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兄弟

「なあ、今どういう気持ちだ?」


ガラス越し弟に尋ねるも返事はない。というより言葉が出ないのだろう。兄もなんて声を掛けたらいいのかわからない。

兄は人の気持ちはわかるほうだがどんな言葉を掛けたらいいのかがわかるわけではない。正解はないのかもしれないが相手を包むようなまたは助けになるような言葉を掛けたいとは思うがその場面になっても兄の口からそんな言葉が出てきたことはない。

弟はきっと後悔しているのだろう。なんてことをしてしまったのか。なぜ?そんな言葉が頭の中でぐるぐる回っているのだろう。そんな相手になんて言えばいい。兄が掛ける言葉はすべて弟のさんざん言われた言葉に過ぎないだろう。そう考えるとつい責めるようなことばかり言ってしまう。


「お前がこんなことをしたことで俺たちはこれから大変になる」


違う。そんなことが言いたいわけではない。

久しぶりに会った弟。元気にしているか。彼女はできたか?今度は奢ってやるよ。そんな言葉を笑いながら交わしたかった。しかしこの場には不相応。兄はいつも言葉に詰まったとき不満や愚痴をこぼしてしまう。


「なんでこんなことしたんだ」


弟は兄貴にはわからねえよ…。とつぶやく。

兄は本当にわからない。弟は頭は良くなかったが運動はできたし、人付き合いもうまかった。それなのに。会うたびに自慢していたじゃないか。

俺は平気な顔ですごいなとかほめていたけどそれを聞くたびに負けねえ、もっと上に行ってやるって奮起していたんだぜ。なのにどうして…。




---



仲が良かった家族なのに今は会うのが辛い。少ない時間の中でなるべく言葉を選んで話そうとしている兄。こんな風に向き合いたくなかった。いつか見返してやる。そう思って頑張ってきたはずなのに。

兄は昔から優秀だった。何をやらせてもそれなりの結果を出す。弟はいつも劣等感にさいなまれていた。でもいつからか兄は怠けるようになった。本気を出すことがなくなった。弟は劣等感を抱えながらも兄を目標にしていた。いつか上から見下ろしてやる。そう思っていたのに。そつなくこなすだけで周りの能力ある人間に埋もれてしまう兄を見ていたくなくて弟は勝てる分野だけでも伸ばすほうにシフトした。それでも兄は戦うことを選択しなかった。それを腹立たしく思っていた。追いつけないところまで行ってやる。そう思ってなんでも手を出した。結果はこのざまだ。誰かに羨望のまなざしを向けられるような男になるはずであった。だがどうだ?今の自分を見て誰がそんな目で見るだろうか。

自分はきっと努力をする凡人や亀のような歩みでしか成長できない人間を見下していたのだろう。

今になってやっとわかった。少しずつでも積み上げることで自分の血肉となり、自信につながる。それを繰り返すことによって強くなるのだ。


「体には気をつけろよ」


そんな言葉をひりだして面会を終える。まだ少し時間に余裕はあったが話そうと思っていたことは会った瞬間にどこかへいってしまった。自分たちにはまだ気持ちを整理する時間が必要なのだ。背負った罪に向き合い、また日の下を歩くために。


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