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チートの家に引きこもる  作者: ニビル
第一章 家
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異世界人遭遇報告

 後ろ髪を引かれる思いで、異世界人の“家”を背にして旅立つ。まだお話したいことは沢山ある。また必ず新野の家に訪れようと心に決めた。彼と会話をしていると度々理解できない言葉があった。高度な教育・・を受けている私ですら想像すらできない、深遠な知識を彼は有している。異世界人の持ち物。野営用の設備。おビールの容器に書かれた均整な謎の文字。鉄より薄く、綺麗な丸みを帯びた形の加工品。何より、“家”の存在。未知の食料を自給できるるだけの能力。新野は“魔法”だと勘違いしているが、“魔法”とは思えない異質の力。あれの能力は十二の“加護”持ちの力と似ている。そして、透明の壁……壁は“結界”の加護と類似している。神々から与えられた十二の加護チート持ちの一人、結界の加護持ちのカロン。彼女なら何か分かるかもしれない。

 “我々”と“彼”を比較すると、何代……もしかしたら何百代と隔絶した技術や文明レベルの差を感じた。彼をエルフ側に引き込めば、エルフは……亜人側は人間達よりも優位に立てて、もっと発展するだろうと考えた。私が最初に接触できて好都合。特に、人間達は強欲だ。何でも奪う。総力を挙げて、力ずくで“結界”をこじ開けて、何が何でも彼と、家を奪うだろう。たとえ、再び亜人側と全面戦争になろうとも。


 30分ほど思考に没頭しながら走って、ようやく周囲の異常事態に気がついた。


 「……森の様子がおかしい」


 木々のざわめきもなく、森の声が聞こえない。魔物どころか、生き物の気配すらない。急に不安が体全体を駆け巡る。


 グラッ


 突然、視界が揺れる。眩暈がして立っていられなくなり、膝を地面につく。閉じた目を開けると、森の中ではなく、森の外に位置する平原にいた。“家”の場所は森の中央地点にある。そこから一番早く外に出るまでの時間を計算しても合わない。多く考えても“家”からまだ1時間も経っていないはずだ。


 「森の精霊にでも化かされていたの……?今までの事は……幻だったの……」


 はっと、気になって背嚢を調べる。中には新野から貰ったカップ麺とビールがあった。異世界人の彼と接触した確かな証拠があった。


 「夢ではなかった……」

 

 遠方に見える砦。2つの砦の内の一つ。今いる場所は北東に位置する砦。北東の砦はエルフとドワーフが主に管理している。建前上は緩衝地帯から外に出てくる魔物を監視するための塔として機能している。が、実態は人間が緩衝地帯の森から侵略してくるのを阻止する抑止力。人間側にも似たような砦がある。


 ゴーン ゴーーン ゴーーーン ゴー―ーーン


 「……!?」


 空気がビリビリと震える。鐘を鳴らしたような鈍く、太い音が辺りに響いてる。


 ゴーーーーーン ゴーーーーーーン ゴーーーーーン ゴーーーーン


 「何なの、この音は?まさか……敵襲の合図なの?合図が変更したなんて知らせは、聞いてないわ」


 今まで見ないようにしていたけど、空もおかしい。まだ昼過ぎなのに、太陽の光を黒い雲で遮られ、空が血のように赤く染まっている。まるで世界が終わりを迎えているような錯覚すら覚える。とても嫌な予感がする。

 急いで北東砦に駆けつける。

 見張り台にいる仲間に光の魔法で信号を送り通達を送る。

 誰もいない……?

 

 「……おかしいわ……誰も合図を寄越さない」

 

 石造りの巨大な門が解放されている。門は通常一カ所しかなく、それに門番が数人いるのが規則のはずだ。


 「まったく、警備態勢はどうなっているのだ!?これが有事だったら……」


 砦の中には、エルフや武装したドワーフがいる。同胞たちを見て安心した。外の景色や、鐘のような不気味な音は気になったが、仲間達がいる。独りではない。だが、彼らは私を見向きもせず、何かに一心に祈りをささげている。ある年老いたドワーフは、さぞ名のある者の手に造られたアックスを地面に置いて、その横に跪いて、天に祈りを捧げている。若いエルフの男女のグループは囁き声で何かをずっと議論している。横でエルフの議論を聞いていたドワーフも輪に入り、熱を帯びて議論を再開させている。


 「……一体、何があったのだ!?」


 異様な空間。しかし、よく彼らを観察していると、共通していることがある事が分かった。。皆、口口に「神」と声に出していた。


 「神……?」


 誰にも呼び止められることもなく、砦の中に入る。

 普段いるはずの哨戒もいなく、ただ先に進む。

 3階建ての一番奥にある一室。ここも普段いるはずの警備がいない。扉を叩き、中に入る。壁際に高級そうな机と椅子がある。椅子には、白髪交じりのエルフが座っている。砦に似つかわしくない、白色の絹の服。疲れた表情で資料を眺めている。彼こそが北東の砦の責任者である。普段の威厳はなく、どこか皆のように浮ついた雰囲気を醸し出している。


 「緩衝地帯の森、1号を警戒中のダリア、ただ今戻りました。報告が遅れて申し訳ありません……」

 「…………」

 「……!?」


 いつも時間に厳しいはずのトゥール伯父さんが反応しない。

 

 「トゥール伯父さん……?」

 「ん?……お、おおダリアか。森から帰ったのか」

 「ええ。それで、何があったのですか?人間の敵襲ですか?まさか、また魔物の大氾濫が起こったのですか!?」

 「む、ダリア、まだ寝てないのか!?徹夜でここまで来たのか?」

 「???」


 話がかみ合わない。それから何ども確認をした。信じられないことに、ダリアとトゥール伯父さんたちの間に“時間のずれ”が生じていた。新野と過ごした時間が戻っていた。具体的には今の日付は6月6日。新野と出会った日だった。


 「そんなことより、ダリアお前が初めて“異世界人の王”と接触したのは間違いないか!?」


 今までとは一転して、緊迫した様子。

 なぜ伯父が新野の事を知っている?それに、王?何の事だろうか。彼は王族ではないはず。


 「今から13時間前、つまり0時から今の時間に至るまで。全ての就寝中の者に、夢の中で神様から神託が下された。パルティノア大陸中全てだ。西側の人間とも魔法の通信で確認がとれた。複数の人間の情報屋に、高い金を払って確認したから情報の精度は高い」

 「ひっ……」


 事の重要性が徐々に理解出来て、ダリアは息を飲む。


 「改めて、質問する。本当に“異世界人の王”と接触したのか?」


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