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チートの家に引きこもる  作者: ニビル
第三章 世界
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交差

 新野はお気に入りの部屋の椅子に座っている。目を瞑り、音楽を聞いていた。

 “外”との交流を絶って3カ月。

 物資のやり取りだけはロボットのレイを通じで行っていた。

 新野は自信に授けられた一三番目の加護の力について完璧に理解し、使いこなせるようになった。

 季節は冬。

 普通なら寒く感じる季節。“家”の中の気温は冬とは思えないほど温かい。

 以前は“外”の騒音に悩まされ、仕方がなく“外”と取引に応じた。

 しかし、全ての力を理解した新野は、騒音なぞ無視できる防音の効果を結界の壁に施した。

 “家”の中にいる限り、新野に敵うものはいない……。

 

 クローバーに壊れかけの木剣を貰ってから、新野の精神状態がおかしくなった。今の自分が“外”に関わると何をするか制御できそうになかった。

 過去……前世。確かに俺、僕は……。

 もう自分からは“外”に出るつもりはなかった……。関わるつもりはなかった。彼女……エルフ種のダリアが一人で“家”に訪ねて来るまでは。


 「新野!聞こえていますか?ダリアです。どうしても話したいことがあります。どうか、“外”に出て来てもらえませんか!?」


 外から声が聞こえる。防音の効果を施してあるが、一番最初にこの世界で出会った彼女だけは別だ。


 「……どうしよう」

 

 ダリアは冬の寒い季節の中、外で一人、新野を待ち続けている。

 音楽を消す。

 意を決し、“外”に出る。


 「久しぶりです。ダリア」

 

 ダリアは以前新野が贈った服を着ていた。気にいってくれたのかな。

 二人は静かに話をする。

 そして、ダリアは初めて会った時と同じように壁に手を添える。

 俺、僕も……。

 ほんの少しの距離だ。新野が“外”に出たいと念じれば、ダリアがいる“外”に出て触れ合うことが出来るだろう。

 そう思っていた刹那、


 「好き」

 「えっ……!?」

 

 思ってもいなかった言葉。動揺。焦り。今の言葉は……まさか。

 あっ……。

 気づいたら手遅れだった。

 新野の“手”が“外”に出ていた。

 その新野の左手を、ダリアの右手を重なり、“交差”し、“触れ合い”、“外”に引っ張り出される。

 抵抗は一切出来なかった。思考が追いつかない。


 「あゝ……」


 やはりこうなってしまったのか。何時か危惧していたことだ。新野の体の一部が“外”に出たならば、力の弱い者でも簡単に新野を“外”に連れだせる。

 “外”に出てしまった新野は、“チートの家”に二度と入ることは出来なくなった。


 でも、今はダリアと触れ合っている。彼女は確かに“そこ”にいた。

 温かさを感じる。


 空間が歪み、エギムーとクローバーが転移の魔法で現れる。

 なぜ今、このタイミングなのか。


 「シンくん!?ダリア……貴様!何をした。早くそこから離れろ」

 「なぜだ。新野……」



 やはり……か。“外”に出た新野は彼らの言葉が理解出来ない。ごめん何を言っているか分からないよ。

 新野は一つだけ“保険”を掛けていた。万が一、新野が“外”に出た場合の。


 「レイ……。“自由”だ。今までありがとうな。おねえちゃんごめん。もう僕は」

 「え、今……何と言った。いや姉の私には分かる。たしかに……」

 

 音もなく現れたロボットのレイ。レイにはある約束をしていた。

 新野が“外”に出た場合……。


 レイの右手が新野の胸にそっと手を添える。


 「お休み。シンノ」


 お前普通にしゃべれたのか。

 

 想いに答えられなくて、ダリアごめん。

 そうか、ダリアの花言葉は――

 

 新野は文字通り死ぬほど働きたくなかった。その強い想いに応えるように、チートの引きこもれる環境の“家”を授かる。

 この半年は天国だった。労働から解放されて悩みも消えた。

  

 新野真は“外”に出て働くより、“死”を選ぶ。

 崩れ落ちる体。重たい新野を支えようとするダリア。


 「いやあああああああああーーーー」

 「ああ。なんで!何でなの!!」

 「……はた……らき……タ……く……なアぃ……」


 その言葉が、新野が最後に発した言葉。

 彼ら彼女らも、“家”から“外”に出た新野の言葉を理解できない。


 レイは新野の体を優しくそっと抱えて、“家”の中に連れて帰る。

 

 「待って」

 

 その声は誰だったのか。

 レイは止まらない。

 そして、レイは新野の亡骸を抱えて“家”の中に入る。


 「貴様ッーーー!何をした!お前のせいで!」


 クローバーの怒気により周囲の気温が上がる。今にも掴みかかって殴りだしそうな一触即発の雰囲気。


 「し、知らない。だって……私だって……」





 空から優しい雪が降る。

 その雪は“家”を、新野に安らかな眠りを祈るように……降り続けた。

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