王妃
「母上。失礼します。」
ジークバルトはお茶会の後、来るように言われていた母である王妃の部屋へ入った。
「こちらへいらっしゃい、ジーク。お疲れ様でしたね。」
豪奢な一人用のソファに深く座り、お茶を飲んでいた王妃が手招きした。
ジークが向かいに座ると、すぐにメイドが紅茶を置いた。
メイドの顔を見て、ジークははっとした。
ローズマリー嬢と何か話していたメイドだったのだ。
きっと母は既にお茶会の報告を色々なところから受けているのだろう。
「お茶会はどうだったかしら?」
機嫌が良いのかとてもにこやかに聞かれた。
「とても疲れました。特にクリスティアーナ嬢が苦手で…」
こういう事ははっきり言っておかないと、婚約者にされてしまってはたまらない。
「ほほほ。そうでしょうね。母もあまり好きな娘ではありません。」
「そうなのですか?」
「他人への配慮が出来ない娘など、目上の者にいくら阿ようと懐には入れません。
後々問題の種にしかなりませんからね。」
クリスティアーナ嬢は、私だけでなく母にも色々と気を遣い季節の挨拶や贈り物をしていると聞いている。
彼女は押しが強く苦手なタイプではあるが、高位貴族特有の根回しは既に身に着けていて、将来こういったことが上手な人が自分の伴侶に宛がわれるのだろうと思っていたのだ。
この言い方なら、婚約者にされる事はなさそうだ。少し安心した。
「それより、ローズマリー嬢はどうでしたか?
公爵が可愛がって表に出さないでしょう?
仲のいい令嬢も一人もいないから、人となりがまったく見えてこないの。
人付き合いは出来るのかしら?」
「話した感じは普通でしたよ。
そういえば、メルロー家の長男…ええとアルトゥールでしたか、彼と仲良さそうに話していたのを見ましたが。」
「ああ、魔法学のつながりでしょうね。
彼女のうわさと言えば聡明で恐ろしく魔法の才能に長けている、くらいしかないもの。
メルロー侯爵は侯爵家を次男に継がせるんですって。
長男は魔法学にのめり込んでいて、将来はストラになると言って聞かないのだとか。」
「では、彼女も魔法学が好きなのでしょうか。
魔法の話はしませんでしたが。
と言うか…あまり話してはもらえませんでした。」
「彼女が気に入ったのね。」
「母上!そう言うのではありません。」
変な勘違いをされて顔が赤くなったのが自分でも分かった。
何だか妙に気恥ずかしい。
「ほほほ。ええ、分かっていますよ。
でも彼女の事で、私に伝える事があるのではなくて?」
「どうせ母上はメイドから聞いているのでしょう?」
「ほほほ。貴方から直接聞きたいのよ。」
「…ローズマリー嬢がお茶を褒めていましたよ。
希少な茶葉だったのですね。ありがとうございます。
後、私が選んだお菓子も、母上にアドバイスされて口どけが良いものを選んだことに気が付いてくれました。」
「彼女は確かあなたより3歳下でしたね。まだ6歳でそこまで気付けるなんて、聡明さは噂通りのようね。」
そう言って母は紅茶を飲んだ。
もう空になったようで、メイドにお代わりを頼んだ。
お茶を入れに来たのがあのメイドだったので、思わず話しかけた。
「…貴方はお茶会でローズマリー嬢にお茶を淹れていたメイドだね。
彼女と何か話していたみたいだけど、何を話していたの?」
「お茶の腕を褒めて頂いたのです。紅茶の味が分かる方のようでしたので、僭越ながらローズマリー様のお茶を担当していたメイドと途中で交代したのです。
私は王妃様より紅茶の腕のお墨付きを頂いておりますので。
ローズマリー様にもご満足いただけたようで、安心いたしました。」
「そうだったのか。」
母はその報告を既に聞いていたのだろう、やり取りをにこにこと聞いている。
「あなたも少し興味を持ったようだし、私も会ってみたいわね。
お茶会に招待してみようかしら。」
母は上機嫌でそう言った。




