表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜にプロポーズされたオバサンのお話し  作者: ねんねこねんね
3/23

引きこもり竜


 あ~ら、まぁまぁまぁ! そ~~んなに古くからの知り合いでしたのぉ!

 それなのに、しっかり、さっぱり、しゃっかりこんと忘れ果ててしまってて、ごめんなさいねぇ~~!

 ……ではないな。

 え~~~! それじゃ、私ってば、おばさんどころじゃなく、すんごい年のお婆さんじゃない~~!

 ……でもないわよね。


 竜に返す言葉を模索していると、ふと、ある事が頭に浮かんできた。

 -あのさぁ、数千年前じゃなくて、千年ちょい前じゃない?-


 千年ちょい前、日本は平安時代。


 子供の頃から眠る前に思い浮かぶイメージ映像。それが、平安時代の衣装や建物にぴったしカンカンなのだ。

 渡殿とか、御簾とか。源氏物語に出て来そうな建物。ふわっとしたイメージなんだけど、そんな感じなんだよね。

 そんな建物の部屋の中で、十二単っぽい衣装を着た私が、烏帽子かぶった男の胡坐かいた上に横抱き抱っこされてるって図が浮かぶのよ。顔は影になってて見えない。

 それ以上は何もない。

 けど、すごく安心してるのよね、その人の胸の中で。

 人……なんだけどね、竜じゃなくて。

 でも、その後、外で夜空を見上げている図・・・てのも浮かんでくるわけ。

 で、まぁ、聞いてみた。

 だけど、答えは、


 ”いや。そうじゃのぉ、四、五千年くらい前になるかのぉ”


 ハハハ……! そうですか。四、五千年ですか。

 て! 弥生時代ですか!? ……ちょっと待て、縄文時代じゃないか?

 昔懐かしい社会の教科書を頭の中から引っ張り出して、よくよく見てみる。

 やっぱ、縄文時代じゃん!

 中国四千年の歴史より前!


 …………マジ、私いくつなんだろ。


 その頃って、人と竜は普通に会えてたのかしらねぇ。文明らしき文明もなく、自然と共存していた時代だから、もしかしたら会えていたのかもしれない。

 日本じゃないという可能性もある……か。竜は形は違えど、世界中に存在している。つうか、存在していたというか、してたんじゃないか、してたらいいなぁ、とされている。伝説やら、神話の中で。


 ―四、五千年も前に、どこで会ったの?-

 素直に聞いてみた。


 ”どこ?”

 竜が少し戸惑ったように聞き返してきた。

 

 場所がわからないとか。その頃から比べたら随分地形は変化してるし、国なんかなかっただろうし。あっても国の名前は変わってるだろうし。何処と特定できる言葉がないかも。


 ”どこと言われてもなぁ。その頃、我は何もかもが嫌になってなぁ。自ら作り出した空間におったのでな”


 はい? …………………竜のひきこもり?


 -そんなに嫌な事があったの?-

 ”………………………………”

 珍しい長い沈黙に、

 -い、言いたくないなら、無理にとは……-

 おずおずとこう言うと、竜はフンと鼻を鳴らした。

 ”言いたくないわけではない。…………忘れただけだ”

 ―は? 自分で空間作ってひきこもったのに、その理由を忘れちゃったの!? 何それぇ!―

 ”忘れたものは、忘れたのだ。別に、その理由がそれほど大事だとも思えぬしな”


 そういうものですかねぇ。


 -で、どうして引きこもってたのに、私と会えたわけ?-

 プンと竜が頬を膨らませた気がした。


 ”あの大御神が、そんな所で暇を持て余しているならこの者達を守れと、我の空間に山とチビたい魂を放り込んできおったのだ!”

 チビたい魂……。もしかして、その一つが私?


 -そ、それで?-

 ”腹が立ったので断わった。だが、そいつらどもを置いて、さっさとどこかへ行ってしまいおったのだ、大御神の奴は!”

  根性ある~大御神様。


 ”わちゃわちゃわちゃとうるさかったが、守る気などさらさらないので、我はその者達に背を向けて眠りについた”

 -寝ちゃったの―

 ”追い出しても良かったが、面倒くさかった”

  ハハハ…………。


 ”ある時目覚めると、その数は半分くらいに減っておった”

 へぇ。何処へ行っちゃったんだろう。


 ”もう一度眠りについたら、皆居なくなっていようと、再び眠った”

 どれだけ寝るのよ。

 

 ”そして、再び目覚めると、そこには考えた通り、誰も居なくなっていた”

 ふぅ…………ん。ちょっと! 私との出会いは!?


 ”……と思ったのだが、闇の向こうに小さな光が見えた”

 光?


