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ヘルマン・ブラントミュラー



私はヘルマン・ブラントミュラー。

この国の宰相をしている。

私の家は代々続く公爵家だ。

嫡男として生まれた私は当然、家庭教師がつけられ英才教育を受けた。


だが私が両親を初めて喜ばせたのは、勉強ではなくその魔力量だった。

家族の中で一番強かった父親に、勝るとも劣らない魔力量を当時から持っていた。

それは公爵領の領主になる人間には不可欠であったが、城の文官になりたかった私にとっては得にも損にもならない事だった。


「領主には弟がなればいい。私は城の文官になりたい。」と言った私に、父は5年の猶予をくれた。「5年の間に文官として何かしらの結果を残せば、私はそうせざるを得ないだろう。」と言って。


ただ働いたのでは結果は残せない。

皆ちゃんと働いているのだ。

そこで、仕事をする傍ら、国内の問題事を独自に調査し対策を考え、それが効果的か自ら検証を行うなど精力的に動いた。

そしてある程度の成功が見込める物は、その結果を報告する。

そんな地道な仕事が功を奏し、当時お歳で引退を考えていた宰相の目に留まり、私は次期宰相候補に任命され、結果を出した。


しかし問題は領主の方だった。

弟は私が継ぐ物と思い込んで遊び呆け、領主としての仕事が全くできなかった。

そこで父は自分が生きているうちに早く領主となれる後継ぎを作るように、私は父の怒涛の婚活作戦に巻き込まれた。


その時障害になったのが、私の魔力量である。

魔力量はほぼ遺伝である。

だが、パートナーとの魔力差が少なければ少ない程、子供の魔力量が両親を超える可能性が高くなる。とは言え、両親ともに少なければ、大して高くはならないが。

逆に差が大きければ大きい程、魔力量は少ない親の遺伝を強く受け、少ない方と同程度の子供しか生まれない。

平民に魔力を多く持つ者が少ないのはそのせいである。

貴族が平民に手を出し孕ませても、その子の魔力は平民と同程度しかない事が殆どなのだ。

あっても平民の親の少し上、くらいのものである。


その為高位貴族程、相手の地位より魔力を重視する。

だが私の魔力量に釣り合う貴族女性がいなかったのだ。

私は早々に諦め別にそこそこの魔力量の令嬢で良いじゃないかと言ったが、私の魔力量を諦めきれなかった父は他国まで足を延ばして探し回った。


そこで見つけたのがセレナである。

彼女はハーフェンの第二王女だった。

小国であるハーフェンは、婚姻によってしか自国を守る術を持たない。

第一王女が既に大国であるソルモリスの側妃になっていた為、第二王女の嫁ぎ先はしぼられていなかった。

その為、悪くない選択肢として私との婚姻は結ばれた。


セレナは不思議な女性だった。

気位は王族なのに全くない。

むしろ私に傅き私の居心地を一番に配慮する。

仕事が忙しくなかなか家に帰れない私に、悋気を起こすどころか体を心配し、帰宅が何時であろうと起きて出迎えてくれる。

仲良くなるのは必然だろう。


子供達はもちろん多大な魔力量を持って生まれた。

特に多いのが末の娘だった。

多すぎる魔力のせいで望まぬ結婚を強いられる可能性もあり、最初はそれを悩んだが、そんな悩みは娘が大きくなるにつれてどうでもよくなった。

それ以上に問題を次から次に起こすからだ。

普段穏やかな妻も般若になるのだと知った。


屋敷からお嬢様が消えたと緊急連絡が入り探し回ったら、市井の公園で、しかも粗末な服を着て、同じ年頃の子供と走り回っているのを見つけた時は、幻覚を見ているのだと思った。


それからはメイドを中流階級出身の者に替え、決して目を離さぬように指示した。

だが、なぜか娘は簡単に脱走する。

魔力の動きは、そこそこ敏感なはずのメイドでさえ、気付かぬ内に何かしらの魔法を使われているのだ。

市井に下り平民のふりをする娘が、犯罪に巻き込まれやしないかと、心配で胃に穴が開きそうだ。


信用がありそこそこの腕前を持つ冒険者に護衛を依頼したが、誰を付けても未達成に終わった。

途中からギルドが威信をかけて冒険者の選出をしたが、結局帰宅まで護衛を完遂した人間はいない。


そんな話をつい陛下にしたら、陛下は面白がって“影”の教育に使おうなどと言い出した。

“影”というのは隠密系の魔法に特化した、いわゆる諜報員のような物で、立場的には王族近衛の分類だが、その存在は秘匿され知る者はごく少数だ。


仕事内容はそれこそ他国の諜報や要人警護など多岐に渡る。

確かに影ならば、身元はしっかりしているし腕前もそこらの冒険者は足元にも及ばない。

どの道、娘を護衛できる人間がいないのだ。

要人警護の練習台と言えば聞こえは悪いが、その実手練れの騎士に護衛をしてもらえるんだからいいじゃないかと自分を納得させた。


そうして訪れた試験運用の日。

漸く初めて、ローズを帰宅まで見届ける護衛騎士が現れた。

まさかその日に、刺青を刻んで帰ってくるとは思わなかったが。

私は彼女が刺青を入れたいと言い出した時から、いつかこうなる予感はしていた。


予想よりはるかに早かったが。

セレナは泣いていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 過去に出来てたことが現在出来ないのは敢えて継承させなかったか、怠惰の末退化したかのどっちかだよね。
2021/12/28 21:24 退会済み
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