偽りの男女
レアはため息をつく。
彼女は四番目の“支配”の加護を持つ。“支配”したい相手を“屈服”させた場合、最大3枠まで“支配”できる。魔法でも似たようなこともできるが、“加護”の力の方がランクが高い。条件が整えば、“加護持ち”でさえ“支配”することも可能という恐ろしい力。彼女自身は一般常識があると考えている。時折、レアが宙に向けて話していた。知らない人が見れば、気がふれた者だとして関わろうとしないだろう。実際は、彼女の“支配”によって、“屈服”させた魔物と会話をしたり、魔物の視界と同調させていたからである。
レアがミマス帝国側にいるのは、何代か前の当事者が、ミマス帝国に引きぬかれたため。
レアが性別を偽るのは、煩わしい接触を避けるためだけであった。
正直に言うと、レアがミマス帝国が好きではなかった。好待遇で迎えられているのは良いが、この国には脳筋ばかりかと、心の中でため息をつくことがしばしば。
良いこともあった。レアは“収集家”のため、珍しい魔物しか興味がない。自身の力だけでは“屈服”させられそうにない、下級悪魔を、巨人族の血を引き、尚且つ“不死”の加護を持つ王自ら参戦して、屈服してくれた。他人に屈服させても、自身が戦闘に参加していれば、“支配”の条件に納まるという便利な加護。
ちなみに、エギムーは祖父の代から“支配”して彼女まで引き継いでいる。
エギムーは、単身でも強いため、通常はレアの護衛を務めている、また、彼が持つ特殊魔法の力は便利なので、レアのお気に入りとして重宝している。エギムーは“転移”の魔法が得意。
ただの転移なら人間達も真似事ができる。準備次第では、短距離(100メートル)、中距離(10キロ)、遠距離(数百キロ)と……。エギムーの“転移”は、千里の彼方まで瞬時に移動できる。
レアの身を守るため、ミラの拳を止めたエギムー。
下級悪魔のエギムーと、失われた巨人族の血を引く王女がにらみ合う。
一触即発の事態に、レアが重い腰を上げる。
「ボクの“支配”の加護の力のことは知っているね?」
「3体までの魔物を“支配”出来る力なのでしょう!そこの出来そこないの下級悪魔を“屈服”させたのはお父様ですわ。だからもう一度……ッ!!」
「3枠の内一つはエギムー。あとの2枠は何だと思う?」
その質問を予想してなかったのか、ミラは口をつぐむ。
しばらくして、口を開く。
「知らない。それが今、関係あるの?」
レアの予想通りの展開に、話を持ち運び、内心安堵する。
「一つは、トゥティー(ヘビフクロウ)だ。偶然、緩衝地帯の森に旅行に行った時、捕まえてね。滅多に市場に流れない珍味。生態はどんなものかと興味がつきなくてね。将来的には論文にでもまとめるのも……、話が長くなる。結論から言うと、トゥティーを操り、異世界の王を近くで見たんだよ……ボクは……。これでちょっと、大人しくしてくれるかな?ボクも彼に会ってみたい。最も高位の神に愛されし、異世界より来る来訪者。ボクが彼を“支配”出来るか試してみたい。協力してくれるなら、エギムーを貸し出すし、トゥティーが見た映像を特別に見せてあげるよ」
豪華な部屋には、毒気を抜かれた様子の少女がいた。
ミラの返事は決まっていた。
厄介な事に巻き込まれた。そうエギムーは思った。
見た目は怖そうな悪魔。しかし、彼の正体は下級悪魔ではなく、普通の魔物。おまけに小心者。彼の得意な魔法は、“転移”と“変化”。彼が“転移”を使うと、知ってる者は多いが、“変化”を知るものはいない。元は北に住む弱い魔物だった。しかし、“転移”と“変化”を使い、進化して、誰にも負けない強さを手に入れた。
強くなり、魔物の中でそれなりの力あがあると過信していた。ある時、巨人族の血を引くものに敗れて、“支配”された。
エギムーにとって屈辱だった。いくら強くても、魔法耐性が他の魔物より高くても“加護”の力からは逃げられない。エギムーは主であるレアの目を掻い潜り、ある事を探っていた。“支配”から逃げれる“条件”を……。
エギムーは空を見る。血の様に染まった赤い空、鐘の音の音が空気を引き裂いて、鳴る音。
「おっかねぇな……」
新たなる加護持ちの青年の事を、主であるレアに映像を見せてもらった。見たこともない建造物の“家”と、“黒髪の青年”。最期に、トゥティーが見えない壁に当たったのを確認した。
それに加えて、全生物に神から直接声をかけられる。1日で消えるらしいが、空にはこの世の終わりのような様。今度の“加護”持ちは一体どんな力があるのだ!?
エギムーが求めているのは、オレを鎖で縛られた体から、解放さしてくれる相手。彼に自由はない。“支配”から逃れるには、主であるレアが解放するか、他の“強力な加護”持ちの力で何とかするしかないと考えている。
「オレ自身は主に危害を加えられねえしな……」
エギムーの主は命令を下す。
「エギムー、場所は分かるね?――」
エギムーは小さくため息をつくと、まるで煙のようにその場から消えた。




