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竜にプロポーズされたオバサンのお話し  作者: ねんねこねんね
7/23

竜神王


 本当にひっさびさの竜のドアップ!!

 なんだけれど、マンションのトイレで感じたドアップとは大違い!!


 あまりにも威圧的な感覚に、私は飛びあがって空間の隅の隅に逃げ出した。

 身体が勝手に震えだす。

 とにかく、怖い!!!

 睨みつけるような、ギラギラした視線を投げかけて来る銀青色の瞳。

 カッと開いた口に並ぶ鋭い牙。

 今にも食べられちゃいそうだわよ。

 肉食獣に睨まれたか弱い草食動物の気分。

 鱗は……ここから飛び立って行った竜の色。

 だから、多分、おそらく、私の見解としては、竜神王になった元竜王様だと思われるんだけど、元竜王の銀竜とは雰囲気がまるで別人! あ、別竜か。


 ”おまえは、何者だ?”


 驚いたまま固まった私に、空間にドスンと響き渡る声で竜神王と思われる竜が聞いてきた。

 

 え? 何? 何者? え……と、早く答えないと殺される~っと思って焦りまくり。

 何者? 何者?  え、と。え~~っと。


 …………私って、何者なんだろう?

 ん~~~~~~~~。ごく普通のおばさん?

 よねぇ。


 チッと舌打ちする音が聞こえてくる。


 ”何故、ここに居る!”


 何故? 何故と言われましてもですね。

 え~~~~~~話すと長くなりますが…………。


 ん? どこから話せばいいのだろう!? 

 

 竜神王が生まれ変わる前には竜王でぇ。その竜王が私の所にやって来て……いやいや、初めて出会ったのは数千年前で、やはりそこからしないと、どうして竜王が私の所に来たのか理由が分からないだろうから、え……と。


 悩んでいると、竜神王がカッと大きく口を開き、


 ”我の問いに答えぬか!”

 と、こちらに迫ってきた。


 ひえぇぇぇぇ! 食べないでぇ!

 と思った瞬間、目の前が緑色に染まった。


 ”それ以上、お近付きなられぬようにお願いいたします! 竜神王様!”


 聞き慣れた声が耳に飛び込んで来る。

 緑竜……!?

 な、何でここに!? 竜神界に行ってるはずじゃ。


 ”何でここに? は、こっちのセリフだ! 何でこんな所に居るんだ、あんたは!”


 何で…………て、最後のお別れに来ただけ……。


 私がこう答えると緑竜は、

 ”はぁぁぁぁぁ――――――……”

 と、何故か大きな大きな溜め息を吐いた。


 そんなに深ぁぁい溜め息吐かなくてもいいじゃない。竜神王がここに来るなんて思わないわよ。竜界に行ってるんじゃなかったの!?


 ”来たさ。それは盛大な歓迎の宴をぶち上げてた”

 宴って、ぶち上げるものだっけ?

 ”なのに、途中でいきなり飛び出してったんだ!”

 へ? どうして?

 ”知るか!”

  

 わぁ、ご機嫌斜めぇ。


 ”その理由が何かを聞こうとしてたら、俺の中の警鐘が鳴り響いてくれたんだ!”

 警鐘!? て、何?

 ”守護竜の特殊能力だな。守護者に危険が迫れば鳴るようになっている”

 へぇ、便利だね。

 ”便利だね、じゃないだろう! この警鐘は守護者に命の危険が迫った時に鳴るんだ!”

 命の!?

 ”慌てて跳んで来て、竜神王とあんたが睨み合っているのを見た時、どれだけ肝を冷やしたと思う!”

 睨み合ってないわよ。あっちが一方的に睨んできてただけ。

 にしても、よく私がここに居るってすぐにわかったわね。部屋に行っても、寝てるだけだったでしょうに。

 ”守護者に危険が迫った時には、守護者の所に瞬間移動できるんだ”

 わぉ! 瞬間移動! テレポーテーション! さすがは神様! すご~~い!

 ”すご~~い、じゃ……”

 緑竜がそんな問題じゃないと、頭を抱えそうになった時、

 ”何をゴチャゴチャとやっておるのか!”

 と、竜神王様が怒鳴って来た。


 ああ~忘れてた。


 ”申し訳ありません、竜神王様”

 ”おまえは、あの時にそれと一緒に居たものだな”

 ちょっと待った。「それ」って私の事よね、私の事よね! 「それ」扱い!?


