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チートの家に引きこもる  作者: ニビル
第二章 外
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予兆

 小鳥のさえずり、虫の音。風の音。全ての音が静まりかえる。まるで誰も彼もが息を潜めてこちらを……新野に怯えているように……。

 長い沈黙を破ったのは、エギムーがごくりと息を飲み込む音だった。


 「おいおい、新野。急に何を言い出すんだ。……。返事なしか。答えてやるよ。5000年前なら、人間、亜人共は“魔法”が使えなくて、原始的な生活をしていたらしいな。だが、今は“魔法”がある。そこいらのガキだって“魔法”を使える。“魔法”だってここ100年でかなり進歩したんだぜ……!?今の人間共の文明と昔の文明と比較すれば答えはでるな。劣った文明が進んだ文明に取り込まれるのか……?」


 新野の暗く、黒い瞳がエギムーの赤い瞳と重なる。 


 「違います。答えは、劣った片方の文明が、遥かに進んだ文明の“力”によって消滅するです。僕がいた世界の歴史がそれを証明しています」


 新野の声は恐ろしく冷たく、これから起こる、ミール史の事を予兆しているかのように聞こえた。


  「オレはよう……人間の加護持ちに“支配”されてから、人間を嫌っていたけど、酒を生み出したことだけには感謝している。新野がいた世界は“魔法”ではなく、“科学”が発展してたんだってな?だが、それがどうした。人間、亜人……それに、魔物が同盟を組んだら、オレらより遥かに進んだ文明だろうと怖くねえなぁ」


 

 新野はエギムーを無視する。近くに控えていたレイを手招きして呼び、レイの耳元で囁く。しばらくして、レイは黒色のノートパソコンを持ってきた。

 

 「何だ、これは?」

 「取りあえず何も言わず、黙って見てください。僕のお気に入りの戦争映画です。既に30回以上は観てます……。って、この話はいらなかったですね。半世紀以上前の僕らの世界の“魔法”ではない“兵器”を使った“戦争”です」


 エギムーは混乱した。黒くて、薄い四角の形の箱を新野は持ってきた。異世界人の新野が何を出すのか興味があった。えいがって何だ?何も分からないからこそ、新野の世界が気になる。多少、異世界の事を聞いてもオレにはよく分からなかった。一つ気になったことがあった。新野は淡々と自分がいた世界の事を話していた。オレがこの世界から何所か異世界に突然行ったら――


 エギムーが考えに没頭していると、音と光が先ほどの四角い箱から出ている。

 

 「な、何だってんだ?」


 レアの加護の魔法は、“支配”した魔物の視界の映像を映しだすことができる。箱の効果は、それと似たような物だと解釈していた。

 話が進む。オレが想像していた“戦争”とは違った。“銃”と呼ばれる武器。弓や魔法より早く、射程距離も長い。一瞬で人に死を与える物。また航空兵器。空からの攻撃。鉄の要塞のような乗り物。爆弾と呼ばれるもの。他多数の未知の兵器。


 「どうでしたか?過去に僕のいた世界で起こった戦争は?今は“もっと”進歩していますよ?」

 

  100年で“魔法”がどれだけ進化、体系化したのを知っている。だが、これに対抗できるだろうか……?

 

 「新野の加護に“異世界の兵器”が関係あるのか?」

 「あるかと問われれば、“あります”。時間と“外”の協力が必要だと前置きします。“インターネット”に接続して調べれば、これらの兵器をいくつか再現できるかもしれませんね」

 

  とんでもないことをさらっと言いやがった。酒の席だからだろうか。新野の顔は赤い。

 

 「おい、まさか……新野はミールを破滅に追い込みたいほど恨んでいるのか?違う世界で生活をしていたんだよな?それで、一方的にこちらの世界に連れてこられたんだろ?」


 エギムーは新野と会う前はおっかないやつだと思っていた。エギムーは小心者である。最も高位の神に愛されて、加護を賜りし者。神が空の色を血の様に変える力。全種族に夢の中で神託を下したこと。力の一端にしかないだろうが、“世界”を変える影響力がある力だということがわかる。“家”に近づくにつれ、“神気”が濃くなったこと。だが、直接新野と会話して、飲んで、意外と良いヤツだということが分かった。それが今度は何を言いたいのだ!?新野の発言の裏に潜む意味を考える。


 「逆です。感謝すればこそ、恨む気持ちは全くありません。むしろ、この世界に来れて本当に良かったと思っています。僕は異世界ミールをどうこう変えていきたいと思いません。こちらの魔法文明を尊重します。また、僕の世界の事を広めるつもりはないです。僕がいた世界では加護も魔法もありませんでした。だから“魔法”のことをもっと知りたい。僕の知り合いにエルフがいます。彼女は僕には“魔法”の素質がないと言いました。しかし、僕は可能性がある限り諦めません。時間はいくらでもある」


 そこで一端話を区切る。

 話し過ぎて喉が渇いたので、残ったビールを喉に流し込む。

 

 「僕の“加護チート”は、僕が望んでいた“引きこもる”ことに特化しています。電気や水道が通っている“家”もあります。飢える心配もありません。不当な暴力に怯えることもない。掃除、洗濯、料理を完璧にこなす世話係ロボットもいます。これは予想だけど、“家”にいるかぎり、僕は“病気”にかかることも無いでしょう……。あとは死ぬまで、静かに余生を過ごしたいと考えています。飲み友達もできました。エギムーならいつでも構いません。異世界のお酒とつまみで歓迎しましょう」


 新野の答えに満足したのか、エギムーは笑いだす。


 「そりゃあいい。ビールって言ったか?量は少ないが悪くなかった。焼きうどんも美味かった。ご馳走さん。次に来るときは、オレのお勧めのこっちの世界の酒と、土産を持ってきてやろう。あ、そうだ……」


 別れ際にエギムーは新野に忠告を促す。“支配”の加護により、途中までエギムーが見た新野の情報が帝国に伝わった事。これから軍事大国のミマス帝国が新野に接触しにくるだろうと、不吉な事を言い残して、煙のように新野の目の前から“転移”で消えた。



 「あっ、エギムーに“転移”の魔法を聞けばよかった」


 家の中の移動すら新野にとっては面倒に感じる。魔法を使いたいなと思った。

 片づけをレイに任して新野は部屋に戻る。


 「ただ僕は静かに過ごしたいのに……」


 その願いは叶わない。

 多くの勢力が、それぞれの理由から新野を“家”から“外”に出そうと動き出す。

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