エースとリーダー
エースとリーダーの資質
能力が優秀なものがリーダーに向いているわけではない。
彼の第一印象は特に良くも悪くも無かった。
しかしそれは最初だけである。関わっていくうちに自分とは合わない性格だと思った。俺は合わないやつとは最初から最後まで合わないのだ。そのことは大学に入った今では受け入れている。というか諦めている。
昔こそなぜ俺はみんなと仲良く、みんなが仲良くできないのかと未だに解決されていない問題について考え悩んでいたものだ。
人と人には相性があるから仕方のないことだ。それにどちらも正しいと思っているからこそ衝突が起きる。それを避けるためには不用意に近づいてはいけないし自分の意見を曲げて相手に従うしかない。そして俺には気に食わないやつのいうことを正しいと思っていても素直に聞くことは出来ない。常に粗を探してしまうのだ。こんなことだからみんなと仲良くなれないんだろう。
彼と会ったのは最初にあったのはサークルの顔合わせの時である。彼個人の能力は優秀でとても期待されていた。そして彼も努力家であったのでそれほどの能力を有していることには納得できた。
しかし彼には致命的な欠陥があった。俺が最初に彼に不信感を抱いたのは自分からは決して相手に近づこうとしないところである。対人関係において常に受動的だ。相手がすべてを理解してくれているとでも思っているんだろうか。そして思い通りにならなければ相手を嫌うのだ。理想についてこれないものには冷たく当たり、気に入らなければすぐに癇癪を起した。もちろん問題が起きる。そんな彼についていけないものが出てくるのだ。しかし彼は自分自身に絶対的な自信がある。自分が悪いという考えには至らないのだ。そんなことが続けば周りには誰もいなくなる。
しかしそれすらも相手の責任であると言わんばかりに同じことを繰り返すのである。次第に彼の周りには顔色を窺って友人のふりをしているようなやつしかいなくなった。俺もその一人である。
俺はそんな彼を利用することにした。彼に対し不満を抱く人たちに同調し仲間を増やし彼を孤立させサークルを乗っ取るのだ。ここだけみれば俺が一番の悪人に思えるかもしれないが仕方のないことなのだ。
一年がたちサークルを引き継ぐ際に部長が彼を後継人として選んだのである。最初は実力の面からその場にいた全員が納得したがサークルの雲行きはこのあたりから怪しくなっていった。当然のごとく後輩にも不満を抱くものが現れついていくものがいなくなったのである。それに対してもいつも通り周りへの責任転嫁で自分のことは棚に上げてサークルの面々に文句を言うのだった。
次第に楽しかったはずのサークルは集まれば暗い気持ちになり、そんな気持ちになるくらいならばと顔を出さないものも出始めた。崩壊である。
それを立て直すには一度壊す必要があった。こちらが主導となって動くのだ。彼はリーダーには向いていなかった。俺は水面下で動き何とか立て直すことに成功した。
サークルがなぜ前と同じように動き出したのか不思議にも思わない彼はまた一年前と同じようにリーダーとして振舞い始めた。そしてこの一年サークルが衰退していたのはお前らのせいだとでもいうように自分は関係ないというような口ぶりで自身の理想を語った。プライドが自分の落ち度を認めないのか、本当に相手に責任があると思っているのか。以前も同じように自分の理想だけの世界を語っていた。未だに彼は夢の中だ。俺はまた同じことが繰り返されるのだろうと悟った。
心が痛かった。彼は以前の俺だった。自分の理想を盲目的に信じそれを理解できないものは異端だと糾弾するのだ。それに気付くまで彼はここから前に進むことは出来ない。手助けしてくれるものがいない今は難しいだろう。力のないワンマン社長についていくものなどいない。自分だけはそいつらと違うと思い込んでいるのだ。ここまでくると相性の問題ではない。
責任を常に相手に押し付ける彼を嫌いでないというものはいなかった。のちに残ったのは実力至上主義のものだけである。優秀な彼の能力を利用するのだ。
すでに彼という個人を見ているものはもういなかった。俺は彼を利用し世界と向き合うことができた。そして仲良くなることができた。




