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桃太郎「僕たちには運搬力が足りない」ーもし鬼退治した桃太郎が宝物を運べなかったらー

作者: ばんがい
掲載日:2017/12/29

「えいえいおー!!」

鬼ヶ島全体に大きな勝どきの声が響き渡りました。桃太郎たち一行はついに鬼を退治したのです。

「みんな無事かい?ケガはないかい?」

桃太郎が三匹のお供に心配そうな声をかけます。彼らはこの鬼退治についてきてくれたとっても大切な仲間なんですから。

「大丈夫ですよみんな無事です」

サルがキーキーと飛び跳ねて元気な様子をアピールしています。

「桃太郎さんこそお疲れ様です」

イヌは桃太郎の周りをくるくると走り回っています。

「ここまで大変でしたね。まったく疲れました」

キジはもう飛ぶのも大変だというように地面をヨタヨタと歩きながら桃太郎のところへ近づいてきました。

桃太郎はみんなが無事なことを確認してようやく肩の力を抜きました。

「やれやれ、本当に良かった。みんなにケガがなくて、安心したよ。さぁ、目標は達したがまだまだ旅は終わりじゃない。これから宝物をもっておじいさんとおばあさんのところへ帰るんだ!」

そういって桃太郎は舟を置いてある浜辺へ向かおうとしたのですが、すぐにピタリと歩みを止めてしまいました。三匹のお供は突然に動きを止めた桃太郎を不思議そうに見上げます。

「しかし、どうやら僕たちはもう一つ大きな問題を解決しなければいけないようだ。」

桃太郎は深い深いため息を吐いてぐるりと周りを見回しました。

そこにはお供のイヌ、サル、キジ。そして大量の宝物。そして鬼ヶ島に渡る時に使った小さな小舟があるだけです。



その場でぐるりと輪になって座るよう指示した桃太郎は全員を見渡すと口を開きました。

「まずはみんな本当にありがとう。君たちが十分な戦力となって一緒に戦ってくれたおかげで無事に鬼を退治することができた。本当にありがとう」

桃太郎はお供のイヌ、サル、キジに深々と頭を下げました。

お供の三匹は雰囲気からこの話が感謝だけで終わらない事をわかっているので何も言わずに頭を下げ返すだけでした。

「だが、我々が持ってきたこの小さな舟ではどうやっても宝物を運べない。僕たちには鬼を退治する戦力があっても運搬力がなかったというわけだ。これでは宝物をどこにも持っていくことができない。なにか良い案はないだろうか」

桃太郎がもう一度深いため息を吐きました。それを見たキジがそっと手を上げました。キジは仲間の中では一番のアイデアマンで勇気があります。戦いのときでもまず最初に向かっていくのは彼でした。

「持ち運べる量だけ持って帰ったら良いんじゃないですか。それでも十分なお金持ちになれますよ」

キジの意見に桃太郎が首を横に振ります。

「それはできない。あのね、うちのおじいさんとおばあさんはそれは良い人なんだよ。桃から生まれた僕を大切に育ててくれたくらいだからね。そんな二人に持って帰れる程度の量なんて持って帰ったってきっと自分たちのために使わないよ。彼らは周りの貧乏な人に分けたりとかするんだ。これは間違いないんだよ。だから宝物は必ず全部持って帰らなきゃ」

その意見を聞いて次はサルが手を上げました。彼は少しずるいところがあって自分から意見を言うタイプではありませんが知恵は回ります。

「だったらいったん帰って次は大きな舟で戻ってくるのはどうでしょう。持って帰った宝物を売れば舟を買ったり手伝いの人を雇ったりもできるでしょうし」

サルの意見は中々よさそうに聞こえました。桃太郎も一度は考えましたが、やはり首を横に振りました。

「それもできない。僕たちはここに来るまでにずいぶん鬼退治の事をしゃべってしまったからね。もし僕たちが鬼ヶ島から戻ったことを知ったらきっとこの島に来る人が出てくるだろう。宝物がまだ残ってるんじゃないかってね。そうなったら僕たちがどんなに急いで舟を準備したって後の祭りさ」

それを聞いてサルは乾いた声で笑いました。

「ははは、確かにその通りだ。日本一のノボリまでさして桃太郎さんはずいぶん目立ってましたから。今思えばあんな事しなきゃあ良かったですね」

サルの言葉を聞いた桃太郎は少しムッとした顔をして言い返しました。

「そんな言い方はないだろう。ああいうのぼりはね、士気を高めるのにとっても良いんだよ。それに鬼が逃げ出せないように鬼の舟をダメにしておこうと君は言っただろう。あれさえなければ、今頃簡単に宝物を運び出せているんだよ」

桃太郎のその言葉にサルはびっくりしました。

「ちょっと待ってくださいよ、桃太郎さん。そんなことを言われるとは思わなかった。私のせいで宝物を持ち帰れないというんですか?それに、実際に舟をダメにするのはキジがやったんでしょうに」

