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もちろん建て前



「まずは、おめでとう。

冒険者になって、たった5日で翼竜を手に入れるなんて、流石だね。」


そう言って、ジークが手放しで褒めてくれた。


本当は3日だけど。


「ありがとう。思ったより上手くいってよかったわ。」


「名前は?」


「バルトよ。」


「いい名前だね。スラウゼン公国時代の英雄の名か。

うん、よく似合っている。」


そう言ってジークはバルトを撫でた。

私が彼に気を許しているのが伝わるのだろう、バルトもくんくんと鼻を動かしながら顔を近づけ、ジークを興味深そうに見ている。

ジークが頬を撫でると、バルトは気持ちよさそうに目を閉じた。

暫くバルトを愛でた後、テーブルに移動してお茶を飲んだ。


久しぶりに会ったので、お互い近況を話した。

婚約者として毎日のように会っていた時は、のんびりお茶を楽しむことが多かったけれど、修道院に行ってからは本当に数回、しかも少しの時間しか会えなかったので話が尽きない。

そうして暫く話していたけれど、長い付き合いなので本題があることは会ってすぐ気付いていた。

けれどしばらく待っても、ジークは一向に切り出さないので私から切り出す事にした。


「ところでジーク、何か用があるのではなくて?」


「友と言うのは何もなくても会いたいと思う時に会うものだろう?

…と言いたいところだけれど、そうなんだ、ちょっと頼みたいことがあって。」


ジークはちょっと困ったように眉根を下げて言った。


「何かしら?」


「それを伝える前に、ローズの次の目的を聞いても良いかな?」


「次の目的?」


「君の事だ、移動手段を手に入れたのだから、国内にいるつもりはないのだろう?」


「ええ、ふふ、流石ジークはお見通しね。

ハーフェンとソルモリス、テラマグナには一度行くつもりよ。

最終的にフィノイスには行くけど、今はまだ行く予定ではないわ。」


「では、これを。」


そう言ってジークは、何かを握っているであろう手をこちらに差し出した。

促されるまま私は手のひらを上に向けて差し出す。

そうして手に乗せられたものを見ると、それは王家の紋章が刻印された指輪だった。

一瞬結婚指輪かと思ったが、違う。

結婚指輪にはついているはずの物がない。


「これは?」


「王家とつながりがあることを証明する指輪だよ。

近隣諸国はもちろん、我が国と国交のある国の王家なら、それを見せればそれなりに大事にしてもらえるはずだ。」


「そんな、どうして…?」


「その、…言い辛いんだけど…、君が結婚直前に冒険者になったのを、国内だけでなく他国まで、どうも私側に問題があったからだとか、そう言う風に思われているようで…。」


「あ!ああ!!そういう…!!」


私はがっくりと肩を落とした。

つまりジークは花嫁に逃げられた情けない男になっているのだ。

実際そうなのだが、私自身がどうしても冒険者になりたくて、なっただけに罪悪感がこみ上げる。


「ごめん!!ジーク!!

決して貴方が嫌いとか結婚したくないとかそういう事じゃないのよ!!」


そう言うとジークはくすくす笑っていた。


「分かっているよ。」


優しい顔で私に言った。

結局周りがどう思うかなのだ。


「つまり、ずっとこれをつけて周っていればいいのね?」


「そういう事。大した効果はないかもしれないけれど、君の評判が良かっただけに、今我が王家はちょっと風当たりが強くてね。

ああ、君を責めているわけじゃないんだ。

こう言う噂はどのみち時間が経てば解決するし、他国から私への見合い話が来ない分私には都合が良いんだけどね。

王家としては放置できないから仕方がないんだ。」


ジークは相変わらず優しい顔で私を見ている。

私の評判が良いと言う事には首をかしげるが、どちらも特に問題がない二人なら、残った方が矢面に立たされるのは当然なのかもしれない。


私はもらった指輪に視線を落とした。

指輪はとても幅があって、つければ指の付け根から第二関節のすぐ下まで覆うだろう幅である。

全て金属で指を覆うわけではなく、植物のつるの様に細く繊細な意匠で、まるで編まれているように隙間がたくさん空いている。

中央にはロザイン王家の紋章と純度の非常に高い魔鉱石がついている。

けれど結婚指輪のように、相手の血液を閉じ込めた真っ赤な石はついていない。

この大陸のほぼ全ての国の、結婚にまつわる装飾品には、相手の血液を込めた石をつける風習がある。

我がロザイン王国とお隣のフィノイスは指輪にその石をつける風習があるのだ。

結婚指輪と勘違いする者はいないだろう。

私は右手の中指に嵌めてみた。

植物のつるが、指に絡んでいるように見える。

同時に魔力が吸われる感覚がして、自分の周りに守りの結界が発動したのが分かった。


「これ…守りの魔法陣が刻まれているの?」


「うん。アルの特別製だよ。

常時発動だからできればずっとつけていて。」


「ありがとう、ジーク。

アルにもお礼を言わなくちゃね。

何時の間に二人は仲良くなったの?」


ジークの、アルトゥールの呼び方が愛称に変わっている。


「別に仲良くはない。」


そう言ってジークは急に不機嫌そうな顔をした。


「そう?ふふ、まあいいわ。

じゃあ、そうね、次はハーフェンに行くわ。

お母様の実家に、この指輪をつけて挨拶に行ってきます!」


元気よく、命を受けた騎士のポーズでジークに告げる。

お母様の実家はハーフェンの王家だ。

お母様はかの国の第二王女だった。


「そうしてくれると助かるよ。

あそこが事情を知ってくれれば、ソルモリスにも伝わる可能性もあるし、そうなれば各国に広まるのは早そうだ。」


そしてお母様の姉である第一王女はソルモリスの第三側妃だ。

王妃よりも王の寵愛を受けていると聞いている。


「ええ、上手くいくかは分からないけれど、どの道行く予定だし。

あそこだけは王族に会うつもりだったもの。

他の国は冒険者として行くから、指輪をつけて周っても話はあまり広がらないと思うけれど。」


「そうかな?君は何だかどこに行っても、王族と会う事になりそうな気がするけど。」


「もう、ふふ、そんなわけないじゃない。

もうただの冒険者なんだから。」


ジークは冒険者を何だと思っているのかしら。

そんなにほいほい王族に会えるわけないじゃないの。


ねぇ?



もちろんローズは気付いてない。

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