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チートの家に引きこもる  作者: ニビル
第一章 家
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チートの家

 女エルフが、美人台無しの、薄気味悪い笑顔を浮かべて、“家”に向かって森の中を疾走していることなど青年は知る由もない。

 


 一方、青年はというと、大学生活以降はじめて熟睡できた気がする。重要な夢をみた気がする。……どうしても夢の内容が思い出せない。それより、頭がすっきりして気分が非常に良い。もやがかかっていた頭がようやく晴れた気がする。思わず、昔好きだった映画のテーマ曲を鼻歌で歌う。

 働くようになってから毎日、朝から晩まで仕事の事を考えていた。そのため、寝つきが悪かった。布団に入ってもすぐに寝れない。正確な時間を確認してはいないが、眠りにつくのは、おおよそ午前1時か2時をを過ぎていると思う。夢の中まで嫌な仕事をすることもあった。休日も常に気が張った状態。

 

 “神様”から直接、日々の悩みの種だった“労働”を免除された。

 日本から異世界に転移したことを対価に、青年は労働から解放された。

 だが、人間は働いてお金を稼がなければ、食べる物も買えなくなり、やがて死を迎える。

 異世界の情報は全くない。が、人がいれば経済活動があるだろう。文明が発展すれば行きつく先は同じ。物々交換や紙幣の概念はあるだろう。異世界でも結局、日本と同じように、またはそれ以上劣悪な待遇で働くことになるのか?

 青年は一夜明けて自分の境遇を考える。 

 家と敷地だけ異世界に隔絶されたのに、水が使えたこと。電気が通ってること。

 水や電気の仕組みは詳しく分からないが、隔絶された状況になったのなら通常、使えなくなるはずだ。

 念のため、洗面所に行き蛇口を回す。


 ジャージャジャー

 キュ 


 水は問題なく出た。思った通りだ。神の光が自分と家を覆った事に関係があると仮定する。

 “家”の事はこれで確信が持てた。予想が当たっていれば一生働かなくてもいい。

 漠然とであるが、自身の力の一端を理解した。

 冷蔵庫を開けて中身を確認する。


 ――使ったはずの食材が復活されている!

 ニヤニヤと、どうしても下品な笑みを浮かべてしまう。

 

 「これが……神様が働きたくない僕に、与えてくださった力なのか……。まさに、引きこもりのためにあるような力。水や電気に困ることはない。食料もなくなれば自動的に冷蔵庫に補充される。保存食のカップラーメンもなくなれば魔法のように補充される……はず」


 まだ“家”の機能は多数あるけど、チートの“家”に関してはこれくらいだろう。笑みが浮かぶ。


 「わ、はっははははー」


 青年は久しぶりに笑った。何て気分がいいんだ。今なら何てもできる気がする。

 お湯を沸かして、カップ麺を持って外に出る。

 庭には木の細長い椅子があるので座る。

 2人程横に座れる木椅子は青年が学生時代、暇な時間を使って作った。

 夏に向けてさらに蒸し暑くなる気配を漂わせている。

 今更気づいたのだが、気温が寒くない。日本では12月だった。屋内に居ても寒い時期なのに、ここは外の様子と、体感の感覚だと5月あたりか。少し暖かいくらいの気候。周りを眺めて見るも、木・木・木・木しかない。


 3分過ぎたのでカップ麺を食べ始める。

 

 「うん、外で食べると一段と美味しく感じるな」


 音をたてながら麺を食べる。


 「材料はたくさん……無限にあるか。でもなー、料理は得意じゃないしな」


 所謂男料理といった調理しかできない。それに、もう自分で料理するのも面倒だ。

 青年の本質は、どうしようもないほど怠け者の屑であった。それが異世界に来て“力”を手にして磨きがかかってしまう。

 

 「自分で調理するのが嫌なら……代わりの人材を創ればいいじゃないか」


 ふとそう思った所、別のことに意識が飛ぶ。


 ギャーギャンー  ギィ―ギー


 上空から、奇妙で不快な鳴き声が聞こえる。その音を例えるなら、爪で黒板をひっかいたような高音の音。


 「げっ、何だ……あれは……!?」


 目線を上に向けると、蛇のような胴体に梟の顔が見えた。足には鋭く尖った爪があり、蝙蝠の巨大な羽が生えた謎の生き物がこちらに接近していた。 

 

 

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