ド“レイ”
“家”の中には、新野とロボットのレイしかいない。二人だけだ。
3カ月以上共に暮らしているがレイのことは未だによく分からない。
新野から話しかけると、会話が続く。レイからは話しかけてこない。
レイの機能はまだ不明な点がある。そのうちのひとつが……。
なぜレイだけは例外に、自由に“家”と“外”を行き来できるのか。
“家”の中の物は大きさ関係なく“外”に持ちだせることは既に分かっている。
しかし、“外”の物を“家”に持ち込むには制限がある。レイのお腹に入る大きさしか持ち込めない。(レイのお腹には空洞があり、その空洞の空間に物を入れられる)
試しにレイの手に異世界の物を持ち、結界を超えようにも“外”の物を“家”には入れなかった。
異物として排除してしまう。結果的にレイしか“家”に入れない。
不公平だとは思わない。元々“外”に関わるつもりはなかった。それが何の因果か、異世界の住民と関わるようになった。
レイの力によって、異世界の食べ物だって食べれた。満足している。
“家”の庭では魔境産のリンゴの種が植えられている。果たして、実がなるのだろうか。それは新野にも予測できない。魔王側との交易で新野は甘味のお菓子を提供した。その代わりに、魔境産の珍しいリンゴが手に入った。見た目がパンのような色だった。食べてみると、中身がみずみずしくて甘いのだ。口に広がる蜂蜜のような甘さ。
見た目に惑わされてはいけない。味は美味しい。幸いにも時間は沢山ある。果実が実るのかをじっくり観察していきたい。そもそも芽はでるのかも不明な状況。
新野がロボットの名前を“レイ”にした理由。レイには説明できない理由がある。それは……奴隷の文字を借りた。
新野は日本で暮らしている時、自身の事を奴隷だと思っていた。働いて働いて得たわずかばかりのお金で暮らす日。先の見えない不安。希望のない人生。
奴隷の人生を異世界に召喚されて、最高位の神の慈悲により解放された。
その新野の代わりに家事をするど“れい”のレイ……。
悲しいかな。人とは階級を作り差別を図る。自身より下の身分のものを……。
「レイ、来てくれ」
「ハイ」
やはりまだ片言か……。学習機能があるという話だったはずだ。所詮は新野を元に創られたロボット。向上心の欠片もない。そこが可愛くもあるんだがなあ。
「ゴヨウ デスカ」
「いや、ちょっと呼んでみただけさ……」
「ヤメテ」
「それはないだろう」
機械の中性的な音声は悲しそうな声に聞こえた。
その後もいつも通り、疲れた。眠い等ブツブツ独り言を言い、新野から離れて行く。
面白いやつだ。新野はレイの事を頼りにしている。嫌々ながらも仕事(家事・運搬作業)はしっかりとこなしてくれるからだ。
でも、レイの冷酷さを知っている。新野がひとたび命令さえすれば、圧倒的な強さで命を奪う。実際にミマス帝国の見てくれだけなら強そうな騎士の男を一撃で沈めた。
まさに一撃必殺。一撃で相手の命を奪う悪魔の手。
ミマス帝国の使者の護衛を殺めた件はなかったことになった。元々先に攻撃してきたのがミマス帝国側だったからだ。
できれば使う事態になって欲しくはないが、そのレイの悪魔の手の力を見込んで、新野もある“約束”をしている。
「レイ……」
「…………」
レイの真っ赤に光る二つの眼球を見た。どこか怒っているような、悲しいような、何とも言えない哀愁を感じさせる。
また呼んでみただけとは決して言えない雰囲気。空気が張りつめているように感じられる。
「あ、ゲ、ゲームでもするか?」
「ゲーム?」
妥協して、普段なら思ってもないことを口にしてしまった。
“家”の中には日本から持ち込んだテレビゲームが無数にある。こちらの世界ではオーバーテクノロジーだろう。気分転換に、たまにはレイと遊ぶのも良いかもと思った。何をやろうかな。2人で協力して遊べるゲームを頭に思い浮かべたがやめた。どうせなら対戦ゲームで勝敗をきめてやろう。現実ならレイの方が強い。だがゲームでは負けない。それにただ遊ぶってのもつまらないだろう。
「テレビゲームで遊ぼうか。俺に勝ったら明日一日自由にしていい」
「!!……ヤル」
いつものことだが、休みという言葉にレイは弱い。こちらも負けるつもりはない。何しろ新野が買ってプレイしたゲームだ。こちらが有利。レイは初めて手にするゲームだ。ふふ、負けたらどうしてくれよう?
「その言葉聞いた。レイが負けたらまたゲームに付き合ってもらうからな」
あくまでも命令ではない。お願いである。
この気まぐれがどう作用するかは、新野が身を持って近くない未来に分かることになる……。
「レースゲームにしよう。先にゴールした方が勝ちでいいな」
操作方法をレイに教える。ロボットだからだろうか。飲み込みが早い。そしてゲームが始まる。
夏の終わりを告げるセミの鳴く中、楽し気な新野とレイの笑い声が、なぜか土曜日なのに、“家”のすぐ“外”にいたダリアとクローバーの耳に届く事になった。




