王権神授説
亜人側と接しているミマス帝国。人間が統治する大国。大陸で2番目に長いミマス川の周囲に栄える、歴史も長い国家。国土の7割が平地。穀物地帯として、各国に世界の食料庫としての影響力がある。食料だけでなく、武力でも人間側で有数の軍事力を有す帝国。帝国のスローガンは『領土拡大』
ここ直近20年に、小国を一つ滅ぼして、領土を拡大したことから、ミマス帝国の野望が窺える。建前は“ミマス帝国こそが、正統なパルティノア大陸の統治者”として掲げている。他の大国もミマス帝国に強く言えないのは、軍事力を恐れているだけではない。ミマス帝国には人間側にいる三人の“加護”持ちのうち、実に二人も加護持ちを所有しているからである。加護とは、十二の神々から一人ずつ12人に加護が与えられる。神々から直接与えられた力。ゆえに、正統の統治者としての建前が成り立つ。
異世界では地球で考えられた、王権神授説が正当化されている。
ミマス帝国。名前の由来は、過去に巨人族の王が降臨して、巨人と人間の間に子供をもうけた場所。王家は半分、“地上”にはいない伝説の巨人族の血が受け継がれている。
巨大な石造りの王城。見る者を圧倒させる大きさ。王自ら選り好みした兵士は屈強な体形の者が多い。中には魔術師と思える者もちらほらいる。
王城の選ばれた者しか入室禁止の部屋に、2人の男と1人の少女がいる。一目で竜種の骨で出来たと分かる巨大な玉座。そこに座るのは、如何にも軍人といった格好の中年の男。危険で強大な種族である、竜種の骨を、玉座にするだけあり、そこに座る者の武の力の一端を窺わされる。その男は、3メートルの身長はあると思われる人間離れした巨体。全身筋肉に覆われていている。獅子の鬣を連想させるような、黄金色と白色交じり髭。髪の毛は髭と同じような色の長髪。顔には苦労したであろう皺が刻まれている。だが、二つの瞳からは強烈な生と力を感じさせ、目が合う者を震え上がらせる。
赤い高級そうな椅子に腰かけている一人の若者は、軽薄そうな笑みを浮かべて、何か面白いことがあるのか、時折宙を見て笑っている。
若者を無視するように、一人の少女が言う。
「お父様、私も夢の中で、13番目の加護持ちが出現したことを知りました。全ミールに住まう者全てに、伝える力。神々の中でもさらに高位な存在による者だと思います。このような事態、前代未聞であります……わ。……新たな神により祝福されし、“異世界の王”とはどんな御方なのかしら?」
外見は10代半ば……か、少し下くらいの少女。しかし、彼女も父親と同じように高身長。2メートルはある。彼女もまた巨人族の血を受け継ぐ者。空のように青いドレスを着て、白い肌が覗く姿は異性の目を虜にしてしまう。黄金色の長髪を一つの紐で縛っていることから、活動的な事を窺わせる。二つの膨らみは既に女性のそれとして成熟している。まだ幼さが残る反面、大人の妖艶さを感じさせる少女。
「そうか……。わしが子供の頃、爺様に何度も頼み込み聞いた話がある」
「もう、お父様ったらぁ。またそのお話ですか。耳にタコができるまで、何度も聞きましたわ」
王の威圧を受けてまともに話せる者は少ない。しかし少女もまた、古の時代に地上で繁栄を築いた巨人族の王の血を継ぐ者。
「巨都に巨人が降臨されて、初代の王が産まれた。今でこそ、北にそびえるジグラス山脈の向こう側が魔がはびこる魔境。しかしな、当時はジグラス山脈より南のミマス帝国も魔物が蔓延り、人間は魔物に怯えながら暮らしてた。そんな弱き人間達を憐れに思い、神によって、古の時代に“地上”で暮らしていた巨人族を、“地下”から遣わされたのだろうな。一番目の加護、厳密には違うが……わしらも老衰には敵わん。“不死”の体。ミラよ。わしは何歳だと思う?」
「……40歳、いえ、今年で41歳ですわ」
「違う。400歳じゃ」
「え?え?お父様、冗談はおよしください」
