表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/274

不思議な路地

元々SSとして2章に書いていた物です。

殆ど変えていません。



翌日。

今日は珍しく、近くに魔力がない。冒険者はいないらしい。

撒く手間がない。


よし、脱走しよう。


いつものようにメイド達の目をくらまし、屋敷の塀を越え市井に下りた。

ミルカの家に着き、彼女の服に着替え平民になりきる。


「ねえ、今日はこの生地を売るの?」

「うん。どう?高く売れそう?」


冒険者のお手伝いで時々お小遣いを稼いでいるけれど、着られなくなったドレスの生地やレースを売る方が遥かに良いお金になると知って以来、時々こっそり持ち出しては売っている。

一着持ち出すのは流石にバレそうだし、そう頻繁にも出来ないけれど。

だからどうしてもちょっとまとまってお金が欲しい時に、もう着られなくなったドレスを自然とほつれたように糸を切り、洋服の一部だけを持ち出すようにしている。

まぁ何となく、ちょっとバレているような気はするんだけどね。

この産着も、なぜか最近見つけたし。


「うん!!すっごいね!この生地!こんな滑らかで柔らかい布触ったことないよ!

おまけにめっちゃくちゃ可愛い柄!どんな染め付けをしたらこんなに細かくて綺麗な柄になるの?」

「なら良かった。それ私の産着だったんだって。私は覚えてないけど。」

「当たり前じゃん。」


真顔で言われた。

だよね。


「それで、何を買うつもりなの?」

「ちょっと刺青を入れたくて。」

「…は?」

「彫師って言うのがいるんでしょ?」

「う…うん。」


ミルカは若干顔がひきつっている。


「私、刺青入れたいんだー。」


言いつつ顔がにやけてしまう。


「え、え、お貴族様って、刺青ってしても良いの?」

「皆しているわよ?」

「え、でもお貴族様の手に刺青があるなんて聞いたことないし、市井の彫師を尋ねている所だって見たことないし。」

「ああ、それはだって、貴族って見えない所に刺青を入れるから。

あと普通は刺青師って職業についてる貴族に頼むものらしいから。」

「ローズはそっちに頼まないの?」

「お父様達に反対されたんだもの。仕方ないじゃない。」

「ええ?!反対されたらやっちゃダメじゃん!!」

「ええ?だってミルカだって刺青してるじゃん。」

「いや、両親に反対なんかされてないし。ってか勧められたんだし。むしろ大喜びだし。

大体これは生活に必要だもの。ローズは絶対必要ないじゃん!」


ミルカの右手の平には炎の生活魔法が、体の核の近くには水の生活魔法が刻まれている。

平民の中でも2つの生活魔法を刻む者は少ない。

単純に刺青を刻むお金がないとか、刻んでも一日に発動できるのがどちらか片方になるくらい魔力が少なくメリットがあまりないとか、理由は様々だ。

ミルカの魔力量は一般的な平民の魔力量と比べると少し多い。

そしてミルカの父親が城の門衛をしているお陰で、少しだけ生活に余裕がある。

この2つの要素が重なり、彼女は幸運にも2つ生活魔法を刻んでいる。

平民の女性で火と水、この2つの生活魔法が使える女性はかなり結婚に有利だ。

ミルカはモテモテの女の子なのだ。



「ミルカー、遊ぼうぜ!」


家の外から、男の子の呼ぶ声が聞こえた。


「あ、カールだ。いいよー!ちょっと待ってて!」


私は慌てて着替えをすませ、ミルカの貸してくれた風呂敷に、売りに行く生地を包んだ。


「あ、ローズもいたのか。」


二人で外に出ると、小柄でひょろっとした男の子が立っていた。

ミルカの幼馴染のカールだ。


「うん。でも今日は生地を売りに行くから。」

「付き合う。終わったら遊べるんだろ?」


カールと話しながら、いつもの公園へ向かって歩き出した。

いつも生地を売りに行く店は公園の向こう側にあるのだ。


「ねえ、腕の良い彫師知らない?」

「ん?刺青入れるのか?」

「うん!」

「水?火?」

「結界の魔法陣!」


「「は?」」


二人は仲良く固まった。


「あ、そっか!ローズはお貴族様だもんね。生活魔法じゃなくて、身を守る魔法陣を入れるんだ!

ああそう言うことかぁ!」


すぐに復活したミルカがそう言った。


「身を守るためじゃないけど。ねえ、知らない?」

「結界なのに身を守るためじゃないの?え、それって結界なの?」


ミルカは混乱している。


「んー俺達が知ってるのは生活魔法専門だからなー。

ローズが言ってるのは冒険者が利用する彫師だろ?

ギルドで聞いたら教えてくれんのかな?」

「どうだろうね?」


そんな話をしながら歩き、公園についた。


「じゃあ私、これ売りに行ってくるから、二人はここで遊んで待ってて。」

「一緒に行くよ?」

「いいよー、一人でやってみたいの!」


もう既に走り出しながらそう言って私は手を振って二人と分かれた。




ギィィィ…


立て付けの悪い扉を開くと、気難しそうなおばさんがギロリと私を見た。


「おや、今日は一人かい?」

「うん。今日はこれ、売りたいの。」


そう言って持ってきた生地を広げた。


「いつも思うけど、こんな上等な布どこから手に入れてるんだい?」


おばさんは眉間に皺を寄せ、疑わし気な目をしてこちらを見た。


「私が使ってた産着よ。もう使わないもの。」

「!!あんたやっぱりお貴族様なのかい?!」


そう聞かれて、返事に悩む。

確かに貴族だけれど、ミルカにそれはあまり言ってはいけないと言われているのだ。


貴族の子供は犯罪者に狙われ易い。

身代金を狙われるのではない。魔力を狙われるのだ。

歳が小さければ小さいほど喜ばれるらしい。よくわかんないけど。


「うーん。おばさんは悪い人じゃないし良いよね?

