憧れ
「君は本当に男らしいよね」
「女性に向かって男らしいは誉め言葉にならないよ」
男らしいというのは本心だ。彼女はとても男らしい。僕が身近な人の中で一番尊敬している人間だ。僕はなれるものなら彼女のような人間になりたい。
「そうかい?これでも君を最大限に褒めている方なんだけど」
「そういう君はマメだよね。あとすごく謙虚というか奥ゆかしいというか……」
「最後のは男性に対する誉め言葉ではないよね」
確かに僕は少しばかり女々しいのかもしれない。いや、少しというのは嘘だな。確かに女々しい。すごく女々しい。
「私は君のようになりたいなー。そしたらもうちょっとモテるかもしれないのに」
彼女が僕のようになったら果たしてモテるのだろうか。僕がモテていないのだからモテないはず……。いや、彼女の容姿は整っているので性格は関係なくモテるだろう。現に彼女はいつも初対面の男性には好印象を与えている。話せば離れていくが。
「僕は傷ついているのに君はそういうことを言うのか」
「それはお互い様」
確かに僕が先に彼女に対して男らしいと言ったからこうなったからお互い様か。でも僕は本心なのに彼女は絶対に面白がっている。彼女はいつものように僕をからかうつもりなのだ。
「互いを足して2で割ったら丁度よくなるかな?」
「そうだねー。普通の人間になるんじゃない?」
「普通かー」
「没個性だよ」
「僕はそれでいいんだけどね」
「いやいや同じ人間ばかりじゃ面白くないじゃん。それじゃあ一体何のために生きてるの?」
「何のため?」
急に話のスケールが大きくなってきた。
「どうせなら面白おかしく生を全うしたいじゃない?」
「僕はそこまで人生に対して波乱万丈を求めていないよ」
「つまらんやつだな。そんなだからモテないんだ」
「それは関係ないだろ」
最終的に僕をディスってきた。結局いつも通りか。彼女をぎゃふんといわせるには僕自身が面白おかしくなければいけないのかもしれない。彼女の考えが及ばないような突飛な言動で振り回すぐらいでないと出し抜けない。
「あーあ、どっかに性格が変わる魔法の道具は落ちていないものかな」
「君は面白いことを言うね。そんなわけないだろドアホ!」
ドアホとまで言われるとは。それにしても口が悪いな。しかもなぜキレた?
「ちょっと言ってみただけじゃん。本気では言ってないよ。単なる話のネタを提供しようと僕なりに考えたんだよ」
「それが分かったからドアホと言ったのだよドアホ!」
「ひどい!それにしても口悪いな。口調ぐらいもっと女の子らしくしたら?」
「なんだと!?貴様もう一遍言ってみろ!」
「現代で貴様なんて使うやつテレビ以外で初めて見たよ」
「うわ、今絶対ナイスツッコミ!とか思ってるだろ」
「思ってないよ」
「思ってたな」
もう嫌だ。彼女には口では絶対に勝てない。本当になんで彼女に勝負なんか挑んだんだろう。
「まあ別に自分を卑下しなくていいと思うよ私は」
「そうかな?でももう少し君みたいに余裕を持てていたら僕も人生を楽しむことができるんじゃないかと思うよ」
「羨むよりも自分なりの楽しみ方を見つけたらそれでいいじゃん。私の場合は今みたいに君をからかうと楽しいし」
「……それを楽しみにはしないでもらいたい」
「無駄だ。もうやめられない」
「確かに君と話すといつもこうなるからわかってたよ」
僕と彼女の立場は出会ってからいつもこうだ。
「君と話していると楽しくてついからかってしまうんだよ」
彼女がそう言って笑うから僕もつい許してしまう。
「仕方ないなー」
「そうだよ。仕方ないんだよ」
なんだかんだ言って僕も楽しんでいるわけだ。ならいいか。そうして僕と彼女はいつも通りの1日を過ごした。




