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チートの家に引きこもる  作者: ニビル
第二章 外
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幻の商人

 エルフの国。人間国に一番近い町、ローレン。住人の8割がエルフ、残りの2割が獣人種とドワーフ種。少数だが人間種も活動している。緩衝地帯の森から一番近い、西側に位置する町。ローレンの森と調和して人工的に造られた町。樹木の中をくり抜いて造られた幻想的な街並み。ローレンの森は、外敵から守るために、エルフの強力な幻術が掛けられている。そのため、決められた道しか通れない。通称、『ローレン街道』。一歩道から逸れると、一生迷ってしまうと信じられている。

 ローレン街道に一人の人間種の男がいた。働き盛りの年齢。口笛を吹いて機嫌がよさそうだ。護衛はいなく、一人しかいない。背が高く、鍛えられた肉体をしている。男は背嚢を背負い、歩いている。身なりから商人だと分かる。普通、商人は馬車などで多くの物資を運ぶので、徒歩で移動する商人は珍しい。亜人側と人間側は敵対しているが、交易は別であった。許可があれば、“許可”された町で商売できる。ローレンの町も、人間の商売を許可された、貴重な少ない町の内のひとつであった。

 逆に人間側にも同じような町がある。

 

 ローレンの町の入り口。エルフの守衛が、魔物から人間にした“変化”したエギムーに、身分証の提示と、入場料を求めてきた。


 「これでいいか?」


 交易許可証と銀貨を渡す。


 「持ち込み禁止物を所持していないか?」

 「……ああ」


 エルフは人間と比べて、長寿の種族だけではなく、相手の“嘘”を見破れる性質がある。ゆえに、嘘はつけない。背嚢に入ってるのは異世界の食料。

 人間達の場合は、荷を直接検査したり、魔法を駆使したりしている。

 禁止物を持ち込んでないことを確認した守衛は、魔法を唱える。


 「間違いない。本物の銀貨と許可証だ。今日一日の滞在費、たしかに受け取った。……ん?何度か見た顔だな。すでに知ってると思うが、規則なので繰り返す。日没までに戻ってこい。もし戻らない場合は、不法滞在として、交易の許可がある商人と言えど、法律に則って裁きを受けてもらうことになる」

 「日没までだな?問題ない。すぐ終わる」


 エギムーはレアの加護に“支配”される前。人間に化けて、商人の真似事をしていたので、許可証を所持していた。許可証はかなり古いが、更新は一応していたので問題はない。エギムーの転移の魔法は交易するのに便利だった。少ない労力で、大きな結果を出せる。

 例えば、鉄が安い国で鉄を仕入れる。それで、鉄が高価な国で売る。その繰り返しで、財を得た。その時のお金は、酒や肉ですべてなくなったが……。エギムーは“転移”の魔法で、千里の彼方まで瞬時に移動できる。転移の魔法は高等魔法だ。おいそれと、個人で習得はできない。


 「さて、カップ麺と砂糖を、さっさと売って、酒でも買おうか」


 新野からは無理に働くなと言われている。7日の内、1日数時間働くだけだ。異世界の食べ物はこちらでは手に入らない。品質、味も良い。物珍しさもあり、それなりの値段で売れる。働くのは嫌いだが、1日数時間働くだけだ。レアの加護で“支配”されて、“自由”を奪われていた頃よりは天国のようだ。新野はダチだし、オレを“支配”の加護から解放してくれた恩がある。それに……金がなければ酒を買えない。


  魔物で人間たちと商売している変わり者は、オレ様くらいか……!?


 指定された露店エリアにつく。周りにはオレ以外の人間の商人がいた。獣人種、ドワーフ種も露店で、それぞれの国での特産品を販売していた。

 シートを地面に敷いて、その上にカップ麺を見栄えよく並べる。


 「よお。久しぶりだな?今日も20個しか売らないのか?」

 

 隣の露天商の人間の男が、人間に化けたエギムーに親し気に話しかけてきた。

 前にも会った……と思う男だ。エギムーは人間の顔の判別があまりできない。どれも同じように見える。加護持ちの新野やレアは別だ。あとは、巨人族の血を引く女に、オレが負けたあの男も。くそっ、忌々しい過去を思い出した。顔を判別できないのは、魔物だからだろうか?


 「そんな所だ。買っていくか?」

 「う~ん。1個、1個が高いんだよなー。まとめて買うから安くできないか?」

 「それはできない相談だ」

 「残念だ」


 隣の露天商の男は諦め、自分の商売をしだす。

 それから、大抵は冷やかしだが、ちらほら客がやって来た。

 残り数個の所で、一人の若い女が近寄る。麦の穂のような、長髪の髪が風に揺れて二つの尖った長い耳が確認できた。相手はエルフの女だ。

 左手に漆黒の短弓ショートボウを携えている。佇まいから、争い事に対処できる力を持っていると感じる。

 

 「ローレンの町で噂にあった、変わった食材を仕入れる人間の露天商。その存在は霧の如く掴めず、不定期に現れ、すぐに立ち去る。まさか、本当に、幻のような商人がいるとはな……。お前のことだな?“異世界”の『カップ麺』をどこで手に入れた?“新野”と、どういう関係だ?お前は何者だ?」

 

 詰問するような鋭い口調。

 エルフに“嘘”はつけない。

 内心、エギムーは焦る。このエルフは、新野から貰ったカップ麺の事を知ってやがる。どうやって知りえたか不明だ。このような事態になったならば、ここいらで商売・・はできそうにないな。

 人間の恰好に変化して商売すれば、人間の珍しい食べ物だと思って、エルフにはバレにくいと思ったんだがな……。まあ、これほど未知の食べ物なんてそうあるわけねーよな。あとで、売るはずだった砂糖はどうするかな?

 

 「さてな。異世界?なんのことやら……。営業の邪魔だよ。買わないなら、どいてくれ」

 「お前は今、“嘘”をついた」


 緑色エメナルドの瞳がエギムーを捉える。まさに獲物を見る狩人の瞳。

 少しでも抵抗する素振りをするなら、即座に短弓ショートボウで射貫かれよう。エギムーは素手の格闘技にも自信はある。

 だが、多勢に無勢。もめ事を起こせば、即座に兵士が集まってくるだろう。ここは仮にもエルフからみたら、敵国に一番近い町。訓練された兵士も多い。

 ここでもめ事を起こして、新野に任された、商売を邪魔されるのもな。

 報告はしないとまずいよな。カップ麺数個はここに置いていくしかないか。


 「どうしたものか」

 「……何か言ったか?」


 エギムーはエルフを馬鹿にしたような不敵な笑みを浮かべる。

 “転移”で逃げるか。 


 「あばよ」


 瞬時に消える人間の恰好をした商人。

 唖然とするエルフ。


 “珍しい物”を売る、幻の商人の噂が広がるのは必然だった。

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