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チートの家に引きこもる  作者: ニビル
第一章 家
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エルフとラーメン

 朝6時に起きる習慣が体に染みついている。目覚まし時計の時間をセットしていないけど、自然と朝6時に目が覚める。枕元に置いてあるガラスの水差しから、透明のコップに水を入れて喉を潤す。


 「ふ~。もうひと眠りするか?その前に……」

 

 ダリアがまだいるか確かめてみる。昨夜からずっと頭の片隅から離れなかった。

 2階に上がり、カーテンの隙間から“外”を覗く。

 ぽつんと佇むように、“家”の敷地の“外”にテントが張ってあった。まだ起きていないようだな。多分……。

 

 頭が冴えて眠気が消えた。足は2階にある秘密の部屋に向かう。

 物置として利用していた小部屋をを改築した書斎。3畳という狭さだが、逆にその狭さが落ち着く……ような気がする。書斎は新野が“家”で過ごすお気に入りの場所。部屋の中は、海外製の机と椅子。壁には本……っと言っても漫画が多数を占める本棚がある。スイッチを入れると、高い位置に設置してあるスピーカーから自然のせせらぎの音が流れる。いつもの癖で椅子に座り、ノートパソコンの電源を入れる。小さい窓が一つしかない部屋なので薄暗い。ノートパソコンのモニターからもれる電子の明かりが、わずかに部屋に広がる。

 地球と隔絶した場所にいるのにも関わらず、インターネットに繋がるということに気がついた。

  

 「これで死ぬまで退屈しないで済みそうだ……」


 午後までだらけていた。自分の家が日本ではどういう扱いになっているのかを調べることはしない。自分の中で終わったことなのでどうでもいい。

 

 「そろそろ……昼食(カップ麺)の準備をしないとな。念のために2つ準備しよ。食文化を押し付けるわけではないが……これだけは食べてもらいたい」

 

 こちらの世界でもラーメンと似たような食べ物があるのかもしれない。“壁”の効果に、『入る者を拒み、出る者を追わず』があるので“外”の物を手に入れるのは無理かもしればいけど、いつか食べてみたい。

 新野は朝食は食べない。一日2食あればいい。

 余談になるが、新野はラーメンが好きで毎日食べても飽きない。休日になると、近所の中華料理店で半チャーハンセットを必ず頼むほどの好物。

 

 戸棚に閉まってあるかごの中にある、カップ麺の数を確認する。昨日食べた分のカップ麺はいつの間にか補充されていた。“家”の機能に思わず飛び上がってしまう。異世界でも、ラーメンを思う存分食べれる喜びを誰かと共有したい。

 お湯を沸かして、お箸とフォークを準備する。

 外に出ると雲一つない快晴だった。半袖でも十分過ごせるな。これから夏に向かってもっと暑くなるのを予感させた。

 家の境界線である門に行く。周囲を見回しても人気がしない。そろそろ12時だ。もう起きてるよな。


 「おーい。起きてますかー」


 3メートル先に設置されてるテントに向かって叫ぶ。


 「……あれ?」


 物音一つしない。まだ寝ているのかな。それとも、森の方に何か用事・・でも済ませているのか。

 昨日、時間が足りなくて実験ができなかった“家”の周りを囲む、透明の“壁”についての検証するか。

 『外に出たい』と念じながら腕を“外”に伸ばす。手は透明の“壁”を通過した。暑い外からクーラーが効いてる部屋に入ったように冷たく、質量があるものを貫通した感触があった。

 左手の手首まで“外”に伸ばすと、体が急に“家”から“外”に追い出されるように、押し出される。


 「まずい……!」


 このままだともう二度と“家”に戻れなくなってしまうと思った。

 慌てて、左手首を“外”から“家”の中に戻す。

 おそらく、数十秒にも満たない時間しか左手首が“外”に出なかった。

 もしもの話であるが、腕の一部を“外”に出して引っ張られてもしたら、抵抗できずに……。頭の中に最悪の事態が浮かぶ。

 彼女ダリアの細い腕でも簡単に“外”に連れ出されるだろう。

 身震いをする。


 「早めに実験してよかった……ん?」


 ガササッ

 テントの方から何かが倒れた音がする。


 「おーい。起きてますか?もうお昼です?」


 不思議な事に、日本と異世界の森の時間は同じだった。日本も12時なら異世界も12時。季節だけ違った。


 「……(魔物に襲われた?)おい!」


 近くに寄れないことを、もどかしいと思いながらも新野は声をかけ続けるしかない。

 10分経過してようやく彼女ダリアはテントから外に出てきた。


 「ふぁぁあ~。良く寝ました。おはよう~」

 「おはようって、もうお昼です。エルフは夜行性ですか?それとも、朝起きるのが苦手ですか?」

 「いいえー、違います――」


 まだ眠いようで、ダリアは間延びした返事をする。

 長いので話をまとめると、神の光を見てからい夜目が効くので、徹夜・・でここまで走って来たらしい。疲れが溜まっていたようだ。……!!昨日、ふらついたのはそのためか。僕は何て自分勝手なことを。


 「そ、それは大変ですね?」

 「仕事ですから……」


 う、返す言葉がない。仕事か。


 「と、ところでお腹減っていません?僕の世界には3分で食べれる食べ物があるんですよ。味は保証します。よかったら食べてみませんか?あ、エルフの方はお肉が食べれないとか、個人的に苦手な食べ物はありませんか?」

 「私は特にありません。少数ですが、肉が食べられないエルフもいますね」

 「それは良かった。今から投げるのでキャッチしてください」


 無事に手に取ったカップ麺とフォークを観察している。

 

 「あ、お湯も渡さないと――」

 「大丈夫ですよー」


 新野の発言を遮るように言う。彼女は背嚢の中から小さな片手鍋のような物を取り出した。慣れた手つきで石を囲い、中に小枝を入れる。その石の上に片手鍋を置く。

 新野が聞き取れない呪文のようなを言語を、二言口ずさむと、空の片手鍋に水が貯まった。


 「おぉ!」


 魔法だ。

 次に、二言口ずさむと木が突然燃え出した。

 

 「魔法ですよね?今の水を出したり、火をだしたり……」

 「そうですよー」


 ヘビフクロウの超音波や、“家”も魔法といえなくもないが、新野が想像していた魔法はダリアが今使ったものだ。


 「すごいです。僕も覚えたいです」

 

 どうだ?と言わんばかりにない胸を張り、得意げにこちらを見てくる。

 沸騰した所でカップ麺の食べ方を教える。


 「3分で食べれるとは変わった料理だわ」

 「時間がたつと麺が伸びるので早く食べてください」

 「のびる……?」

 

 首を傾げる。ラーメンについて質問した。聞いたこともない料理らしい。

 箸はないのでフォークを渡した。


 ずーずっーー


 と、音を立てながら一緒に昼食をとった。

 まさかエルフとラーメンを共に食べるとは思っていなかった。

 人生何があるか分からない。

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