流れ星に願ったことは
『星に願ったから魔法使えるようになりましたー』なんて話を誰が信じるだろうか
そんな簡単に魔法が使えるようになるなら今頃世界は魔法使いで溢れていてもおかしくない
言いたいことは沢山あるが遠い目をしてすっかり自分の世界に入ってしまった桜には届かないだろう
「あれは29歳の夏だった……」
桜はタバコを取り出して火を付ける。その際にちゃっかり指先から炎を出していた
手馴れた様子だったので恐らく日常的にやっていることなのだろう
話が長くなることを予感した一行は立ち上る煙を見つめながら桜の話に耳を傾けることにした
「俺はとある用があってな、星降に来ていたんだ。夜だというのにうだる暑さにウンザリしながらも星降の街の中を歩いていた」
まるで小説のような語口調で桜の話は始まった。そんな前置きなんか要らないからとっとと本筋に入ってくれないかとこの時点で若干の苛立ちを覚える
「結局俺の目的は果たせずに終わりどうしようか、酒でも飲んで気分を紛らわせるかと考えていたんだがそこで俺の目にあるものが止まった」
その時のお前の心情なんか知ったこっちゃない。話が脱線しないように心の中でツッコミを入れる
「それは星降から少し離れたとこにある丘だったんだがな。行ってみるとまあ夜空が綺麗に見えるんだ。何も遮る物は無く俺の視界いっぱいに星空だけが飛び込んで来た」
話はまだ始まったばかりだが早速眠くなってきた
欠伸をしたり外の景色を見たり各々集中が途切れる中でクロだけはいつの間にか起き上がり真剣に話を聞いている
「そしたらな、広大な夜空を駆け抜けるように一筋の流れ星が見えたんだ。流れ星に願い事をするなんて子供じみてるとは思ったんだが俺は1つの願いを託した」
「ふーん。なんて?」
興味は無いが一応聞いておく。なんか桜が聞いてくれと言いたげにこちらを見ていたからだ
なので一行を代表して幸助が尋ねた
「30過ぎても童貞だったら魔法使いにしてくれ……ってな」
「はいストーップ!」
いきなりねじ込まれたNGワードに永愛が素早くストップをかけた
この話の流れでどうしてそんなことになったのか。今まで黙って話を聞いていたが流石に我慢の限界が来たのだ
「なんだよ? これからがいい所なんだぜ?」
「やかましい! 真面目な顔で堂々と下ネタぶっ込んでんじゃないわよ!」
「なんだと!? お前にこの歳になって彼女もいない俺の気持ちが分かるか!? 想像以上にキッツイぞ!? なのにお前らは目の前で堂々と間接キッス見せつけやがって!」
「別に見せつけた訳じゃないわよ! ってかなんで逆ギレ!?」
どう足掻こうと話が脱線する運命は避けられないようだ
桜はふざけてる訳ではなく至って真面目に話しているつもりなのだがツッコミ所が多すぎるのだ
誰かがツッコミを我慢すれば他の誰かがツッコミを入れる
むしろよくここまで我慢出来たものだと褒めて欲しい。きっと一行の誰もがそう思っていたに違いない
「なあ優輝。童貞ってなんだ? 30歳まで守れば俺も魔法使いになれんのか?」
「……さーねー。僕知ーらない」
「なんだ幸助ぇ? お前そんなことも知らないのか? ……いいか? 男ってのは30まで大切なものを守り続ければ皆魔法使いになれんだよ」
「そうか! じゃあ俺も魔法使い目指して頑張るぜ!」
「おー! その意気だぜ幸助ぇ。フへへへ……」
幸助の言葉を聞いて桜はニヤリと笑う。しかしその笑顔は素直にエールを送っている人の顔ではない
自分の仲間を増やそうと画策する悪魔の笑みだ
「キッツイって何がよ? 周囲の目? 親からのプレッシャー?」
「両親はいねぇんだ。俺が20の時に事故で死んだからな」
「あっ……ゴメンなさい……。無神経だったわ」
これはマズイことを言わせてしまったと永愛は慌てて口を塞ぐ
「別にいいよ。親なんてもんは遅かれ早かれ自分より先に死ぬんだし」
永愛の発言に気にしてない風を装う桜だったが窓の外を見つめるその顔は悲しそうだった。同じく両親を亡くした身として幸助もその気持ちは痛いほどよく分かる
