天邪鬼の好き
「好きだよ」
そう告げると彼は照れてにやける。それを見て私も笑う。私の好きは何度言っても伝えきれない。だから何回も伝えたい。彼との関係はとてもいい。いつか私が理想としていた関係だ。
でも不満がひとつある。
「いつも私ばっかり。あなたはどうなの?」
途端彼は困ったような顔でわかってるくせにーと言って答えてはくれない。彼は私には好きとは言ってくれない。まあいつものことだけど。たまには逆に言われてみたいもんだ。
でも私以外にはいうんだよなー。このゲーム好き。この服好き。あれ好き。これ好き。でも私に対しては一度だって言ってくれない。
一緒にいて私のことを想ってくれているのは伝わる。いつも荷物を持ってくれるし、車道側を歩いてくれるし、私がしてほしいと思ったことを言う前にしてくれるし。気遣いとか思いやりっていう面では私は彼には及ばないかな。私は私が幸せになるために。でも彼は私を1番に考えてくれる。うん。これが一番いいのかも。無理に言わせる必要はないか。
彼は照れ屋だし、無理させたらいっぱい汗をかきながら言ってくれるのかもしれないけど彼を苦しめたいわけではない。
もしかしたら浮気相手には言ってるのかも。もしくは既婚者?いやいやそれはないか。こんなに尽くしてくれているしほぼ毎日会っているし。少々の疑問はありつつも私は彼の陽だまりのような温かさに身をゆだねる。こんなに幸せなんだもん。これ以上は望まない。
ねえあの時なんで好きって言ってくれなかったの?あの頃の私だったら言っていたかもしれない。でももういいのだ。そんなこと。だってこんなに。伝わってくるから。彼の口から音が聞こえなくても。紡いでいる言葉はわかる。彼は何度も何度も私に向かってその言葉を紡ぐ。もう遅いよ。でもいいの。涙にぬれてぐしゃぐしゃの彼が私の手を握る。温かい。わたしの好きな天邪鬼な人。それを見て満足した私は眠気に抗えず目を閉じた。