 ”あの時とは、あなた様が竜神王になられた時の事でしょうか”


 あらぁ、無茶苦茶態度が違うぅ。恭しく頭まで垂れちゃって。


 ”無論じゃ。あの時以外におまえとは会っておらぬ”


 今日の宴では会ってないのかな?


 ”おまえに会いに、あの竜界に行ったのだが、あの気持ちの悪い、うざったらしい、馬鹿女竜がまとわりついてきて、探しようがなかった”


 え~~~~お妃様の事かしらね。


 ”だな。だから言っただろう。心の底から、これでもかって程、徹底的に嫌っていると”


 そこまでは言ってなかったわよ。


 ”あれを妻にしていたとは、相当女の趣味が悪かったとみえる”


 アハハァ、いろいろ事情があられたみたいですよ……て、私の所為?


 ”それで、私をお探しとは、何用にございましたのでしょう”


 どことなく嫌そうに、でも聞くしかないかというのが丸わかりの声と態度で緑竜が聞く。


 ”何故……それがあそこに居たのか。それを聞きたい”


 ほへ? ふむ。普通は居ないか。竜王様の所に人間……というか、魂? 人霊だっけ? とかはさ。

 でも、それを説明しようとしたら、さっきも考えたけどすぅいぶん長くなるんだけどな。


 ”この者は……浮遊癖があるようで。あの時は、たまたまここに迷い込んできたようです。それを元の所へ帰すように竜王様に頼まれ、ここに参っていた所でございました”


 は? は? はぁ!?

 何それぇ! なんですか? 私ってば、夢遊病なわけ? 夜な夜な徘徊するおバカ? 冗談でしょう!


 ”そこの、そうなのか?”


 そこの……! 「それ」に「そこの」!?  扱い酷過ぎ! 


 違うわよ! 浮遊霊じゃあるまいし! ここにはあなたが連れて来たのよ!


 ”そうなのかと聞いておる! 何故に答えぬ!”


 え? ここじゃ、筒抜けなんじゃなかったっけ?


 ”結界を張ってあるから、話しかけなければ聞こえない。て言うか、あんたを見つけた時にすぐに結界張ってなければ、消えてたっての!”

 

 あ、そうなんだ。ありがとう~~~! 

 だぁから、我の問いに答えぬか~~って怒って迫って来ちゃったのかぁ。あの時は、頭の中で考えるだけで、話しかけてなかったもんねぇ。


 ”いいか! 俺が言った通りの事にしておけ! 余計な事は言うな!”

 え~~~~~~~~!?  夢遊病者になれって?

 ”とにかく、竜神王を怒らせることは言うな! こんな結界、あの方にしてみれば紙切れみたいなものだ。消し飛びたくはないだろう!”


 ゲッ! 


 ”どうなのじゃ!”

  -はい、そうです! その通りです! ふらふらしているうちにここに来てました! ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした!-


 即! すぐに! 間髪入れずに、私はチョー強く肯定した。

 緑竜のこめかみ辺りに汗が流れた気がしたけど。


 子供の為もあるけれど、銀竜は本当に居なくなったんだと強く実感してしまっていたからでもある。


 生まれ変わったのだから仕方ないけれど、こ~~~んな、傍若無人、傲岸不遜、厚顔無恥、その他もろもろ、その手の四字熟語が並びそうな、クッソ偉そうな人……竜じゃなかったもの、銀竜は。


 ”俺としては、こっちが俺の知っている竜王だがな。あんたと話している竜王を見た時は、ビックリ仰天、青天の霹靂って奴だった”


 え? そうなの? だぁって、ピースサインはするわ、ちょっとすげなくするとアメリカンクラッカー型の涙は流すわ、いい子いい子したらニパッ笑いをするのよ。あ~~んな、おっそろしい顔で怒鳴ったりしなかったわよ。あんなんじゃ、話をするどころか、恐くて近付きたくもないわ。


 ”……だから、だろう”


 え? それって……私を恐がらせないように、わざと?


