうぞそのまま」と言われ、座りなおした。
殿下は王妃と私の間に座り、私に微笑みかけた。
「お父様から魔道具はもらえましたか?」
どうやら、その後の話し合いで理由を聞いてしまったようだ。
普通に恥ずかしい…。
「はい。…理由をご存知なのですね。殿下には感謝しかありませんわ。良いように言って下さったのでしょう?」
「事実しか話していませんよ。それより、今日はお菓子は禁止されていないでしょう?
是非召し上がって下さい。」
「あ、…ありがとうございます。」
(私、絶対食いしん坊だと思われている…。)
ちょっと納得がいかない。
殿下とそんなやりとりをしている間、何事か考えていた王妃様が口を開いた。
「人払いを。」
王妃様が急に周りの人を遠ざけた。
そして腕に着けていたブレスレットに魔力を流し、何らかの結界が発動したのが分かった。
殿下は不思議そうな顔をしている。
「声を遮断する魔法です。ローズ、と呼んでも良いかしら?」
「はい、もちろんです。王妃様。」
「ねぇ、貴方さっき、古代魔法の話をしていたけれど、私の聞き間違いかしら。魔法陣を現すことに成功したと聞こえたのだけれど。」
「えっ?!!」
殿下も驚いて声を上げた。
「聞き間違いではありませんよ、王妃様。けれど、まだ魔法陣の解読は出来ておりませんの。現代の魔法陣とはまるで違いますもの。今はサンプルを集めているのです!」
二人はその内容に驚きすぎて固まっていた。
二人の反応には全く頓着しないローズマリーは思うままに話し続けた。
「でも古代魔法が刻まれた魔道具は私ではなかなか手に入らないので、そのサンプル集めすら難航しております。最初に見る事が叶った魔法陣が守りの魔法陣でしたから、性能の違ういくつかの守りの魔法陣を見る事が出来れば、少しは解読できるかもしれませんが…。殿下が父に良いように話してくれたお蔭で、また一つサンプルは増えたのですけれど、攻撃の補助魔法で全く何も解読できませんでした。」
魔法の事になると途端に饒舌になるローズマリーである。
「ちょ、…ちょっとまって、古代魔法の魔法陣はどのように見る事ができたのかしら?」
王妃様はとても真剣な眼差しだった。
「あの、もし殿下のつけているその腕輪が古代魔法の刻まれた魔道具ならば、魔法陣を直接お見せできるかもしれません。」
実はお茶会の時から気になっていたのだ。
少しデザインが古臭く、意匠がすり減って少し崩れていた。大きな魔鉱石には魔法陣が見えない。
これらは全て古代魔法の魔道具の特徴なのである。
もし、最初のお茶会の時、魔法の話が禁止されていなければ、確実に殿下に直接聞いただろうし、見せて欲しいとおねだりしたはずである。
公爵が魔法の話を禁止していなければ、確実にやらかしていたであろう。
だけど、今回のこんなチャンスをローズマリーが逃すわけがないのである。
王妃様が真剣な眼差しで話しかけようとも、ローズマリーはローズマリーだった。
「確かにこれは古代魔法の魔道具で、守りの魔法が刻まれています。」
「では、殿下は魔力のコントロールがお得意ですか?」
「一応私は魔法学の家庭教師にコントロールは褒めてもらえていますが…」
殿下が少し自信なさそうにそう言った。
「ではやってみましょう。これは二人いないと無理なのです。」
そう言って、殿下にやり方を説明し手を合わせた。
テーブルに置いてもらった腕輪に、二人同時に魔力を流した。
「「!!」」
「…これが…古代魔法の魔法陣…。」
二人は呆けていたが、ローズマリーは目をキラキラさせていた。
「まあ!これ我が家にあった指輪の守りの魔法陣と少し違いますわ!殿下、その魔道具は何か特殊な効果があるのですか?」
暫く呆けていた殿下が、話しかけられはっとした。
「と、特殊と言えば特殊かな?これは常時発動なんだ。」
「つまりつけている限り発動していますのね?素晴らしいですわ!!この違うところがきっと常時発動に欠かせない部分なのですわ!!ああ早く帰って試したいわ!!」
ローズマリーはほぼ無意識にかなり失礼なことを叫んだ。
王妃様のお茶会で、早く帰りたいと叫んだ令嬢はきっと初。




