それぞれの思惑
前話の内容を大幅に修正しました。
世界各国、それぞれの思惑を持ち、動きだす――
ミマス帝国には、国で主導して“転移門”を研究、設置をする転移省がある。“転移門”の魔法は基本的に民間ではなく、全て国が管理・運用する。
緩衝地帯の森に隣接するミマス帝国。
緩衝地帯の森のすぐ隣にある空き地。そこに、大勢の人員と資材が集まる。
これから森の中央に位置する異世界の“家”に、“転移”するための転移門を設置する準備にかかる。
資金はミマス王自らの資産から出した。そのおかげで潤沢の予算が転がり込む。資金と権力に物を言わせ、建設に使える優秀な魔法使いを帝国中からかき集めることができた。1週間という短い期間で、突貫作業をして遠距離用の“転移門の神殿”を作り上げた。テニスコートくらいの大きさの白い神殿。一度に10人から20人までを長距離転移できる。森の中央に鎮座する、異世界の王が住まう“家”までの距離はおよそ300キロある。遠距離用の転移門がぎりぎり届くかどうかの距離。
片方だけの門だと転移門は機能しない。もう一方を異世界人の“家”のすぐ近くに、設置する必要がある。
空き地の転移門の神殿の近くに場違いな豪華な屋敷がある。物ものしい警護の兵士が大勢いる。他は、テントや簡易住宅しか見当たらないのを見れば、その豪華な屋敷に身分の高い者が住んでいることが推測できる。豪華な屋敷の一室で、一人の偉そうな背の高い少女が、一人の白髪交じりの、いかにも役人と言った中年の男を怒鳴っている。
「その説明は何度も何度も、聞き飽きましたわ!いつになったら“転移門”は完成するのですか!?我が国の“王女”である私に、未整備の森の中を散歩して、直接“異世界人”に会いに行けと申すの?300キロも森の中を移動なんて……ッ!」
「……いえ、決してそんなつもりはありません。しかし、何分、森の中は未開の土地です。移動するにも一苦労します。“異世界人の王”が住まう“家”の近くを開拓する必要があります。それから、転移門の神殿を建設するのには時間がかかります。一週間で片方の“転移門”を建設出来たことが異常なのです」
「王が直々に出資したのです。出来て当たり前です。早く私の“未来の夫”に会いたいわ。とにかく急ぎなさい。エルフが何か探っていると情報が上がってきていますわ。お前たちは寝る間を惜しんで働きなさい。これは国の命運が決まる重要な仕事だと思いなさい。上手くいけば私が直接、お父様にお前の事を口添えしてあげるわ」
その言葉を聞くと、中年の男の顔が極度の緊張から笑みに変わる。
「……はっ、直ちに仕事を完了させます。私、“アルカディー”の事をお忘れなく!」
男が一礼して部屋を去ったのを見届ける。
「それで、レア。今回の失態をどう弁明するのかしら?」
王女がいる部屋なのに、自室の様に寛ぐ中性的な顔の男がいる。
「まさかボクの“支配”の加護が負けるとはねー。エギムーの“転移”は使えなくなったことは残念に思う。だが、優秀なボクの手ごまを一つ無くしただけだ。“異世界人”の情報を持ち帰れたのは誰のおかげかな?悔しいが、これで一敗。次は“本命”の駒を使う。異世界から来る王を僕が“支配”して見せる」
「ふんっ!自信だけはあるようね」
ミマス帝国は緩衝地帯のルールを守るつもりはない。急いで門を設置すれば、それであとはどうにもなると考えている。
どんな手段を使っても、新たな加護持ちの新野と接触をしたいという意思表示が分かる。
◇
エルフ種には大きく分けて2つの勢力がある。一つは、ダリアが所属している百の深緑(森)を支配する一族。七番目の“結界”の加護を持つ王が率いる勢力。
そして、二番目の“神託”の加護を持つ、王が率いる勢力。
ユリはエルフの精鋭戦士に守られて、大樹の中に造られた神殿で生活を営む。巨大な大樹。樹齢推定1万年という恐ろしい年齢。エルフの種族は長寿で人間より寿命が長い。それでも400年程度。
ユリ。外見年齢は14、5歳。白い色素の肌。白い髪。黒色の眼。エルフ種特有の尖った2つの耳。彼女が好きな、真っ赤なフードを着用して顔が見えにくい。靴もまた、血のような色の魔法のガラス製の靴。彼女を守るための特殊な“魔法”が込められている。
首にも赤い綺麗な石が埋め込まれたアミュレットをしている。このアミュレットの効果は対象に“幸運”をもたらす効果があると言われている……。
“神託”の加護の力は、神が天災など危機が起こる前に、ユリに神託を下し警告をしてくれる。“神託”されることは、数年に1度あるかの一方通行。しかし、神と直接に対話ができる存在としてエルフ内外に問わず“神聖視”されている。魔物の大氾濫もユリが神託を受けて、全世界に発表して危機を最小限に抑えた実績がある。
彼女は神託だけではなく、自身に関わりがある“予知夢”を見ることが可能だった。ユリは未来を知ることができる。
ユリは一般人が、最高位の神から夢で“異世界人の青年”の事を知らされる前に、“神託”の加護で新たな加護持ちが誕生することをすでに知っていた。ユリが信奉する神から「最高位の神に愛されし、真なる加護持ちが、異世界より来る」と神託を受けていた。
最初は新たな加護持ちの事なんてどうでもよかった。よって、この事はエルフの上層部しか伝えなかった。
しかし、最高位の神から一般人と同じように、夢の中で新野の説明を受けて、考えを変えた。目が覚めた朝、涙が止まらなかった。神の慈悲によって包まれた感触。全てを許してくれそうになる神の声。
それから何としても彼を……最高位の神に愛されし、十三番目の加護持ちと接触したいと思った。打算はなく、彼に一目会いたいと。そして“許し”を請いたいと……。
そんなユリの元に、重要な書類と“箱”が届く。
異世界人と最初に接触した者からの報告書。なんと、同じエルフ種のダリアが初めて異世界人と間近に接触したとのことだった。ダリアのことはカロンの親族であるのでユリも知っていた。ユリとカロンは仲が良い。お互い気軽に会える間柄ではないが、また彼女に会いたいなと思う。
報告書をめくりながら、一緒に届けられた“箱”を開ける。
中身は報告書に書いてあった通りの、異世界の食べ物とお酒が入っていた。
異世界人の出現によって“世界”は変わり始める。




