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チートの家に引きこもる  作者: ニビル
第二章 外
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嵐の前の静けさ

 午後三時――


 森の中にぽつんとある場違いな異世界の日本式の“家”。その庭に、二人の男が椅子に腰かけている。テーブルにはツィキーが山盛りの皿と、湯気が出るほど暖かいコーヒーがある。

 ツィキーとは、主にエルフ種などが旅をするときや、肉体労働者が携帯する携帯食である。クッキーのような外観。蜂蜜のほのかな甘味と、アーモンドが入っていて美味しい。ダリアから手づくりのツィキーをもらい、新野が初めて食べた異世界の食べ物。

 “家”の“結界”越しに向かい合う、異世界人の新野と、人型の魔物であるエギムー。

 

 「いやー。ツィキーが欲しいなんて言って悪かったです。まるで催促するような形になってしまって。僕が初めて食べたこの世界の食べ物。どうしても味が忘れられなくて……」

 「おう。別に気にしなくていいぞ。新野には異世界の酒を貰ってばかりだからな。安いもんだ。コーヒーもツィキーに合って、中々美味いぜ」

 「それはよかった。砂糖を入れて甘くしても美味しいと思いますよ?」

 「砂糖か……。こっちではかなり貴重な……。まあ、新野にはこちらの常識は関係ないな」

 「それにしてもツィキーをどうやって手にいれたんですか?主にエルフが販売しているんですよね?魔物のエギムーが……」

 「オレが“転移”と“変化”の魔法が得意って話ただろ?エルフに“変化”して、“転移”してエルフの町まで一瞬で行った」


 そういうなり、中年の男が、エルフの造り物のような美しい顔の青年に“変化”した。服装も変わり、異世界のようなゆったりとした恰好。

 

 「お、ぉおおお!」


 新野はとても驚く。これだよ……。魔法がある異世界に来たんだ。地球では絶対見れないことが、こちらの世界では体験できる。

 

 「人前では絶対“変化”はしないんだがな。親友の証として、特別に見せてあげてやったぞ」


 姿は変わっていた。ただ、声だけは同じだった。低く、渋い低音。それでいて遠くまで響くような声。声からは貫禄がでていて、こちらが逆らえないような凄みがある。エギムーは、500年以上生きていると聞いていたので納得した。

 いつの間にか、新野とエギムーは、友達から親友の関係になっていた。お互い仕事が嫌いだという、共通の話題があると話は弾む。

 操られていたといえ、敵だったエギムーと今の関係になれたことは不思議に思う。

 “家”には新野と世話係のロボットのレイしかいない。“家”の周りは広大な原始の森が広がっているそうだ。この森は特殊な事情があり、人が踏み入れることはあまりないと聞く。

 そこで、気が合い、“転移”でいつでも会える存在のエギムーと出会えたことは幸運だった。



 「そうですか……。なら、もっと変化してくださいよ。兎になれますか?いや、変化してください」


 もっとも、この異世界に兎がいるかすら分からないが。

 

 「お安い御用!」


 と、言うなり、エギムーは先ほどのエルフの青年から、一瞬にして白い兎に変化した。


 「どうよ?この凛々しい姿は?」


 どういう訳か、兎のまま、普通に言葉を話していた。


 「え、凛々しい……?」

 「チッ、次は勝手に変化していく」


 多種多様な人間に変化をする。老若男女と性別に、年齢と関係なく変化する。人間だけではない、いろいろな種族にも変化する。


 「はー、魔法ってすごいな。“変化”の魔法が使えれば、何でも変化できるのですか?」

 「おいおい、北の“魔境”で500年以上生きたオレの“変化”を、そこいらの青二才のはなたれ小僧と、比べてもらっちゃ困るぜ。“変化”と“転移”だけは誰にも負けない。誰にもだ!」


 興奮したのか、エギムーの変化はとけて元の姿に戻る。


 「分かりましたよ!ん?今何かひらめいた気が。よし、というわけで、直ぐにでも“転移”で――」


 思い立ったが吉日、即行動する。

 新野の言葉に従いエギムーは“転移”して消えた。2時間ほどで戻ってきた。まだ、日は落ちていない。

 想定したより早すぎる。“転移”の魔法が欲しい、覚えて使いたい。



 「はー、疲れたぜ。“異世界の酒”があればもっと頑張れるんだけどなー」

 「それより“商売”の方はどうでしたか?あとでお酒なら、いくらでも渡しますよ!」

 「ン……?アレか……。人間、エルフ族にも売れに売れて困ってるぜ。もっと在庫はないのか、どこから仕入れているのか、大金を積むから独占契約を締結してくれってうるさくてよー。何か欲しいものがあるのか?」

 「売れてるようで何よりです。これから必要になると思って……。人間達と今後取引するなら、“お金”は大事だと思うから」

 

 異世界といえど世知辛い世の中だ。こちらの世界は、紙幣はないが、貨幣の概念がある。お金はなければ生活できない。新野にとってどうでもいいが、異世界の物を手にいれるにはお金がどうしても必要だった。新野は労働から解放された。だから、“家”に引きこもることにしたので、普通に汗水たらして働きたくない。そこで、“無限”にある“異世界の食料”をエギムーに渡して捌いてもらっていた。新野は何もしない。運搬はロボットのレイがする。実際に取引は悪魔のエギムーがする。新野は報告を聞くだけ。

 

 「なあ、余った金で、酒やら肉を食ったけど良かったのか?貰いすぎじゃないか?」

 「僕と“外”との接点があるのはエギムーだけだ。キミだけが頼りだ。親友よ。(こう煽てれば、仕事をしてくれるだろうな……)次は“砂糖”も取引したいと考えています」

 「砂糖か……。貴重な物を。オレはもう何も言わんぞ」


 レイに追加のカップ麺20個を、エギムーがいる“外”に運搬させる。これが一度に背嚢に詰める限界だった。

 


 「貨幣だけでなく、物々交換もあるんでしたっけ?」

 「あるな。だけど、急にどうした?何か交換でもしたいのか?」

 「いえ、ちょっと気になっただけです。それと、何か“物”を収納する魔法はないのですか?一度に、もっと沢山のカップラーメンを捌きたいんですよね……」

 「いや、オレは知らんな。人間たちの商人なら、何か方法を知ってるのかもな。ところで、――」


 エギムーから衝撃の事実を聞いた。どうやら僕は異世界で王になったらしい。神に加護を与えられたこと。それ、すなわち、神からの地上の統治者としての“資格”を得たということになるとのことだ。王権神授説を思い浮かべた。


 「“家”には、僕とレイしかいない。また新たな下部しもべれということなのか……?」


 新野はまだ知らない。自身が真なる加護持ちのことを。そして、神に愛されし者が、ミールの民にどのように、目に映るのか。 


 それから、しばらくの間、変わらない穏やかな日常が続く。

 嵐の前の静けさと知らずに……。

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