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チートの家に引きこもる  作者: ニビル
第一章 家
7/37

近そうで遠い、彼女と僕の距離

加筆しました。

 ダリアは右腕だけ、壁を押すような形で、小さい右手を透明な壁にそっと当てる。新野に無垢な緑色エメナルドの瞳を向ける。

 新野も次第に無言の圧力に耐えられなくなり、左手を彼女の手の形に合わせる。

 僕より一回り小さい手。確かに、彼女はそこにいる。

 透明の壁の質感は、分厚いガラスのような硬質的で、冷たかった。厚みは数センチある。新野とダリアは5分は同じポーズをとっていただろう。冷たいはずの壁に、ほのかな暖かさを感じたのは気のせいだろうか。彼女の頬が赤く見えたのも気のせいだろう。

 柄にもないことをしてるのは分かる。お互い、初めて会った他人どうしなのに、何をやっているんだ!?僕は彼女に何を期待しているんだ……。

 近そうで遠い、彼女と僕の距離。決して触れ合うことのできない相手。この時、新野は体中に電撃が走った。そして、“壁”の機能を把握した。


 「あははっは。そういうことかー。そ……でも、それでも僕には関係ない。もう二度と“外”には出ない」

 「な、な、なにが可笑しいのですか!私が……、私が、何か、可笑しな事をしましたか!新野、教えてください」

 「違います。ダリアは何も、可笑しな事はありませんよ。何も……何も……。“嘘”を見抜けるエルフ族なら、僕が嘘をついていないと分かりますよね?」

 「……そうですね。少しだけ違和感がありますが、確かに“嘘”はついていませんね。何か釈然としません……丸め込まれてるような気がします」


 緑色エメナルドのジト目で見てくる。新野は思わず視線を外してしまう。随分フレンドリーになった。新野が心を開けて話せた、初めての相手かもしれない。昔の自分なら考えられないや。日々の仕事から……、労働から解放されて、精神が高揚しているからだと自身を納得させる。

 ころころと変わる表情のダリアと話すのは楽しい。できればもっと話したい。


 この透明な“壁”は『入る者を拒み、出る者を追わず』といった機能がある。一度出たら、例え“家”の所有者である新野でもここに入れなくなってしまう。

 先ほど、新野が透明の壁に触れられたのは、無意識的に“外”に出たくなかったから。出ようと思えば、いつでも数センチの壁を超えて外に出れる。

 一歩足を踏み出す勇気があれば……。


 つまり……“家”に引きこもれなくなってしまう。それだけは……それだけは嫌だ。死んだほうがましだ。24年間生きて、自分は生きているのに向いてない人間だと常々思っていた。もう仕事をしたくない。仕事の事を考えるのすら嫌だ。ただでさえ何もできない無能で怠惰な僕が、“家”の“外”に放り出されたら苦労するだろう。言葉も文化も種族も生活も何もかも違う。頭には働きたくない言い訳ばかり浮かぶ。

 

 「少し実験したいことがあります。手伝ってくれませんか?」

 「うん……何をすればいいの?」


 うんって可愛いな。おっと、気が変わらないうちに説明をしよう。

 ダリアは外見上は20歳くらいに見えるけど、雰囲気が少し幼く感じる。女性に直接、年齢を聞けるはずがないので、さりげなく会話を誘導して聞きだしたい。種族がエルフなのでやはり長寿種なのだろうか。僕はこの世界について知らないことがあまりにも多すぎる。もっと親しくなればダリアから教えてくれるかな。

 

 「この“家”の透明の壁に向かって、そこいらに落ちてる石を投げてみてください」

 「……」


 コクンと小さく頷く。手のひらより小さい、数センチの小石を壁に向かって軽く投げる。

 

 コン

 と硬い壁に物が当たる音がして、小石は家に中に入ることはなく、外に弾かれた。


 「……??」

 

 “家”全体を囲む透明な壁は、外から人や物が通らない。


 では、“家”の中から“外”へ干渉したらどうなるのか?

 小石を“外”に向かって投げる。小石は透明な壁を通り抜け、ブロック塀の向こう側、“外”に落ちた。

 ダリアが小石に意識を向けてる瞬間に、“外”に出たいと考えながら、そっと手を“外”に出してみた。

 通り抜けられないはずの壁を超えて、手は確かに“外”に出ていた。


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