表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Cradle  作者: littlefinger
1/5

1話 ~料理の眠り~

若干シリアス展開から始まりますが、ミリタリ小説ではございませんのでご安心ください。


※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。※

挿絵(By みてみん)


 金属外皮を備えた凶悪な白色の塔、その切先が青空を捉える。


 朝鮮半島の北側の奥地、針葉樹の山間を抜けた先だ。


 4枚の羽を有し、鉄骨により支えられたそれは、先端に非人道的なエネルギーを発揮することのできる物質を搭載、息を殺して待っていた。


 塔付近、建屋内の一室。


 重大な決断を行うべく作られた薄暗の室内に浮かびあがるのは、飛行物体を捉えるためのレーダー、衛星や電波、それら軍事機密を表示するモニターであり、日本語ではない文字列で表記され、部屋でなされる会話・情報伝達についてもそれによって成立している。 


 作戦室などを兼ねるのであろうか、入り口である中央付近は一段高くなっており、ヘッドフォンを嵌めた通信兵と一人の上官が座ったまま責務を果たし、それとは対照的に周囲の十数人は忙しなく作業に追われている。


 *


 突如、通信兵の瞳に力が宿った。


 彼は強張った表情のまま何かを受取り、内容を聞き終えると耳のそれを外す。


 そして振り返り、その通信内容を正確に告げる。


 「特号009を受信!」


 報告を受ける上官は目深に帽子をかぶっていたために、その視線は隠されていたのだが、言葉を受けて現れた瞳は、細い針の切っ先を突きつけるかのようであった。


 「通信に相違ないのか?」


 「はい。各所へと発信された同時発令の暗号文を観測しています。先の報告に間違いはありません」


 彼は頷いて、席を立つ。


 右手で帽子を少しだけ上げ、左右に動かしながら被り直すと、正面にある銀色のスイッチを指令を告げるべく上げた。


 「全職員に告げる。先06:00時、特009号を確認。

 繰り返す、先06:00時、特009号を確認。


 我々が最初の槍を投擲することになった。戦時緊急発射体制を敢行!

 目標変更なし。標的、日本国国会議事堂!」


 室内を飛び交う音という音が短くなった。そして個々が必要な作業を最短かつ正確に行おうと努め、国家への献身を果たす。その強固な意思を持った空間は、真夏の炎天下のような息苦しさに満たされる。


 129秒後、彼の副官が一人。


 自動ドアを抜け入室し、駆け足で右前まで移動、敬礼するや否や報告する。


 「全発射体制完了!」


 「完了を了解。ケースを展開せよ」


 上官の重い声を受け、副官は右手に持つアタッシュケースを開いて机に置く。


 そのケース中央にはシリンダーが一つだけ存在しており、何かを起動させる為だけにあることが分かるだろう。


 上官はシャツの内側よりタグのついた一本の特殊キーを取り出して差し込み、シリンダーが縁取るライトが赤から緑に変わるのを確認する。


 彼は目を閉じて鼻から息を吸い---


 見開くと同時に咆哮、シリンダーは回された。


 「大陸間弾道ミサイル発射!」


 ---2030年2月のことである。


 *


 中国経済の大幅な失速を受けた韓国は、その輸出依存の経済を容易に崩壊させ、ドミノ式に政権が打ち倒されると民主主義が大きく後退した。


 そして2025年には、北朝鮮と共に韓国は朝鮮連合国という名の旗の下によって統一を迎え、その連合国、加えて中国とロシアの2大国である3カ国によって新共産軸は形成、2030年に大戦へと発展することになるのだが、その共産軸に対するのは、日本、アメリカ、EU、イギリス、オーストラリアという自由資本主義軸である。


 初撃の大陸間弾道ミサイルこそ日米の防空体制により阻まれたが、


 戦争突入より一ヵ月、


 日本はステルス爆撃機によって空爆を受け、日本の一部を赤く染めた。国民は怒りに燃え上がり、戦時特例法が成立。国を挙げた戦闘態勢へと移行していく。


 その戦時中の日本国民の様子であるが、前回の大戦のような徴兵制は行われず初期は大きな混乱を生じなかった。

 それもそのはず、現代兵器は高度にデジタル化・複雑化・専門化しており、短期間では取り扱うことなど不可能なためだ。


 また、新兵を混合した部隊の質的低下に起因する損耗率の上昇が作戦行動を制限する懸念と、政治家の一般国民への配慮とが合致した為でもあった。


 それにより、一定の不満の回避に成功したものの、異なる方向で国民の怒りが爆発することになる。


 それは…人間にとって最も基本的な行為である“食”に対してであった。


 自由貿易の流れで輸入依存度をさらに上昇させた日本の食料自給率は壊滅的なほど低下、その問題は開戦直後より指摘されていたのだ。

 そして開戦を経れば、スーパーに並ぶ食品は日に日に少なくなっていき、その指数関数的に上昇する食の危機を打開すべく政府は緊急輸入を試みた。


 しかし、南シナ海には中国海軍が、太平洋にはロシアの潜水艦が出没し輸入は難航、一部の空輸が成功するのみという散々な結果を残し、食材価格が大高騰すると家計は容易に崩壊した。


 そして各地でデモが発生する緊迫した状況下、政府はついに通称“食法”と呼ばれる法律(食事健全健康増進法)を制定する。


 物資は配給制となり、効率的な食の体制に向けた各種の予算、法律的根拠、権限、組織再編などが必要に応じて整えられた。

 特に配給食を決定する機関の中央研(中央総合料理研究所)と、法律・行政的な側面を持つ食産業省が設立され、新省は農林水産省と経済産業省の管轄下にあった飲食・生産などを取り込む形での設立である。


 実はこの法律、


 戦前より準備されていた秘密計画に従って策定されており、計画は官邸内で3Kと呼ばれていた。


 初期レポートの表題には“国民管理計画”という名前が綴られており、日本国が戦争を耐え抜くために、国民を強制的に一つの方向性に導くための狂気の計画である。


 その基本構想は食を通じて様々な欲望を減少させ、反発や批判を抑えること。

 加えて、現状の肯定感と供に、保守的で意思決定を他者に委ねやすくさせるというものだ。


 そんな荒唐無稽とも思えた食による国民改造計画は、一人の天才博士が開戦直後に強力な軸を与えてしまうのである。

 博士は政府の極秘要請により数年前から目的の物質を研究、ついには開発を成し遂げてしまった。

 そして、計画は食法(食事健全健康増進法)のレールに沿って円滑に実行されていく。


 さらに、開発された物質であるCM(Control Material:欲求管理剤)と呼ばれる物質を使わない食事を与党の限られた政治家などがすることで、心理的・精神的な活力の差を生み出し、強力なリーダーシップを作為的に作り出すことに成功。


 同時に、食によって引き起こされる様々な問題点である、肥満、高血圧、糖尿病などの生活習慣病を国民から根絶することで国の社会保障負担を大幅に減少させる。


 そして、本来の目的であった戦争には、2年ほど続いたのちに勝利したが、現代に至るまで依然として法律は効力を発揮したままである。


 さらに戦後、その狂気の計画については極一部の者が知るのみとなり、大反発必至な同法の根拠などは一般人には知らされることなどは決してありはしなかった。


評価等、頂ければ大変励みになります。よろしくお願い申し上げます。


 (サイト下部☆をクリックすることで評価いただけます)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