表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/154

殺す気で


 不意を突いた優輝の一撃は確実にダメージを与えた

 しかしたったの一撃で倒せるほど星降守護部隊の幹部が甘くないのはよく分かっている


(ここで手を緩めるな! せっかく作った隙を逃すな! もっと前へ進め!)


 乙姫を相手に攻撃を当てられる機会などそうそう訪れないだろう。だからこそ今、この瞬間を逃すわけにはいかない


 吹き飛んだ乙姫が態勢を立て直す前に優輝はハンマーを伸ばして追撃を試みる


 そうしながらも優輝が足を止めることはない。確実に乙姫へと向かい距離を縮めていく


「甘く見ないでちょうだい! ぬうんっ!」


 優輝の攻撃に対し、乙姫は無理矢理体をひねってなんとか回避した

 しかしその時には既に優輝が目の前まで迫っている


「甘く見るわけ……ないっ!」


 今の攻撃を回避したことによって乙姫にはまた隙が生まれた。それに合わせて優輝はハンマーを構えて振る


(クッ……防御!)


 ならば攻撃を防ぐまで、と防御の態勢を取った乙姫だが優輝のハンマーはそれをすり抜けた


「もういっちょ! びっくりハンマー!」


 そしてもう1度攻撃を命中させる。今度は下から持ち上げるようにハンマーを振るい乙姫の体を空中へと飛ばした


 もう乙姫に攻撃する余裕を与えてはいけない。その一心で優輝はハンマーを振り続ける


(あのハンマー……かなり厄介ね。大きさを自由に変えることであたしのペースを乱してくるわ)


 焦りを感じつつも乙姫は頭を回転させ冷静に状況を分析するが体が動くよりも早く優輝の攻撃が襲い掛かってくる


 空中に打ち上げた体を今度は地面に叩きつけようとハンマーを振るう。それも見事に命中し、落とされた乙姫の体は大量の砂煙を巻き起こした


 しかしその直後、優輝は自分の行動を悔やむことになる


(砂煙が邪魔で乙姫の姿が見えない!)


 巻き起こした砂煙によって乙姫の体が隠れてしまったのだ


 そこへ突っ込んで視界の悪い中で戦うのは自殺行為になる

 ハンマーを伸ばして様子を伺おうとしてもさっきみたいに鞭で捕まえられてしまう可能性がある


 その結果、優輝は砂煙が晴れるのを待つしかなかった


 もしかしたら乙姫に攻撃出来るチャンスは今ので最後だったかもしれない。それを自分の手で潰してしまったことを優輝は酷く後悔した


(いや、悪い方向にばかり考えるな。攻撃は通用したんだ。きっとまたチャンスは来る。作ってみせる!)


「随分と心のこもった攻撃ね。1発がとても重かったわ」


 砂煙の中から乙姫が姿を現した。頭と鼻から血を流しているがその足取りにはまだまだ余裕が見られる


「当たり前でしょ。僕はお前に勝ちたいんだ」


「その気持ち良く分かったわ。……でもまだ足りないわね」


 そう言って乙姫は武器を構える。またさっきの恐ろしい連撃が来ると察知した優輝もより一層集中し乙姫の様子を伺った


 しかしその時には既に遅かった


 いつの間にか優輝の体は宙に浮かび勢いを殺せぬまま地面を転がる


 何が起きたのか分からないが仰向けになって空を見上げている内に気づいた


 『自分は攻撃された』のだと


 その瞬間に腹から痛みが込み上げてきた


「ッ! ……痛い……」


「あなたの攻撃はあくまでも『倒す攻撃』。けどね、まだ先があるのよ。それはねーーーー」


 次の瞬間、優輝の全身に突き刺さるような鋭い感覚。これまでの旅の中で幾度も感じたことがあるその感覚を優輝はすぐに理解した


 それは殺気


「ーー『殺す攻撃』よ」


 乙姫が駆け出してくる。それを見た優輝は考えるよりも先に体が動いていた

 伸ばしたハンマーに掴まって大きく後退するがそれよりも速く乙姫の鞭が優輝の足に巻きついていた


「いらっしゃ〜い!」


 魚を釣り上げるようにして鞭を引くと優輝も一緒に付いてくる

 しかしこれは優輝にとってもチャンスとなる。乙姫との距離が近づいたところで逆にこちらがハンマーを叩き込んでやればいいのだ


 自分の中に生まれた焦りを強引に押し殺して冷静になる


 乙姫がギリギリで反応出来て、尚且つ防御しか出来ない距離までじっと機会を伺い確実に攻撃を当てる


 選択肢は1つ。乙姫に通用した『びっくりハンマー』を使うのだ


(よしっ! ここだァァァァ!!)