桃太郎とサルの言い合いに我関せずだったキジも話に割って入ります。

「ちょっと待ってくれよ!私はサルの言う通りにやっただけだろう。それなのに責任があるみたいに言われるのは心外だな」

キジの言葉にサルはわざとらしい大きなため息をつきました。

「はぁ、君は本当に話を聞いていたのかい。僕が提案した時にはあんな舟を直せないほどメチャメチャにしろなんて言ってない。帆を剥がすとかその程度でも十分鬼たちは海には出れなかったはずだ。僕の言ったダメにしろというのはその程度のことだったんだ」

「だったらそう言え!いや、そもそも自分でやればよかっただろうが!」

「なにをっ!自分に任しておけと君が言ったんだろうが!」

お互いの言葉にムカムカしてきたキジとサルと桃太郎は、もう言葉だけではおさまらないとばかりに掴みかかろうとしたその時です。

「わんわん!喧嘩は止めてください。だったら僕が残ります!」

イヌの大きな声に驚いて三人はケンカをやめてそちらを見ました。

「僕が残ってここにある宝物を見張っています。誰かがやってきてもここにある宝物は桃太郎さんのものだ!って大きな声で吠えてやりますよ。だから桃太郎さんは一度帰っておじいさんとおばあさんを安心させてあげてください。きっと心配しているだろうから」

桃太郎はイヌの言葉にハッとしました。

「そうだ。僕は何を考えていたんだろう。まずはおじいさんとおばあさんに無事なことを報告しなきゃ。宝物なんてその後でもいいじゃないか」

桃太郎はキジとサルの方を向いて深く頭を下げました。

「さっきは自分勝手なことを言ってごめん!僕がどうかしてた。君たちは大切な仲間なのにあんな言い方をしてしまった。許してくれ」

その姿を見て、キジとサルも頭を下げます。

「こっちこそ、すいませんでした。頭に血が上っていました」

「そうだよな。僕たちは命をかけて戦った大事な仲間のはずなのに。本当にごめんなさい」

それぞれがさっきの自分の言葉を反省し、さっきまでのケンカはどこかへ行ってしまったようです。桃太郎はイヌの方を向くと頭を下げました。

「君のおかげで僕たちは大事なことを思い出せたよ。本当にありがとう。君を残すなんてとんでもない。僕たちは必ずみんなで一緒に帰ろうじゃないか」

「そうだそうだ。宝物もどこかに隠しておけば見つからないかもしれない」

「時間をかければダメにしてしまった舟も修理できるかもしれませんね。少し見てみましょう」

仲直りしたみんなはもう一度あーでもないこーでもないと話し合いを始めました。しかし、そこにはさっきまでのようにイライラしたりムカムカした雰囲気はありません。

その様子を見たイヌから再び大きな声が響き渡りました。

「わんわん!大丈夫です!僕がここに残ります」

そう言ったイヌに桃太郎は優しく話しかけました。

「心配しなくても大丈夫だよ。僕たちは君のおかげで大事なことを思い出したんだ。みんなで相談すればすぐに良い案が浮かぶはずだ。それくらいの時間はおじいさんとおばあさんも待ってくれるよ。なんにしても君を独りぼっちで残すなんてことするもんか」

「気にしないでください桃太郎さん。それに、僕はひとりじゃありません」

イヌがそういったときに草むらがガサガサと揺れて白い塊のような何かが飛び出してきました。

「紹介します。ぼくのお嫁さんです!」

飛び出してきた白い塊は、お供のイヌを一回り小さくしたくらいの可愛らしい犬でした。

イヌのことが大好きなのか周りをぐるぐるまわったり。体をなめたりしています。

「彼女はこの島で隠れて暮らしてたそうなんです。それで、僕たちが鬼退治にやってきたときに偶然それを見たらしくて。戦ってる僕のことを格好いいって。好きだ結婚したいって言ってくれたんです」

ワンワンと嬉しそうに吠えて桃太郎の周りをグルグル回り始めました。

「だから桃太郎さん。僕のことは気にしないでください。僕はこの島でお嫁さんと一緒に皆さんが返ってくるのを仲良く待ってます。そうだ、よかったら戻って来る時にはキビ団子を持ってきてくれませんか。彼女に食べさせてあげたいんです。せめて2つ。いや3つ以上は持ってきてほしいな」



結局桃太郎たちはイヌの言う通りにして、持てる程度の宝物を舟に積んで島から離れました。舟の上でキジとサルと桃太郎は一言もしゃべりませんでした。

ようやく舟が岸に着いてみんなが陸地に降りた時、サルがぽつりとつぶやきました。

「イヌが3つ以上と言ったのは戻った時に子供が生まれてるからかもしれませんね」

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