プロローグ
私には、歳の離れた三人の子供がいる。
長男は昨年結婚し、次男は今年、晴れて竜騎士となった。
遅くに出来た末っ子長女はまだ4歳の可愛い盛りだ。
男親にとって娘は可愛い、と出来る前から周りに聞いてはいたが、出来てからはそれを実感する日々だった。
このロザイン王国の宰相をしている私は、帰宅が深夜になるなど日常茶飯事なのだが、娘の「おとーしゃまおかえりなしゃい!」を聞くために、一時帰宅するほどには溺愛していた。
だがこの末っ子が、最近、
何と言うか…。
もう何と言うか…そう、おかしいのだ。
彼女は聡く、文字は2歳前から読み始め、4歳になった今は全ての文字を書けるし、まだ間違う事もあるが簡単な文章を書くことも出来るようになっていた。
あれは娘がまだ4歳の誕生日を迎えて間もない頃。
私の執務室に遊びに来た娘が、本棚に興味を示した。
興味深そうに見ていた娘に私は言った。
「絵本はないよ。」
彼女は残念そうにしながらも、本棚に近づき、一冊の本を出した。
彼女はパラパラとその本の中身を見た。
絵がないかを確かめたかったようだ。
「このえはなあに?」
その本は魔法学の本で、たくさんの魔法陣が載っていた。
「魔法陣だよ。その魔法陣を護符と言う特殊な紙に書き写して魔力を流せば、魔法が使えるんだ。さあ、もうその本を戻してセレナの所へ行きなさい。」
そう言ったが、娘は魔法陣の上に書いてある太字の文を指でなぞりながら文字を読み始めた。
それは下に書かれた魔法陣と同じ効果のある詠唱の文言だった。
魔法はただ詠唱をするだけではいかに魔力があっても発動はしない。
言葉に魔力を乗せる、と言う独特の工程があるのだ。
これは習得するまで少し苦労する。
人によっては何年かかかることもある。
だが一度できるようになれば、一生忘れる事がない感覚的なものだ。
だから私は、ちゃんと間違えずに読めている事を褒めてやろうとさえ思っていた。
だが詠唱が終わると、娘の前にいた私の足元に魔法陣が現れ、上から大量の水が降ってきた。
一瞬何が起こったのか分からなかった。
娘も分からなかったようで、大量過ぎた水が彼女にもかかって水浸しだったが、びしょびしょのまま呆けていた。
はっと我に返り、本を取り上げたが遅かった。
彼女は目をきらきらと輝かせて言った。
「おとうさま!まほう、おしえて!」