プロローグは8年前に遡り…
春。
暖かな風が出会いを運び、散りゆく花びらが別れを告げる。
別れの時は、笑顔でいよう。
いつか誰かが言っていた。
別れがあるから出会いがある。
こんなことも聞いた。
だけど七歳の僕には、そんな器用な考え方は持てなかった。
村はお祭り騒ぎ。
年寄りから同年代の子たちまで、みんなが慌ただしく動き回っている。
でこぼこ道をなんとか舗装し、家畜にまでブラシをかける。
ちょっと、いや、かなりやりすぎな気もするが、それも仕方のないことなのかもしれない。
なにせ、王国騎士がこれから来村するのだから。
尊い王国騎士がこんな片田舎のへんぴな村にわざわざやってくることは、まずない。せいぜい偶然近所を通りかかりました、といったところだ。
しかし今回は違う。
この村に目的があるのだ。
それは、二名の子供を迎えに来ること。
村のみんなは、お目がかかったとかスカウトされたとか聞こえのいいことをいうが、いわゆる徴兵だ。
本来王国騎士になるには、厳しい試験をクリアしなければならない。それが王国側から、まだ幼い子供が二人も直々に指名されたのだから村も盛り上がる。
その結果がこの、送別会兼王国騎士お出迎え会というわけだ。
だけど、その雰囲気に僕がついていくことはなかった。
むしろ徴兵が決まってからは、笑った日などないかもしれない。
今も一人、丘の上からぼんやりと村を俯瞰するだけ。
別にホームシックになりそうだとかじゃない。
そもそも僕が選ばれたわけでもない。
僕の親友達が選ばれたのだ。
今日二人はいってしまうのだ。
考えただけで頭がグチャグチャになって、涙を堪えるので精一杯になる。
どうせなら、三人で選ばれればよかった…。僕だけが選ばれなかった。
「僕にも…力が…」
「レイン!」
僕の独り言をかき消して二人分の声がかかった。
振り返らなくても当然わかる。
フェイと、エレナ。
振り返りたくなかった。
みっともないところは見せたくなかった。
だけどそれよりも、最後に二人の顔を見たかった。
ゆっくりと後ろを向く。
限界だった。二人の顔を見た瞬間泉のように涙が止まらなくなった。
それは、フェイとエレナもだった。
三人顔を見合わせて、泣きじゃくった。
どれくらいたっただろう。
村から盛大な歓声が聞こえてきた。
王国騎士の到着。
それは二人の出発の時間。
「フェイ…エレナ…元気でね…」
絞り出した声は、震えてかすれて散々だった。
「おぅ、レインもな…」
フェイの言葉が。
「うん、また会おうね…」
エレナの言葉が。
別れをつきつける。
それは、イヤだ、僕は、いつか、きっと…
「絶対、僕も強くなるから!その時まで、待ってて!」
今度ははっきりと飛び出したその言葉に、涙を拭って二人は答えてくれた。
「当たり前だろ!」
「ずっと待ってるよ」
この約束の為に僕は生きよう。
幼いながらに信じるものをもちえたと思えた。
今度は二人が、ゆっくりと後ろを向く。
これが最後じゃない。だから、僕らが今いうのは
「またね!」
これが8年前。そして時は現在。物語は、大きく動き始める。




