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チートの家に引きこもる  作者: ニビル
第二章 外
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来訪者とお酒

 平日の昼間にも関わらず、新野はやっと起き出した。時計の針は午前10時を指している。普通ならとっくに起きていて、会社で仕事をしている時間だ。

 しかし、高位の神の力により、異世界に召還されたことによって、新野の環境は激変した。もう時計に支配されることはない。眠たければ眠り、起きたければ起きる。誰にも指図を受けることなく、急ぐ理由もない。新野が働くことは二度とないだろう。


 「自由だ。休日も仕事の事を考えて、休んだ気がしなかった。ゆっくり寝れたなー」

 

 はぁ……。また独り言をこぼしたと、ため息をつく。

 仕事という全ての煩わしさから解放されて、気分がかなり良い。心が穏やかになっているのを実感している。


 「レイ……いるか?」

 「ハイ」


 すぐ後ろから声が聞こえて驚いた。まさか真後ろにいるとは思わなかった。レイはロボットの外見をしてるけど、気配や音が全く聞こえない。

 レイは寡黙気味だけど話し相手もいる。もともと新野は話す方じゃないので十分すぎる存在だ。


 朝の日課に、新野を労働から解放していただいた名前も知らない神に、心の中で礼を言う。


 「おはよう。少し早いけど昼飯の準備を頼むよ。今日は焼うどんで!」

 「ハイ」

 「料理が出来たら庭に持ってきて」

 

 外の天気はよく、気候も暖かい。空には雲一つなく、澄みきった青空が何所までも広がる。

 空気も自然に周りを囲まれているのか美味しく感じる。この森には文明の跡はない。あるとすれば、こちらの世界の文明レベルより格段に高い、“青年の家”があるだけだ。

 

 庭には椅子と机があり、新野は椅子に座りながら読書をしている。BGMは自然の風の音、木の葉が地面に落ちる音、時折聞こえる小鳥のさえずり。

 

 「すごく、気分が落ち着くなー」

 

 蚊などの害虫は“家”の結界によって、中に入ってこれない。“家”の中は快適そのもの。

 新野が心から望んだ平穏な時間を潰しに来た者がいた。“家”の主に望まれない“来訪者”が“家”に突然現れた。先ほどまではいなかったはずだ。数秒間目を離した隙に現れた存在。

 その外見はまさに想像上の悪魔。黒色の体色。頭には二つの尖った2本の角があり、背中には蝙蝠のような羽があり、瞳は血のような真っ赤な色をしている。

 口が裂けるほどの笑みでこちらを見下ろす、上半身裸の悪魔。口の中は鋭い牙があった。2メートルはある大きな身長。大きい物に人は潜在的に恐れる。しかし、“家”の中は安全だと保障されているので問題はない。むしろ、新野はようやく、異世界らしい存在に巡り合えたとすら思っていた。

 悪魔が“家”の手前でこちらをじっと見ている。


 「よお。オレは悪魔のエギムー様だ。お前が新たな加護持ちらしいなぁ?オレの主から伝言がある。大人しく降伏しろ。さすれば、客をもてなすようにと……丁重に歓迎するとさ。さあ、返事をしてもらおうか?」

 

 低く、それでいて響く声で、新野に一方的に要求を通告する。


 「一つ答えてください。それ次第で考えますよ。まず、ここまでどうやって着たのか教えて頂きたい。ここは誰も住んでいないはずの森です。貴方はこの森に棲んでるのですか?この土地は貴方の所有地なのですか?」

 「はっ!誰が好き好んで、辺鄙で何もない森に棲むものか。普通は酒がある町だろ?オレは“転移”の魔法が得意だからな!どこでも好きな場所に行けるんだよ」


 怖そうな外見の悪魔と普通に話してる自分に驚く。随分図太い性格になったなと、自分を冷静に見つめる。見た目とは裏腹にお酒好きなのか。ビールなら冷蔵庫にあるんだよな。異世界のお酒だ。普通では手に入らないから貴重なはずだ。交渉次第ではいろいろと使えるかもしれない。

 “転移”の魔法か。緩衝地帯の森も数百キロはあるはずだ。魔法は現代の科学を上回る性能を秘めていると改めて思った。

 “転移”で“家”の中までも入られることは……ないはず。恐れることは何も無い。


 「で、もう一つ。“加護”とは何ですか?僕のことも知ってそうですがなぜですか?」

 「質問は一つではなかったのか。で、――というわけだ」


 悪魔は律儀にも質問にしっかり答えてくれた。

 300年振りになる、13番目の加護持ちとして異世界に迎えられたらしい。加護とは神に愛されしものに与えられた力。新野のことを知っていたのは、神自ら夢の中で全種族に新野の事を紹介してくれたらしい。

