日常?
大森林の中央に位置する場所に“それ”がある。何も文明の跡がない森に、日本式の“家”がぽつんと存在する。周囲数百キロ囲まれた森。“家”の周囲50メートルは空き地になっている。
どうやって、資材を運び建てたのか不明。何の目的があってそこに家を建てたのか。誰が住んでいるのか。見たこともない構造物は何なのか。
いつ、どのようにして建築したのか。まるで“魔法”によって一夜にして出来たような“家”が緩衝地帯の森にある。
「それで、その物騒な漆黒の弓を構えるエルフの女に邪魔されたわけさ。エルフの町で商売できなくなるかもしれん。オレの転移の魔法はバレちまった。すまねえ、新野から預かった商品も置いてきちまった……」
「そう……。もともと商売をやろうと考えてないからどうでもいいよ」
「どうでもいいって……。あれだけの利益を短時間に得られるのに……。そういや、そのエルフは新野の事を知ってそうだったぞ」
思い当たる節はある。と、いうより、彼女しかいない。
別れ際の少し悲しそうな顔のダリアを思い出した。むしゃくしゃして八つ当たりしてしまった事を後悔していた。次に会うことができれば、もっと優しくなりたい。
「で、このチーズケーキの味はどう?」
商売の報告をしに来たエギムーと新野は、紅茶を飲みながら、太陽の陽射しの下で優雅にケーキを食べていた。
「うむ、悪くはないぞ」
今に思えば、自分の行動は異常だったと思う。新野が異世界に連れてこられる数カ月以上前から、缶詰や食料・服に日用雑貨に、書籍類。家電等、ありとあらゆる物を購入した。女物の服ですら……。ストレスを買い物で発散させてるだけだと思っていた。
ケーキだって普段口にしないのに、召喚される前日の日曜日になぜか購入した。
最高位の神に操られていたのか、意識を誘導されていたのかは分からない。が、今はそれに感謝している。もう二度と新しい物は手に入らないけど、一つあれば複製できる。
これだけあればずっと“家”に引きこもれる。インターネットが使えるのがありがたい。
一三番目の加護の力は“家”の中にすでにあるものは使っても、無限に複製されるが、異世界から持ち込んだ物は複製できなかった。
「エギムー。男2人で談笑するのはな……。 美人の女性に“変化”してくれないか?」
「オレは人間の顔の美的感覚はいまいち理解できない。まあ、新野の頼みじゃ断れないがな。いずれ会うだろう顔の人間に変化してやるか」
やや赤みがかった肌の40代の男が、一瞬のうちに若い少女に変化した。
「で、でかいな……。まあ、美人だよなぁ……」
15歳前後に見える。しかし、身長が2メートル近くある。身長だけではなくて、女性の象徴する部分もかなりでかい。黄金色の髪に青い目か……。将来美人になるだろうと思われる。
それにしても、いずれ会う人間?誰だろうか?
「ミラの体を借りた。ミマス帝国の王女にして新野を狙う者だ。人間共にとっては美人らしいぞ。オレは美人かは判断できぬが、因縁があって好きじゃない」
ミマス帝国の王家は巨人族の血を引くと聞く。2メートルの身長に納得した。王は3メートルを超えるほどあるらしい。
ミマス帝国で思い出したことがある。それを今、新野に“外”の情報を唯一提供してくれる相手に質問する。
「話は変わるが、ミマス帝国が僕に接触しに来てるって……。うん??」
エギムーが少女から男に元に戻る。目は森の奥に向けている。
「噂をすれば……というやつか。オレの高性能な耳が人間の話声、足音を捕らえた。もう数キロ近くにきてるぞ。ミマス帝国の先遣隊だ。酒場の噂で聞いた。やつらは“転移門”を設置するらしい」
「え、え、ぇぇ。これ以上誰にも会いたくないよ。それに“転移門”とは何です?」
「オレ様の“転移”なら千里の彼方まで瞬時に移動できる。個人でやろうとすると、人間共や亜人も無理だろうな。ただな、“転移門”を2カ所に設置すると、その間を行き来できる。それでも最大300キロだな」
300キロも……。エギムーは規格外だとしても魔法はすごい。東京から愛知県まで行けるとは魔法恐るべし。
「ん?誰だ。オレに無断で念話で話しかけようとする不届き者は。おい、お前!オレ様が誰か知っているのか!?」
急にエギムーが誰もいない空に向かって怒鳴る。
魔法で通話をしてるのだろう。何でもありだな……。
「シャロン様!、はい、はい……。魔王様が――」
今、確かに魔王と言った。この世界にいるの!?初耳だ。
「すまん、魔王様に呼ばれた。至急向かわなくては」
名残惜しそうにケーキを見る男。
「残りは全て貰ってどうぞ」
「すまんな」
いろいろ聞きたいことがあった。これからどうしよう?
もうすぐ、ミマス帝国の人間が“家”に来る。