 ”我の光りが届かぬ、奥の方でな。完全なる闇の場。でなければ見えなかったであろう、小さな小さな光。……それが、そなただ”

 ……ふ……ぅん。

 やっぱ、チビたい魂だったんだ、私。


 ぼんやりぼやぼやのイメージしかないけれど、この妄想竜ってばどれくらいの大きさなんだろう。

 想像するに、やっぱおっきいよね。人よりは遥かに。その竜の妻?

 無理だろうぉぉぉぉ!

 魂だったらなれるのかなぁ。…………ハッ! いやいや、まだまだ死ぬわけにはいかない! 子供二人を成人させ、結婚させ、孫の面倒見て……。


 ハァ……。何をマジに考えてるんだ、私は。

 妄想だ、妄想! 私の願望から生まれた妄想!


 ”もちろん、今すぐに妻にとは言わぬ。ただ、我の妻になると約してくれればそれでよい。そなたが子を大事に思うておるのは、よく分かっておるのでな”


 て、断わりまくっていた時に言ったけど、流石は願望のたまもの。よくできたお答えで、よね。


 -わちゃわちゃとうるさい、チビたい魂のどこが良かったんですかね―

 ヤケになって聞いてみた。


 すると、妄想竜はうっすらと笑みを浮かべてこちらを見つめて来た。


”そなた・・何か望みはあるか?”

 ―は? 望み?―

 ゆったりと微笑んだまま、竜は頷いた。

 望みねぇ、望み……。

 -……ない、かも?-

 ”ないのか”

 う~~~~~~~~~ん。竜神様に頼むような望み……。

 やっぱりないなぁ……あ! あった!

 -子供が元気で素直にすくすく育ってくれる! これかな!-

 ”……子供か。そなた自身の望みはないのか。たとえば、地位や名誉や財産や……”

 何が何でも望みを聞き出したいのか、しつこく聞いてくる。

 -地位や名誉はその後ろに重たい責任が付いてくるから、パス!-

 まぁ、責任そっちのけで、権利のみを主張する輩も居るが、そういうのにはなりたくない。

 ”では、財は?”

 お金はなくては困るけど、有りすぎてもそれなりに大変そう。広い家なんかも管理と維持に苦労しそうだし。何より掃除がねぇ。人に来て貰えばいいと考えそうだけど、それも邪魔臭い。来てくれてる人に気を使わなければならないから。

 そう言うのに憧れる人もいるけれど、私はやっぱり、パス!


 ―この生活を維持できていけるだけあればいいかな。それ以上はいらない―

 ”いらぬのか”

 -ん。そうだなぁ、望みがあるとしたら、のんびりゆっくり寝たい! かなぁ―

 こう言った途端、竜はお腹を抱えて笑い出した。

 何よ! どうせ、チビたい魂の望みなんてこんなものですよ! そんなに笑わなくてもいいじゃない! それより、出会いはどうなったのよ! 出会いは!


 ”変わらぬのぉ、そなたは。初めて会うた時もそう言うた”

 へ?

 ”たった一匹だけ残るとは、どんな根性の据わった奴なのかと興味をそそられ見に行ったのだがな”

 ……一匹ですか。一人じゃなく。

 ”それがまぁ、気楽な顔して寝ておってなぁ”

 ―…顔って……魂って顔があるの?―

 想像した魂って、夏の幽霊番組に出て来るヒトダマみたいに、光ってゆらゆら揺れているって感じだったけど。

 ”いや、まぁ、そんな感じ……じゃな”

 -ふうん-


 ”で、腹が立って、足を踏み鳴らして起こしてやった”

 あら酷い。折角気持ち良く寝ていたのに。

 ”その時の驚き様は中々見ものであった”

 カラカラカラと高笑いをする。

 ……始めの頃の竜のドアップ! あれって、この時のトラウマかも知れない。


 ”じゃが、端っこの方に飛び退いてガタガタ震えているのを見て、少々やり過ぎたかと思うて聞いたのじゃ。何か望みがあるのかと”

 -? どうして、望みがあるって思ったの?-

 ”竜の元に居続けるのには相当勇気が要るであろう。それなのに一匹になっても居たと言うことは、それほどに強い思いを持ってだと……思うたのじゃがな”

 

 

 『の、望み? え……と、そんなの……ない、かな』

 ”ない !? ” 

 『ひぇっ! う・・・うん』

 ”では何故にここに居る !? ”

  『え? え……と、その~』

 ”他の者は皆どこかに行ったと言うに、何故おまえだけここに居る”

 『ん……と、静かでゆっくり寝られるから?』

 ”は?”

 

 ……私、もしかして竜が眠りについていた間、一緒にずっと寝てたわけ? 

 

『の、望みなんてないです! ここで……寝させてくれたら、それで……』

 まだ寝たいのか、私!

