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チートの家に引きこもる  作者: ニビル
第三章 世界
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意味

 腰にまで届く長い太陽のような色の髪の女。自称前世の姉で、この世界の魔王と新野は結界越しに対面している。名をクローバといい、人から魔になった元人間。この世界の住人なら怖くてたまらない存在と、新野は普通に会話をする。

 女はどうみても……20前の年齢までにしか見えないが、すでに数千年生きているらしい。エルフ種も300年以上の寿命があると分かった。この世界は不思議だ。(人間の寿命は60年)


 「それで……今日はどういったご用件で……?」


 新野はイラついていた。土曜日という休日にクローバーが来た。望まれない来客である。

 休日を潰されることが多くなってきた気がする……。


 「姉に向かって硬くならなくても。今は私と二人きりだよ……?」

 「タクシー代わりのエギムーは帰したんですよね。それなら二人きりということになります」

 「タクシー……?」


 そうだった。タクシーの概念はこちらにはない。分かるわけないか。魔王クローバーは、エギムーという名前の転移が得意な魔法を使う魔物によって、新野が住む場所まで自由に来れる。


 「僕がいた世界の乗り物の事です。お金を払い、目的地に移動してくれます」

 「その話は今度じっくりきかせてね……………」

 「…………」

 「…………?」

 

 何か言いたげの様子でこちらをチラみしている。

 

 「あの女……に……ふ……を……自慢された。シンくんから服をプレゼントされたって……。私もシンくんがいた世界の服が欲しい」

 

 あの女?エルフ種のダリアの事だろう。新野が最初に接触した異世界の住人。何かと縁があり、その後も亜人の代表として接触をしている。

 以前ダリアにあった大きさと、似合いそうな服を一式渡した。とても喜んでいたのを覚えている。

 まさに彼女の為の服だったと。

 

 「え……。うん……。何かクローバーに合いそうな服が合ったら渡しますよ……」

 「そうか!?」


 沈んだ表情が新野の返事を聞いて輝く。

 服程度で喜んでくれるなら安い物だ。どうせ“家”にあるものは無限に“複製”できるのだ。いくらでもくれてあげる。

 だが、いくらタダだからといって誰にでも簡単に物を渡すわけではない。クローバーは自称姉だというが、魔王であることには変わりない。この異世界での権力、影響力は図りしえない。彼女の6番目の加護。“魔”を生みだし、従わせる力も興味がある……。聞くところによると、猫耳メイドのシャロンもクローバーの加護の力でこの世で生をうけたらしい。強い魔物を生みだすには時間がかかるそうでシャロンは100年かかったそうだ。途方もない年月を費やしただけあり、知力や腕力も相当な力がある。

 いつかはクローバーに美人の女の魔物を……と考えてる所にクローバが、


 「今日来たのはどうしてもシンくんに見てもらいたい物があったから。この日なら誰にも邪魔をされずに二人きりで会えると」

 「ん?また魔法でも見せてくれるのですか?」


 魔王クローバーは数千年生きているだけあって魔法に精通している。会うたびに、多彩な魔法を披露してもらっている。でもわざわざ2人きりっていうのがどうしても引っかかる。いつも必ずいる腹心のシャロンもいない。


 「いや……、魔法はまた今度ね。これはシンくんが――」


 レイを通じて、渡された物は木の薄汚れた剣だった。半分くらい黒く変色している。先が欠けているのに気づいた。クローバーの説明によると、新野の前世であったクローバーの弟、シンが生前使っていた木剣。

 3歳だったシンが家に入り込んだ悪者に、一人で木剣で立ち向かったらしい。結果はあっけなく死んだ……。シンが使っていた形見の剣。


 「……」

 「思い出して……シンくん。私が怖くてできなかったこと。3歳のシンくんが“勇気”を持ち立ち向かったこと。あの時は助けられなくて……ごめんね。だけど!」

 「……う……ッ」


 頭が痛い。実はこの異世界に初めて来訪した時から、この空気にある種の“懐かしさ”を感じていた。

 新野は何事にも意味があると考えている。

 この木剣を見てると……何か……。


 「シンくん……泣いているの?ねえ、やっぱり……シンくんはシンくんだったのね!?」

 「……僕は……俺は……」


 なぜか涙が止まらない。

 心の奥深くに黒い“復讐”の炎が新野に宿る。

 俺が僕がここに来た意味……。


 「ごめん、クローバー。体調が悪いようだ。今日はこの辺で失礼させてもらう」

 「その木剣は元々シンくんのものだったから持っていて」

 「……」

 

 新野は静かに“家”の中に入る。欠けた木剣とともに。


 それ以降、新野を見た者はいない。

 いくら人間・亜人・魔王たちが集まって騒いでも新野が“外”出てくることはなかった。

 

 “家”は進化する。新野は一三番目の加護の完璧に使いこなせるようになっていた。“家”結界の効力に、防音効果が加わる。もう“外”がいくら“家”と新野に接触しようと、新野が拒めばどうにもならない。


 夜のとばりに紛れて、3羽の黒いやや大きなカラスが“家”から“外”に放たれた。

 これに誰かが気づいて、撃ち落としていたら歴史は変わっていたのかもしれない。


 季節は秋から冬に変わる。その間、新野が異世界人と会うことはなかった。


 全ての生物に安らかな眠りを誘う冬が来る。

3

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