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チートの家に引きこもる  作者: ニビル
第三章 世界
32/37

美しい

 新野には悩みがある。異世界ミールに召喚されて、現世にほんの全てのしがらみから解放された。特に、労働を免除された唯一の人類であろう。ただ、静かに“家”で生涯を終えるつもりでいた。しかし、異世界の住民はそんな新野のことを放っておいてはくれなかった。連日、日夜問わず、チートの“家”に訪問してくるようになった。

 そこである決まりをつくった。

 “家”から3キロ圏内の無断侵入の禁止。

 月曜日を人族との会談の日。

 火曜日を魔王との会談の日。

 水曜日を亜人エルフとの会談の日。

 木曜日・金曜日を雨のため中止になった日の予備日として……。

 時間は午後から日没までとした。

 

 本当は“家”に籠り一切“外”に出るつもりはなかった。だが、“外”で連日・昼夜問わず騒がれては我慢が限界にきた。仕方がなく。それぞれヒト・魔物・亜人側と接触する日を設けた。

 働きたくないのに、訳が分からない展開になったと悩んでいる訳である。


 今日は水曜日。亜人側が接触しに来る日。

 “天の月舟”(見た目がUFO)から降りてきたのは成人男性のヒトと同程度の背丈の猿。服は着てる。体毛が濃いので薄着だった。彼は猿の獣人種のアスフォデルヌンス。名前が長いのでアスと呼んでいる。アスは九番目の死者の魂と会話できる加護がある。アスはレアの支配の加護に支配されていた。

 エギムーが新野の加護である“家”の中に転移しようとして、支配の加護から解放されたことを思い出した。

 ならばと思い、“家”の“結界”に触れろとアスに助言した。案の定、アスはレアの支配の加護から抜けて自由の身になった。それからはなぜか新野に好意的に接触してくるようになった。決して自分からは使おうとしなかった冥府の加護を、新野の為ならと、自由に貸してくれるようになった。

 ただ、アスの冥府の加護にも条件があると告げられた。

 発動条件の時間は、丑三つ時(午前2時)前後。特に満月の日なら確実にできると……。

 アスが新野側についたのなら黒龍エンドウもレアに従う必要はなくなる。

 自然に黒龍の子はレアから離れ、レアも姿を消した。ここ数週間は姿を見せていない。

 

 「新野君、元気かい?」

 「いつも通りです。アスも元気そうでよかった」

 「はは、レアの支配から解放されたからですかな」 


 アスの表情はいまいちよく分からない。が、笑っているようだ。年齢は新野の父親程離れてると言われた。


 「ダリアはまだ(UFOの)中ですか?」

 「ええ。そろそろ出てくると思いますよ」


 ナニカ含みでもあるのか、すこし声のトーンがいつもと違うように聞こえた。

 美人と会えるのだ。多少楽しみにしてもいいだろ。


 「おじさん。おじさん。お腹空いた。アレ頂戴」

 「……誰がおじさんだ」


 アスのすぐ近くに黒龍の子エンドウがいた。年齢は7~9歳くらいだろうか。

 普段は人の子の姿。戦闘になると黒龍の姿に変わり無類の強さを発揮する。

 エンドウのことを最初は暗い子だと思っていた。アスと暮らすようになって、少しずつ元気な生意気な子になってきた。

 

 「新野君、すみません。うちの子が……家についたらきつく言い聞かせておくので」

 

 アスはエンドウを養子として引き取った。実の子のように面倒をみている。

 エンドウもアスを父として認識するようになった。

 冥府の加護で母との接触することはなくなった。

 

 「坊主、アメでも舐めてな。準備したら持ってくるから」


 投げたアメは放物線を描いて、結界を通りこし、エンドウの手に渡る。

 

 「ありがとうー」

 「歯はちゃんと磨けよ」

 「平気だよー。魔法でピカピカにするー」


 そうだった。こちらの世界では虫歯になることはない。

 魔法が一般的に使われ、虫歯予防の魔法が存在する。

 便利なことだ。

 自分は加護があるから病気にはならないと思う。万が一というか、習慣があるので歯磨きはしっかりするが。


 やることは変わらない。亜人・人間・魔物と会話して物資を提供するだけ。無料タダで提供はしない。魔物からは魔境の珍しい果物と交換する。魔境の果物は、見た目に反して、甘くみずみずしくて美味しかった。


 段ボールに詰めれるだけカップ麺を入れる。

 

 「レイ、後はいつも通りに頼む」

 「ハイ」


 銀色の金属の外観の人型ロボットのレイ。レイは軽々と段ボールを持ち運ぶ。

 チョコバーを数本掴み庭に出る。

 待っていたエンドウにチョコバーを投げ渡す。

 黒龍エンドウはチョコがかなりお気に入りのようだった。会うたびに欲しいとせがまれる。 

 結界越しで適当にアスやエンドウと会話している。


 そろそろ一時間も話しただろうという時に彼女が現れた。

 アスが何か隠している理由が分かった。

 ああ美しい。そう思った。最初に会った時の服装ではない。2度目に会った時の白い絹の貫頭衣でもない。その服を例えるなら……。

 じっと見つめていると、目が合う。ニコリと笑う。


 「どうですか?新野に頂いた異世界の服は。おかしくありませんか?」


 くるっと一回転をする。


 「ああ、とてもいい!」


 その声は本心だった。

 エルフたちが色気を使い新野を“外”に出そうとした作戦。目のやり場に困った。器量のよいエルフの女性が薄着になったり、肌の露出を多くして……。

 特に新野はエルフのダリアに目が釘つけだった。異世界に飛ばされて最初に会った女性。

 その時からぼくは……。

 考えからダリアの少し怒ったような声で現実に引き戻された。

 

 「少しお昼を過ぎてしまいましたね……。約束通り、今日は私が腕をかけて作った料理を振る舞います」

 「期待してます」


 そろそろ夏が終わる。

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