 優輝は乙姫に見せつけるように大きく腕を振るうがそれはフェイク

 本命は乙姫が防御した瞬間に打ち込んでやるはずだったのだがーーーー


「ワンパターンね。そう来ると思ってたわよ」


 乙姫が防御をすることはなかった。故に優輝の腕は空振りに終わってしまった


 しかし攻撃が失敗した訳ではない。掌の中に小さく隠したハンマーを再び大きくして乙姫に殴りかかる


「遅いわよ!」


 既に拳を構えていた乙姫のパンチが優輝の顔へ重くのしかかった


 その1発で終わればどれほど楽なことだっただろうか

 足に巻きついた鞭のせいで優輝が逃げることは出来ない


「逃がさないわよ? ほら、ほら、ほぉーら!」


 乙姫の容赦ない拳は依然として優輝の体を痛めつけていく。これ以上ダメージを受ければ確実に負ける。最悪の場合殺されるかもしれない


 乙姫が言っていた『殺す攻撃』。その意味を優輝はその身をもって理解した


「クッソォ!!」


「あらっ!?」


 優輝はハンマーを自分の何倍も大きくすることで乙姫の拳が届く範囲から弾き出した


 多少苦し紛れの防御策ではあったがそれは結果として事態を好転させることになる


「あーらら。武器を奪われちゃったわねぇ」


 慌てて回避した為に乙姫は自分の武器である鞭から手を離してしまったのだ。足に巻きついた鞭を解いて遠くへ放り投げると優輝は立ち上がる


「……でも、心配する必要はなさそうね」


 武器を失くし一瞬焦りを見せた乙姫だったがそれはすぐに余裕へと変わる

 立ち上がった優輝は既に満身創痍で立っているのがやっとに見えた


 それならばもう1度近づいて拳を叩き込んでやれば倒れると乙姫は確信する


「どうかしら優輝ちゃん? 『倒す』と『殺す』。その違いがわかったかしら?」


「うん……痛過ぎて骨が折れるんじゃないかってくらいよく分かったよ。けどね、僕はお前を倒したいだけで殺したいんじゃないんだ」


 敵同士でありながらも優輝の優しい言葉。戦いを見守っている幸助、クロ、永愛はその言葉に何を感じただろうか


 優しい、立派だ。表現は様々だが悪い印象を持つことはない


 しかし乙姫は違った


 声を荒らげる程に、普段の自分を忘れてしまう程に激昴したのだ


「……舐め腐ってんじゃねえぞクソガキがぁ!!」


 耳をつんざく程の大声に優輝はもちろん、見守っている3人も驚いて固まってしまう


「戦う前に言ってたよなぁ!? 『本気でやってくれるみたいだね』って! 本気でやってないのはどっちだ!? お前の方だろうが!」


「……ぼ、僕だって本気でやってるよ!」


 怒り狂う乙姫に面食らいながらも優輝は言い返す

 優輝の言葉に偽りはない。乙姫にリベンジする為に本気で戦っている


「やってねえんだよ! こっちはお前を倒す為に本気でやってる! 殺す気でやってる! そうじゃなきゃ勝てないと思ったからだ! なのにお前は『殺したいんじゃない』、だと!? 思い上がるのも大概にしろ! その程度の気持ちで勝てると思ってんのか!? その結果がどうだ!? ボロボロだろうが! 戦う前から気持ちで負けてたんだよお前は!」


 乙姫の言葉は絶えることなく続いていく。さっきまで余裕を見せていたのに今では息を切らし肩で呼吸している


 乙姫が優輝と再び戦うこの時をどれだけ待ち望んでいたか。もしかしたら2度と有り得なかったかもしれない


 それでも乙姫は必死に力を付けた。いつかこの時が来ると信じて成長した


 それは誰の目からも明らかだった。離れて見ている3人はもちろん、目の前にいる優輝にはその思いが痛いほど伝わった


「大体、あの程度の攻撃であたしが死ぬと思ってんのか!? 人を見下すのも大概にしろぉぉぉぉ!!」


 その叫びが響き渡った後、辺りは静寂に包まれる

 しかし普段の自分を捨てた乙姫の心からの叫びは確かに優輝の心に響いた


「……確かに、お前の言う通り僕は本気じゃなかったのかもしれない。自分では本気でやってると思ってただけかもしれないね」


 優輝はハンマーを構えてフラフラの足取りながらも乙姫に向かって駆け出した


「だから『殺す気』でやらせてもらう! それで死んでも文句言わないでよ!」


「だから死なないって言ってるのよ!」


 優輝に掻き立てられるように乙姫も走り出す。その瞬間、その場にいる全員が察した


 次で決着がつくと


「乙姫ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「優輝ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


 最後に振るう己の力に思いを乗せて最後の攻撃が始まった


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