「曾祖父様は800歳まで生きた。巨人の血がわしらには流れているから、普通じゃないのは当然だ。代々、人の血が入り、寿命と身長は短くなっているが、ミラも400歳以上まで寿命があるだろう。巨人族の王族の血が流れ、神の加護を授かりし一族、簡単には死にはせん。そこは安心してくれ。がははは。
話を元に戻すが、“不死”の加護の元。初代の王はミマス帝国内の魔物を殲滅しつくした。それはすごかったそうだ。初代王の圧倒的回復力。“不死”の如く、いくら傷を負っても立ち上がり、味方を鼓舞して前線で大剣を振るう姿。その姿は正に悪鬼。近くで見ていた、味方たちさえからも恐れられたと言う。加護持ちの魔法の素質の高さは知ってるな?それに加えて、わしらは古の昔、“地上の盟主”だった巨人族の血が流れていている。ミラも同じく巨人族の血を引くもの。我らこそがパルティノア大陸の正統な統治者と思えないか?」
ミラと呼ばれた少女は惚けていた。「400歳も……私が400歳も生きるの……」とぶつぶつ言って、王の肝心の言葉は耳に届いていないようだ。
「はっ!?そうですわ。我らミマス帝国こそ大陸の統治者に相応しいです。危険な大陸の南部を安定させた実績もありますもんね?ね?」
「……もん?それでだ、加護は遺伝するのは知っているな?」
「はい。一般常識ですわ。だから加護持ちは国から優遇されており、または“王”として――」
人の話を聞かないのは親子そろって遺伝しているようだ。娘の話を遮り、王は命令をする。
「強さこそ国の要。13番目の加護持ちと、ミラとの間に子をなせ」
「……へ?」
ミラは椅子に腰を掛けて、優雅に紅茶を飲んでいたコップを、思わず落としそうになる。
「絶 対 嫌ですわ。どこの馬の骨とも知らぬ者なぞと。どうせ契りを結ぶならば、お父様のような強い者がいいです」
ずっと一人でぶつぶつと宙に向かって話していた若者が、「あはは、わははは」と大声で笑いだす。
「何が可笑しいのですの?仮にも貴方もミマス帝国の“加護”持ちの内の一人でしょう!」
男の年齢は20歳より少し上に見える。小柄な体形。中性的な容姿。ミラさえも偶に性別がよく分からなくなってしまう。頭から顔を隠すように黒い帽子を被り、全身黒ずくめの恰好。黒色に茶色の瞳。目からは何を考えているか全く分からず、口はニヤニヤと相変わらず笑みを浮かべている。
「新人の事を知っているボクに、そんな口を聞いていいのかな?うん?」
ミラを煽るような口調でいう男。名前をレアという。ミマス帝国が保有する2人目の加護持ち。
「貴方も夢でお告げを聞いたかもしれませんが、だからなんですの?私も、お父様も……全ての住人が知ってることでしょう」
ミラは口をとがらせてレアを真正面からにらむ。
頭で考えるより、手が早いミラの拳が動く。
しかし、レアはひょいひょいと、迫りくるミラの拳を交わす。
父親である王は「ミラもいい動きをするようになった」と呟き、止めるつもりはない。彼らにとって闘争とは日常の事なのである。
だが、何時までも避け続けることはできない。ようやく、接近戦に長ける技能を持つ、ミラの拳がレアの頬に届く――と言う所で
音もなく現れた、全身闇を連想させる暗黒の体色。上半身裸。鍛え抜かれた筋肉を見せつけるような姿。2本の角が頭から生えていて、瞳だけ赤く不気味に光り、何より、人間……いや獣人たちにすらない羽が背中にある。その大柄な男が、レアの渾身の拳を片手で止めた。
「それ以上、主に危害を加えるのは止めてもらおうか?」
「何よ!どういうつもり……なの?もう!お父様に言いつけてまた懲らしめてあげる」
レアの加護である“支配”で服従された下級悪魔。本来であればとても服従させることすらできない魔物や悪魔ですら、神の“加護”の条件を満たせば“支配”の対象が可能になる。
彼こそが下級悪魔のエギムー。




