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チートの家に引きこもる  作者: ニビル
第一章 家
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“家”と“外”

 「冷静にならなければ……」


 深呼吸をして、心を落ち着かせる。朝、目が覚めたら窓から見る外の景色が一変した。住宅街から、青年の一軒家だけ、森の奥地にワープしたとしか思えない現象。

 普通では考えられない現象。誰かに話しても信じてもらえない。寝ぼけていたとしか……。


 「そうか……ここは夢に違いない。そう思わなければ説明はつかない。…………いや、夢にしても質感や色彩がリアルすぎるな」


 青年の見る夢はいつも白黒。色など一切ついていない。普通の人はカラーの夢が多いと聞く。しかし、青年の夢はいつもモノクロの色彩なのであった。ここは色がついているので現実世界だ。カーテンを握った感触もある。手っ取り早い定番として、右手で左手をつねってみる。


 「痛い……」


 左手に痛みを感じる。感触があるのでここは夢ではない。爪が伸びていたようで余計に痛い。

 いくら考えても分からない。玄関を開けて“外”に出てみることにした。

 

 ガチャ


 外の眩しい光が青年を優しく包み込む。その光は頭から徐々に足元まで照らされていく。青年にべったりとまとわりつくように……。青年は光を拒むことはない。ただ光を自分の一部として受け入れた。そして、光は敷地を含む家全体を金色の光が輝く。まるで世界から祝福されたような神々しい出来事だった。後になって青年は語る。


 その神々しい神の光は、遠方まで見えて、“青年”と“家”の存在が異世界の住人に知られることになる。


 「…………」


 うまく、言葉が出ず、放心してしまう。

 

 『貴方をこの世界は歓迎しましょう』


 妙齢の女性の声で、頭の中でそう聞こえた気がした。たった一言だけだ。

 青年が聞いた“神の声”が、この先長い生涯で再び聞こえることはなかった。

 “光”と“声”の圧倒的な存在感から勝手に“神の声”だと青年は解釈する。

 その声と共に、不安心が消えて、安心感に体と心が包み込まれた。

 瞳から涙がポロポロ零れてくる。止まらない涙。ひざをつき地面に崩れ落ちる。


 「“家”に居ていいんだ。……もう、“外”に出なくていいんだ……。う、うっううう……。ありがとうございます。ありがとうございます。“神様”」


 青年は産まれて初めて泣いた。両親が死んだ時も、涙のひとつもでないような薄情な人間だったと自分では思っていた。

 何となくであるが、自分が今置かれている状況が分かった。

 “家”のことと、“外”のこと。


 全てのしがらみから解放された青年は、その日、日が沈むまで“家”にいた。

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