 ”気付くの遅過ぎだ、あんた”


 そう……なんだ。ホント、遅過ぎだね。ごめんね、銀竜……。


 ”今日も、そうしてここに来たのか”


 へ? ああ、まだ居たんだ竜神王様。もういいじゃない、肯定したんだから。


 -あ~~はい! ウロウロしてたら……ここに―

 カンペキ、夢遊病者だわよ。


 ”こんな、何もない所にか”

 

 あなたが造ったんですけど、とは言えないわよね。


 -広いし、静かだし……考え事するには持って来いの場所なんです―

 ”よくそうスラスラ嘘が出て来るな”


 あなたが最初に嘘を言ったんじゃない! 嘘って、一つついたら次から次に嘘をつかないと、最初のウソが嘘だってばれるのよ。だから、嘘はつかない方がいいのよ!


 ”仕方がないだろう。他に思いつかなかったんだから”

 本当の事を言えばいいでしょう。

 ”それはダメだ”

 どうして。

 ”いろいろあるんだって!”

 ふぅ……ん。


 ”おまえは……何故、今日ここに来た”

 ”は?”

 ”あの時は、竜王に呼び出され、それを連れに来たのだろう。今日はどうしてここに来た”

 ”それは……”


 ほらぁ、だから言ったじゃない! 嘘はダメなのよ!


 緑竜が答えに窮していると、

 ”随分とそれと親しげだが、よもや、それを好いておるわけではあるまいな”

 と、とんでもない事を言い出した。


 はぁぁ!? どこからそんな考えが飛び出してくるのよ!  

 大体さぁ! 誰が何処に居ようが、気にするなっつうの! 竜神王のお仕事に邁進していればいいじゃない! ねぇ、緑竜! 


 ”……………………………”

 あれ?

 ちょっと! 何黙り込んでるのよ! さっさと、とっとと、ちゃっちゃと否定しなさいよ!

 ”否定して、あんたを助けに入った理由が思い浮かばない”

 はぁ? 大御神から、私を守護しろって命じられてるって言えばいいじゃない。

 ”それが言えないから、こうなったんだろう!”

 ええ!?


 ……意味不明。 でも、緑竜は真剣に悩んでそう。


 だったら、肯定しちゃえば? こうなりゃ、嘘も方便で、つき続けるしかないでしょ。


 この場を切り抜ける為にはこれしかないと私は言ったが、緑竜はジト――――――っと私の方を睨んできた。ジト目なんて死語よね。


 ”殺されない事を祈っててくれ”


 はい!?


 ”はい……と申し上げましたら……?”

 微妙に語尾を上げ気味に緑竜は言った。


 ”…………………………”


 あらら、今度は竜神王様が黙り込んじゃった。


 ”わからぬ”

 長ぁい沈黙の後、ポツッと言った。


 何がわからないのでしょう?

 こんな、チンケな、チビたい、ちっぽけな人霊を竜が好きになるのが? 蓼食う虫も好き好きって言葉もあるんですよ、竜神王様。


 ”何故だ……”

 だからぁ。

 ”何故、こんなに腹が立つ?”

 へ?

 ”嫌……竜神王になったのだから、前世の事を気にかけていてはいかんな……もうこれ以上は”

 はい?


 竜神王は、緑竜から私の方に視線を向け、

 ”ここが、気に入っておるのか”

 と、聞いてきた。

 -え? あ……はい―


 気に入ってないわけじゃないから、これは嘘にはならない。


 ”そうか。ならば、このままにしておこう”


 は?


 竜神王は訳の分からない独り言を言うと、クルリと後ろを向いて、飛び立って行ってしまった。


 何なの、あれ。


 ”はあぁぁぁぁぁ。殺されずにすんだ……!”


 竜神王が飛び立って、姿が完全に見えなくなってから、緑竜がへなへなとその場にへたり込んだ。


 何よぉ、大袈裟ねぇ。

 ”大袈裟じゃ…………”

 で、止めて、こっちをじっと見て来る。

 何?

 ”あんた、今日、どうやってここに来たんだ?”


 どうやって?

 ???

 いつもみたいに、寝る前にここへ来たいなぁ、て思っただけよ。

 そうすると、ふわぁっと身体が浮いた感じがして、気が付くとここに居るのよね、いつも。

 私にしてみればごく普通の事だったんだけど、何故か緑竜は大きく頭を抱え込んで深ぁく沈みこんで行った。


 ”……俺、あんたの守護竜やめたくなってきた”


 どうしてぇ? 私、何かしたぁ?

 


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