 

 「僕は神に目をかけてもらったのか。心当たりは……ないな……」

 「おしゃべりは終わりだ。オレはさっさと仕事を終えて、好きな酒を飲みたい。大人しくお前もオレに“屈服”して、“支配”されろ」

 

 エギムーは下がり、呪文を唱える。


 「小手調べだ!これに耐えられるか?」 


 すると、手からサッカーボールくらいの火の塊が出現する。エギムーはその火の塊を物凄い勢いで“家”に向けて投射する。

 が、“家”の“結界”にぶつかり火は音もなく消える。まるで初めから火などなかったように、“家”は存在する。


 「次はオレが直接“転移”してけりをつけてやろう……いつまで余裕の笑みを浮かべてられるか。その面を泣き顔に変えてやる」


 新野は自分が笑みを浮かべていたことを指摘されて気づく。“魔法”の見世物が楽しくつい笑ってしまったようだ。

 

 「……むっ!」


 エギムーの体色が黒、赤、緑、白、青、黄色と次々色が変わる。やがて落ち着き、色は赤色になった。姿形も変わり、悪魔の形態から40代の男の姿に変わった。人間と違いがあるとすれば頭に2本の角があるだけだ。


 「あ、ア……ああァアあ!?、も、戻った。“支配”の加護から“解放された”。まさか、こんなあっけない終わりとはな……」

 「……?」


 エギムーから話を聞いた。彼は“支配”の加護により無理やり“働かされていた”らしい。だが、新野の“家”の中に“転移”しようとした所、“支配”の加護から解放されたらしい。悪魔の姿は“変化”の魔法で他人の目を欺くためらしいとも聞く。今の姿が本来の姿で、悪魔の恰好に変化したのは見た目で相手を脅かすためらしい。

 その後、エギムーに何度もありがとうと感謝された。

 互いに簡単な自己紹介を済ます。

 エギムーの話を黙って聞いた新野は、ひどく彼に同情した。


 「すまねえ、オレも“命令”されたと言え、新野に危害を加えようとした。オレが出来るのは“転移”と“変化”の魔法だ。新野のためならいつでも手を貸すぜ!」

 「そうですか。“何か困った事”があったら期待して待ってます……。ところで、お酒が好きなんですよね?ちょうど昼食にしようと思っていたのです。よかったらご一緒にどうですか?“異世界のお酒”興味ありませんか?」

 「ほう……」


 二人は焼きうどんで小腹を満たし、昼間からビールを何本も飲む。新野は普段、寝れない時にしか酒は飲まないけど、他人と語りながら飲むのもいいかなと思った。

 酒の力でお互い打ち解けてきた。エギムーは半世紀以上“支配”されてたことの愚痴を零す。彼の主人の加護の力や、ミマス帝国の巨人族の末裔のこと。新野を異世界に呼んだ神様のこと。色々と情報を聞く。「主人の事の秘密を話てもいいのか?」と聞くと問題ないとのことだ。代わりに、新野も異世界の日常生活や文化について教える。

 結局、新野に加護を与えた神様の事は何も分からなかった。

  

 「エギムーは半世紀も酷使されてたのか。……僕の父は過労死してね……この世界に、この言葉の概念があるか分からないけど……。だからと言う訳ではないけど、僕は働くのが好きではなくて――」


 普段は絶対他人に言えないことも、酒の力を借りて話す。


 「にしても……オレが人間……異世界人と親しくするとはな。魔物はな、人間と親しくするなんてことは基本ない。力の上下関係しか他人と距離感はないからな。オレも変わってるけど、新野!お前も変わったやつだ!仕事も嫌い。お互い似た者同士だな」

 「異世界人ね……さしずめ、僕は異世界からの“来訪者”と言ったことかな」

 

 ガラスのコップについだビールを一気に飲む。レイは缶を片付けたり、コップにビールを注いだり忙しい。何しろレイしか“家”と“外”を行き来できない。


 「話は変わるが、文明レベルが離れた2つの文明が衝突したらどうなると思う?」

 

 その発言にエギムーは目の色を変える。

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