 『お願いです! 邪魔にならない所で寝ますから! だから!』

 ”勝手にしろ!”


 そうなるよねぇ。ま、寝てるだけなら邪魔にはならないか。

 ”そう言って、いつもの場所に戻りもう少し眠るかと思うて……”

 あんたもまだ寝るのか!

 ”ふと、そなたが居た場所を見やると光が消えていた”

 -消えていた? 居なくなっちゃったの?-

 ”んむ。端の方に行ったので見えぬだけかと思うて、一応見に行ったのだがな。居なかった”

 -やっぱ、恐くて逃げ出したとか―

 ”我もそう思うて、もう気にすまいとまた戻って眠りにつこうとしたら、光が見えた”

 -何それ?-

 ”じゃな。それで、寝た振りをして、そなたの方を見ていると、ふらりとどこかへ行って、しばらくすると戻ってくる。を、繰り返してなぁ”


 へぇ……何処へ行ってるんだろう。


 ”で、ちょっと意地悪をしてみたくなって、そなたがどこかへ行っている間に、いつもそなたが眠る場所に尻尾を伸ばして置いてやった”


 うわっ。ホント意地悪。


 ”帰ってきたそなたは、しばらく困ったようにウロウロしておったが、尻尾から一番遠そうな所へ降りて眠り始めおった”


 いやぁ、私が寝られるならいくらでもなのは、数千年前からだったのね。


 ”もうひとつ、意地悪をしとうなって、尻尾を振ってそなたを追い払おうとしたのだが……”

 -だが?-

 ”驚いて飛び上がるかと思うていたのに、その気配はない”

 -もう、どこかへ行っちゃってたとか?-

 ”んむ。我もそう思うて、尻尾を引き寄せると……なんとそなたは尻尾の毛に包まって幸せそうに寝ておってのぉ”


 ハ……ハハハハハ。 根性あり過ぎで、もう笑うしかないわよ。


 ”そのあまりに無防備な姿に毒気を抜かれての。そのままそこで寝かせておいてやることにした”

 え……?

 -寝かせておいてやるのはいいけど、起きた時はチョー困るんじゃ……-

 ”おお! それはそれは、見事なビックリしようであったぞ!”

 トラウマだわ! 絶対このトラウマよ!

 笑い事じゃないっつうの!


 ”何処へ行く?”

 『え !? 』

 ”いつもいつも、何処へ行っておるのか、と聞いておる”

 『……わかんない』

 わからない? どう言う事?

 ”自分が行っておる場所がわからぬと?”

 『声がするの』

 ”声? 誰の”

 『わかんない。その声がする方に行くと、明るい所に出るの。でも、いつも違う場所……だから』

 ”今回は何処へ行くかわからぬのか”

 『ん』

 ”その声の主は誰か、本当にわからぬのか”

 『え……と。ここに連れて来た声?』

 

 -と言うことは、大御神様?-

 ”じゃな”

 うわぁ、不機嫌な声ぇ。ほぅんと、嫌いだよねぇ、大御神様の事。


 『あ、行かないと。呼んでる……』

 ”行かずとも良い”

 『え?』

 ”あんな奴の言うことなど、聞かずとも良いわ” 

 え? それ、まずくないです?

 『行かないと、消えちゃう』

 ほらぁ。

 ”消える?”

 『ん。この声のとこへ行かないと、消えちゃうってみんな言ってた』

 ”そうなのか。……では、行くといい”

 『ん』

 ”いつ戻る”

 

 あ?


 竜はコホンと咳ばらいをした。

 ”いや、ついな、つい、聞いておってな”

 ふぅ……ん。

 

 『わかんない』

 ”それもわからぬのか”

 『声の呼ぶ場所に行くと、器に入るの。その器が壊れたら……ここに来れるの。その器がいつ壊れるか……』

 ”わからぬのか”

 『ん』

 ”……行くといい”


 ―へ……えぇ。それじゃ、それから帰ってくる度に、尻尾に包まらせて寝かせてあげてたわけ?-

 コホコホコホっと、竜が続けて咳払いをする。

 ”自分から尻尾に包まるようになったのは、相当時間が経ってからじゃがな”

 

 それまでは、彼女……というか私? が帰ってくる度に、尻尾を振って促したそうだ。

 ”我の尻尾より、床の方が寝心地が良いと言うか”……とか何とか言っちゃって。

 なんだか、人の恋話を聞いているみたいで、ちょっと嬉し恥ずかしである。

 記憶はないし、自分の事とは思えないよね。

 けど、それを二百年前まで続けていたのかしらね。数千年間?

 それに、どうして二百年前から私を探すことになったのかしら?

 

 その答えは、もう一頭の竜の登場で明らかになった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