「でもどうして魔法使いになりたいなんて願ったの? どうせならその……そ、卒業出来ますようにとかにすれば良かったのに……」
「卒業って何をだ〜? んん〜? 男なら恥ずかしがらずにズバッと言えよ〜?」
話の流れからしてそんなこと聞かなくても理解出来るのだが桜はそこを敢えて問い詰める
優輝の反応を見て楽しんでいるみたいでその顔は物凄く悪い顔をしていた
「だから……その……ど、童貞を……ってそこはどうでもいいの! 質問に答えてよ!」
「ハハハッ! まだまだ子供だなぁ! んで、魔法使いを願った理由だけどな……俺、妹を探してんだ」
「妹……?」
これまた事情が変わって重い内容になりそうだ。しかし両親の話とかを聞いて双実桜という男を少しずつだが知ることが出来た
ふざけてはいるが真面目な部分もしっかり持っている。ならばこちらも真剣にならなければいけない
さっきみたいに不真面目な態度で話を聞くことなんて出来るはずがなかったしそれを恥じるべきだとも思った一行は一言一句も聞き漏らさぬくらいの覚悟で桜の話を聞く
「俺の妹は紅葉って言ってな。俺の10個下だから今は20歳になるのか。当時は結構仲良かったんだよ」
桜に紅葉。どちらも季節を代表する美しい植物の名前だ
そんな綺麗な名前を授けてくれた彼の両親もきっと素敵な人達だったに違いない
「両親が死んだ後、当時の俺は自分のことで精一杯で紅葉の面倒まで見てやることが出来なかったんだ。これでも頑張って養っていこうと思ったんだけどな……現実はそんなに甘くねえってことさ」
20歳というのは世間的に言えば大人の仲間入りをする年齢である
しかしすぐに気持ちが大人になる訳ではない。それに加えて両親の事故死が重なれば尚更だろう
「結局他の所に引き取られて紅葉とはそれ以来連絡を取れないまま10年の月日が流れた。その間俺は必死こいて働いて金も貯まった、魔法使いになって色んなとこでイリュージョンをして有名になれば紅葉にも俺の名が届くと思ったんだ」
「それなら妹に会いてぇって願えば良かったんじゃねぇの? なんでそんな回りくどいやり方なんだよ?」
幸助がそう尋ねると桜は若干言葉を詰まらせて頬を掻いた
「あー……それはなんつーかな……兄としてのプライドってやつだ」
「プライド?」
「ああ。なんて言えばいいかわかんねえんだけど紅葉は俺の力で迎えに行ってやらなきゃいけないって思ったんだ…………まっ、本当に叶うとは思ってなかったから魔法使いを願ったってのもあるけどな!」
そう言って桜は照れくさそうに笑った
弟や妹のいない一行にとって兄の気持ちを理解するのは難しい
しかし流れ星なんて不確定なおまじないに頼るよりも自分の力で願いを叶えたいという気持ちは理解出来た
今こうして旅を続けている彼らにも帰るべき場所がある、叶えたい目標がある
星に願っただけで実現してしまう願いならば最初からそんな目標など持たなかったかもしれない
「はい! この話終わり! 次はお前らの旅の話を聞かせてくれよ!」
気持ちをさらけ出したことが結構恥ずかしかったのか桜は無理矢理話題を変えようとする
なので一行も今までの旅の話を聞かせることにした
訳あって世界を救う旅をしている。その道中で優輝と永愛に出会い共に旅をすることになった
白猫という化物みたいな強さを持つ者、星降守護部隊や異端児と言った強敵との戦いの話
桜は目を輝かせ全ての話を静かに聞いていた
「……すげえ……すげえよ! 世界には俺の知らないことがまだまだ沢山あったんだな!」
話が終わると桜は数々の冒険の話に興奮し色々と質問を投げかけてくる
同じく旅を続けている桜にとって一行の話は刺激的なことが多かったのだろう
そんな桜の様子を見ていた幸助は密かにとある決心をしていた
「なぁ、桜」
「ん? なんだ幸助?」
「お前……俺達と一緒に来ないか?」
それは桜を仲間にすることだった




