命短し恋せよ乙女
夏の暑さに参ってくると冬の冷たさが恋しくなる。
冬ならばあつさもあたたかいという言葉に変わる。とは言っても俺は夏も冬も好きじゃない。
冬は夏を恋しく思うからだ。結局何事もほどほどが一番だ。入れ込むと碌なことがない。
しかし、そんな起用に立ち回ることは不可能だ。そんなの完璧な人間だけができることだから。
「ねえ急に黄昏れちゃってどうしたの?」
隣にいた女性が急に遠い目をした俺に尋ねてくる。
「俺も最近疲れているのさ」
女性はハーとあきれたように息を吐いた。
「そんなことだからあんたはモテないんだよ。気の利いたセリフの一つや二つ言ってみたらどうなの?」
そんなことを俺に求めるな。俺は普通の人間だし、むしろ人間関係とかそういうのは苦手なんだよ。
「俺に当たるなよ。そもそも最初からなあなあで関係を持つから面倒なことになるんだよ」
目の前の女性はなんてひどいことを言うの?私泣きそう。なんて表情で俺をたたきながら無言の圧力をかけてくる。
「わかったから。聞いてやるから。少しはやさしくできるように努力するから」
何とか女性を落ち着かせ、話を聞くことにする。
「最初は優しかったのよ……。でもね一回関係を持った後は都合のいい時しか連絡がつかないのよ。しかも前からデートの日を決めていたのに急にドタキャンするし」
もうだめなのかな、最近別の女の影もちらつくし。と独り言ちているがもうだめだろそれは。
「さっさと切り替えて別の奴を探したらどうなんだ?お前はいいやつだしきっとまたすぐに見つかるよ」
「そしてまた同じように蔑ろにされろって?もう私これからは慎重に恋をしていくから軽々しく言わないでよね」
結局何を言ってもダメなんじゃねえか。どうしたもんかな。俺は2年前のことを思い出す。
この女は同期で最初の顔合わせからすぐに仲良く?なった。彼女自身明るい性格だし物怖じしないので隣の無愛想な俺に話しかけてきてよく話すようになった。部署は別になったがお互いの近況はちょくちょく報告しあっている。
よく飲みに行くようになってすぐに分かったがとにかく恋多き女なのだ。少しのことですぐに好きになるし、相手はいわゆるダメンズというかくずのような男ばかりだ。そしていつも同じパターン。都合のいい女になってばかり。というかそれ以外の相手と付き合ったことあるのか。フラれる度、浮気される度に俺は今日のように酒の席で愚痴を聞いて慰めてやるのだ。
「もう私はこんな思いはしたくない。次こそは……。次こそは……。」
涙を流しながら酒をあおって固く決意しましたといった感じだがそれ毎回言っているからな。
「恋愛のイベントとか顔出してみたらどうだ?そういうところなら恋愛に真面目に向き合おうってやつも多いんじゃないか」
イベント?イベントかーでもなーと文句を垂れているがいつもロマンチックでドラマチックな出会いを期待しているからダメなのばかりに引っかかるんだよ。
「きっと優しい人もいっぱいいるぞ。気が合ってその場で交際に発展するやつもいるらしいしな」
「君も一緒に来てくれる?」
「一緒に行ってどうするんだよ折角知り合いを見つけるために行くんだから俺が言ってもしょうがないだろ」
「一人だと不安だし、君がいてくれたらなんか頑張れそうだし、いろいろいいことはあるわよ」
「お前にとってのメリットじゃねえか」
強いんだか弱いんだかわからん奴だな。
結局週末のイベントに参加することになってそのあとも潰れるまで飲んで解散となった。
俺はあまり乗り気ではなかったが一緒じゃないとやだと暴力に屈してしまったので参加することが決まってしまった。
次の日、会社の喫煙所で週末のイベントのことを考えて鬱になっていた。
なんで俺が無理やり恋愛せにゃいかんのだ。
「そろそろ幸せが底をつくんじゃない?」
いつの間にか隣にいた上司がからかってくる。この人は5歳くらい年上だがとても若くてエネルギッシュだ。自黒なのを気にしているらしい。
「逃げていく幸せなんて俺にはありませんよ。今きっと人生のどん底ですから」
「あなたはいつも鬱々として本当に気が滅入るわね」
ひどいことを平気で言う人だ。
「かわいい後輩をいじめないでくださいよ」
「いじめじゃないわ。いじりよ」
心外だというように真面目な表情でこっちを見たと思ったら吸った煙を俺にかけてくる。
「マジでやめてくださいって。電子タバコめっちゃ臭い」
「女性に向かって失礼ね」
紙のほうはにおいがつくからこっちのほうがいいのよ。とまた俺に煙をかけてくる。
俺の身近にいる女性は手ごわいのばかりだな。優しくしてもらいたいぜ……。
週末、イベント前夜。俺は同期とまた飲みに来ていた。
決起会だーと強引に連れ出されたのだ。イベント前夜なんだから早く寝かしてくれ。
「とうとう明日だねー楽しみだなー」
いい人いるかな?と遠足に行く前の小学生のように明日のことが楽しみでしょうがないようだ。
「そんなに浮かれていていいのか?次は慎重に恋するんだろ?」
俺が前の飲み会のことをもちだすとハッとした表情になって黙ってしまった。
「どうした?」
「やっぱり一人で臨むのと誰かがそばにいてくれるのとでは全然違うなー。君がいると思ったら百人力だよ」
「実際は一対一で向かい合うから席が遠かったらフォローできないぞ」
「そこをなんとか」
ウィンクとかサイン出すからとできもしないウィンクの練習をしだす同期。まずは自分一人で頑張れ。
「君はひどい奴だけど良い奴だなー」
訳の分からないことを言い出す同期。矛盾してるぞ。
「俺は無愛想なだけであつい男だろ」
「君は残酷なくらい正直だからそれは私にはつらいの。でもいい奴なのはわかるよ。いっつも私に付き合ってくれるし」
だからこのくらいがちょうどいいのかな……。と誰に聞かせるでもなくつぶやく同期。
「俺が優しいからってイベント前に惚れるなよ」
冗談ぽく俺はからかう。
「あんたに惚れるわけないでしょ。バッカじゃないの?」
といつも通りに返してくる。
「俺にもいい相手見つかるかなー」
「あんたには私のフォローって役割があるんだからうつつを抜かしちゃだめよ」
俺にも楽しむ権利くらいあるだろ。巻き込まれたにしろ俺も参加者だ。
「あんたはスパイみたいなもんだから本気になっちゃだめなのよ。職務を全うしなさい」
どうやら俺の権利ははく奪されたらしい。
同期と一緒だと毎日が忙しい。それが楽しくもあり煩わしくもある。でも俺は拒むことはできないだろう。たとえこの楽しい女性に相手ができたとしても俺はそれでいいのだ。彼女が幸せなら。
またフラれても俺が泣いている彼女を慰めるのだ。そしてまた彼女は元気に歩き出すだろう。
俺はそれを眺めていることしかできない。
俺には決められた相手がいる。今時そんなことがまかり通るのかと思うかもしれないが、俺の人生は親に決められたレールの上を行くだけだ。
30歳までと時間をもらい短い自由を謳歌するのだ。
俺は楽しそう彼女を見ながら酒を煽った。




