始まりの時
「大変申し上げにくいのですがあ。」
一列に並んだ九人の、丁度真ん中に立った一人が声を上げた。
「それ、我々に渡してくれたりぃ…しませんかねえ。」
長身のその男は倒れた少女に向かって話し続ける。
「我々もねぇ、感謝はしてるんですよお。この体は貴方様の力で生み出したんですものねぇ…。しかしい…」
「もーめんどいじゃん!ぶっ殺して奪い取った方が早いって!」
黄金に輝く美しい髪をかきあげながら、いかにも生意気そうな顔の少女が口を挟む。倒れた少女はこれを気にもとめない。それが気に食わないのか、金髪の暴言が再度飛び出す。
「もうテメェの創成は終わってんだよ!さっさと死んじゃえよ!」
「やめなさいまったくう。…あのですねえ、我々がいくら試してもそれクラスの美しい星は作れないんですよぉ…。できれば我々に主導権を譲って頂いて穏便にですねえ。」
「無理よもう。この方は私たちの裏切り、ずっと前から気づいてたみたいよ?」
「そのようですね。見てください。地上に彼女の創った命が…既に文明を持っています。そろそろ僕達が降り立たねば手遅れに…。」
産声を上げる太陽を背に、じりじりと少女を追い詰めていく。透き通るような肌に、流れる白い髪。白と黒が反転した瞳には、彼らの姿は写っていない。彼女の興味は既に九人に無いのだ。髪の間にチラリと見える黒い星がその異様な魅力をきわだてる。
短髪の男は、自分達を見もしない少女に嫌悪の表情を隠せずにいる。いつ拳が開かれてもおかしくないだろう。杖をついた老人はそれを宥めつつ少女を観察している。やはり彼女が見つめているのはその星だけのようだ。この状況でもワシらは眼中に無いのかとため息を一つ。
「その余裕のツラが崩れねぇのがムカつくぜ…。だがよォ、今のお前なら簡単に殺せるんだ。俺らの動きに気づいた時点で始末をしなかった自分を呪うんだな。」
「…わかりませんね。自らが朽ち果てようとしている今、この瞬間も僕達を無視できるなんて。」
少女の瞳は動かない。
「話になんねぇな。」
「主導権は今は諦めましょ。時間の無駄だわ。」
「…はあぁー、しかたないですねえ。恨まないでくださいよォ」
男が手を振りかざした瞬間、少女は跡形もなく消え去った。黒く巨大だった星は縮小し、そのうち無くなってしまった。
邪魔者が消え自由になったその者達は、やっとその星を視界にとらえた。
m(_ _)m