路地の先にあるもの
「よし!じゃあローズも来たし遊ぼうぜ!」
リーダー格の男の子がそう言って、私も仲間に加わった。
平民の子供の遊びは、おもちゃもないのにとても多種多様だ。
たくさんのルールを作って何でもゲームにしてしまう。
年齢も様々いる中で、ハンデを設けることで皆が遊べるように考えるのは本当に凄いと思う。
私も夢中になって遊んだ。
午後三時、公園にある時計塔の鐘がなると皆帰り始める。
皆、家事の手伝いがあるのだ。
ミルカの家で元の服に着替え、お金が残っているのでお財布は借りたままバイバイとミルカとも別れた。
私もそろそろ帰ろう。
最近はメイド達も両親も諦めたのか、連れ戻される事はなくなった。
ただしお説教だけはなくならない。
もうそろそろ諦めればいいのに。
怒られると分かっている場所へ帰るのだ。
この屋敷への帰りの道が、酷く進まない。
貴族街は商業区画を越えた先にある。
皆で遊んだ公園を通り過ぎ商業区画に入る前、ふと遊ぶ前に見た不思議な建物を思い出した。
男性が入ろうとしても弾き飛ばされていたあの建物である。
細い路地の入り口に近づきもう一度、遠見の魔法を使ってみる。
その建物まで誰もいない。気配も感じない。
私はごくっと喉をならしてその路地に入って行った。
男の人が尻もちをついていた辺りを通ると、何か生暖かいものを通り抜けるような感覚がした。
男性が入ろうとした建物は、見るからにボロボロのあばら家だ。
けれど、ローズは最初からこの建物に違和感を覚えていた。
「これは…違う。こんな形じゃない。」
それに男性が弾かれた壁をローズははっきりと感じていた。
手を伸ばしてそっとその壁に触れてみた。
ゾワゾワする。
何だろう、これ?
暫くゾワゾワする感覚を確かめた後、遠見の魔法を使ってみた。
「わあ!立派な建物!」
私は驚いて叫んだ。
そこに映っていたのは、あばら家とは似ても似つかぬ形状の立派な建物だったからだ。
「うちに何か用かい?」
急にどこからか嗄声がした。
きょろきょろ辺りを見回すけれど誰もいない。
私は首を傾げた。
「はあ。まあいいさ。入んな。」
またどこからか嗄声がしたと思ったら、自分の全身が何か生暖かいものに包まれているような感覚がした。
すると、目の前の建物が遠見の魔法で見た建物に変わった。
私はきょろきょろと見回しながら、恐る恐る中に入った。
「子供がうちに一体何の用だい?」
黒いブカブカのフードを被った、物語に出てくる魔女のような出で立ちのおばあさんが出てきた。
「おばあさん誰?」
「それはこっちのセリフだ。ふむ、うちを知っていて来たわけじゃないみたいだね。じゃあさっさとお帰り。」
「ああ!!おばあさん彫師だ!!」
私は叫ぶようにそう言った。
この部屋は「魔法学の歴史」の刺青のページ冒頭にあった、あの挿絵にそっくりなのだ。
「おばあさん、結界魔法って刻める?」
「そんなもの朝飯前さ。」
「やったぁ!!じゃあここら辺にお願いします!」
ローズは満面の笑みで自身の肩の付け根あたりを指差した。
「あんたに刻むのかい?!」
おばあさんが目をくわっと見開いて驚いたようにこちらを見た。
「私以外に誰がいるの?」
ローズはコテリと首を傾げる。
「あんた、どう見たってまだ子供じゃないか?!親は?」
ローズはむぅっと頬をむくれた。
「子供には彫ってくれないの?」
「いや、別にそうじゃないが…。その格好、あんた貴族じゃないのかい?」
「はぁ。細かいことを気にする人なのね?」
私が腰に手を当て、ため息を吐いてそう言うと、おばあさんが頭を抱えていた。
「最近の子は…こんなのがいるのかい。」
「それより、結界魔法って言ってもね、私がちょっとアレンジしたやつなの。出来るかしら?書くものを貸してもらえる?」
「魔法のアレンジだって?!あんたがかい?」
驚きつつ、紙とペンを渡された。
私は足場の結界魔法の魔法陣を書き上げた。
この魔法は詠唱では少し複雑なので、時間がかかり不便なのだ。
屋敷の塀を飛び越えるなら、足場を最低でも3段以上は作らなくては越えられないのに、詠唱なんてしていられないのだ。
いや、今日もそれで出てきたのだが。
「なるほど。これは…。」
そう言いつつおばあさんは護符で発動させて魔法を確かめている。
「変わった魔法だねぇ。まあいいさ。お金はあるのかい?」
「ええ。勿論。」
「なら問題はないね。あんたはまだ子供だから、小さく細かく刻まないとね。
言っておくが痛いよ。耐えられるかね?」
「刺青が入れられるのなら、痛いのくらい我慢するわ。」
言われた金額を支払い、刺青を入れてもらっている間に、軽く世間話をした。
どうやら、この家に入るのにはルールがあったらしい。
今度からはちゃんと守るように言われた。
私が貴族の、それも公爵令嬢だと話すと腰を抜かさんばかりに驚いていたけれど、後日このおばあさんが、貴族からも依頼が来るほどの知る人ぞ知る超有名な彫師と知って腰を抜かしたのは私の方だ。