そうだよ。貴族なの。それでこれ、いくらになる?」


暫く固まったまま動かないおばさんにもう一度同じことを聞くと、はっとしたおばさんは急に周りを気にしだした。

しまいには戸を開けて外の通りをキョロキョロ見ている。

店に戻ってくるとしっかり扉を締め慌てたように言った。


「あ、あ、あ、あんた、ちょっと危ないじゃないか!!!

人さらいにでもあったらどうするんだい!!さっさと帰んな!!」

「大丈夫よ。魔法が使えるもの。」

「人さらいの中には魔法が使える者だっているんだよ!!」


どうやら物凄く心配してくれているらしい。


「ふふ、おばさんってやっぱりいい人ね。カールは気難しくておっかない人なんて言っていたけど、私には優しい人にしか見えないもの!心配してくれてありがとう。」


にこにこしてそう言うと、びっくりしたような顔をしていた。


「ねえそれで、これ。」


かなり動揺しているらしいおばさんに、私は布を摘んで早く査定してと催促した。


「あああ、そうさね。こんな上物私じゃ捌けないよ。もっとウチより上等の商店じゃないと…」


私の顔を見て、困ったようにおばさんは言った。


「ううん、私売るならおばさんが良いわ。少し安くても構わないの。」

「嬉しい事を言ってくれるねぇ。だけど…」


そう言っておばさんは難しい顔でそろばんを弾き始め、しばらくして結果を私に見せた。


「うちじゃこのくらいにしかならないよ?」

「え、めっちゃ高い!」

「何言ってるんだい!この生地なら、もっと高級なとこなら、きっとこの倍近くはくれるはずさ!

だけどうちにくる客層じゃ、そんな高い生地誰も買えないからねぇ。

高級店に転売するにしたってうちじゃあ足元を見られるから、これ以上は高くしてあげられないよ。

どうする?他所で売るかい?」


それには答えずに、更に質問で返した。


「ねえ、冒険者が使う腕の良い彫師のお店って知らない?」

「そんなの知ってどうするのさ?」

「金額も知りたいの。この服の金額で一つくらい刻める?」

「ああ、一つと言わず2つくらいは刻めるだろうさ。

うちには冒険者なんてめったにこないから腕のいい彫師なんて知らないけど、刺青の金額なんてどこもそんなもんさ。」

「じゃあ換金をお願い。」

「はあ、いつも一緒にいる子供らはどうしたんだい?

あんたみたいなチビ一人じゃ危ないよ。

こんな大金持ったお貴族様の子供なんざ、さらってくれって言っているようなもんじゃないか。」


おばさんは私にお金を渡しながら、ずっと心配そうに見ている。

眉間に皺があるのがデフォルトの人なので、きっとカールが見たら睨まれているとしか思わないだろうな、なんて思いながら私はお金を服の中に隠している財布にしまった。

このお財布もミルカに借りたものだ。

心配するおばさんにバイバイして店を出ると、真っ直ぐ公園に向かった。


もう後一区画で公園にたどり着く所で、不意にぎゃあとカエルを踏み潰したような小さな悲鳴が聞こえた。

今自分が歩いている道から、横に伸びるこの細い路地の奥からのようだ。

ミルカ達には絶対に細い路地には入るなと言われている。

私は少し悩んで一歩前に進み呪文を唱えた。


イプス・オクルス(我が目に) ミッテーレ(送れ) ロッジ・スカイナ(離れた景色)


最近覚えた遠見の魔法だ。

この魔法は遠く離れていてもまるで目の前にあるように見えるのだ。

壁に囲まれた中の物を見ることは出来ないが、曲がり角くらいなら問題ない。

映し出された景色は、一人の男性が尻もちをついているだけ。


こけちゃったのかな?


暫く観察していると、男性は立ち上がって目の前の建物に向かって行った。

けれど、建物の入口まで来ると、何かに弾かれて先程尻もちをついた場所までふっとばされている。

男性は肩を怒らせて、何かを叫んでいる。

映像しか届けてくれないので分からないけれど、魔法陣が現れた事で男性が魔法を使ったのだと分かった。

けれど、その魔法は発動直前に男性の方に方向を変え、炎の球が男性に向かって飛んだ。

男性は一目散に逃げ出した。


「あ、やばい、こっちに来る。」


慌てて私は魔力を切って公園に走った。


「あ、ローズ!終わった?」


見るといつも一緒に遊んでいる子供たちが集まっていた。


「うん!」


さり気なく後ろを振り返ると、さっきの男性が路地から飛び出し通りの向こうへ走り去っていくのが見えた。

ほっと息を吐き、皆のところへ走っていった。



ミルカの「お貴族様の手に刺青があるなんて~」と言う発言は貴族令嬢について言っています。

対してローズの「皆している」は騎士について言っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