挑戦
「あぁ〜食った食った」
「結構美味しかったわね」
腹を満たしすっかりご機嫌になった幸助と永愛
一方で隣にいる乙姫からの圧力を受け続けた優輝は味わうことの出来ないまま食事が終わってしまった
楽しいはずの食事が一転して地獄に変わる
(花熊井でもこんなことあったなぁ……)
頭の中に思い浮かぶのは花熊井で屈強な男達に睨まれながら食事をした思い出
あの食堂のご飯も本当は美味しかったのだろうと思い出してしまうと今更になって後悔が押し寄せてくる
「さてと、満腹になったことだしどうしてここにいるのか教えてもらおうか」
「ご飯食べたばかりだってのに切り返し早いわね」
至福の表情を浮かべてたはずが途端にキリッとした真剣な面持ちに変わった幸助を見て乙姫は少々驚き、呆れる
「ちょっと待ちなさい」
「……今度はなんだよ」
せっかく気持ちを切り替えたというのにまたしても永愛が話を遮った
しかし永愛も何やら真剣な面持ち
星降守護部隊の幹部が目の前にいることをやっと自覚してくれたのだろうか
「お腹いっぱいになったら眠くなってきたんだけど」
そんなことなかった
これから真面目な話が始まろうとしていたのにひたすらマイペースに突き進む永愛に対して幸助も流石に呆れただろう
「……言われてみればそうだな」
「もういいから話進めようよ!」
やはりそんなことなかった
一刻も早くこの耐え難い空間から逃げ出したいと思っている優輝は声を荒らげ脱線しそうな話を戻そうとする
「えっ……と。話してもいいのかしら?」
「いいよ! すぐ話して! はい、さん・にー・いちどうぞ!」
急かし過ぎる優輝に疑問を持ちながらも乙姫はゆっくりと口を開いた
「まず最近現れた不思議な力を使う人達……あたし達は異端児って呼んでるんだけど知ってるかしら?」
「おう。何度か戦ったしな」
「そう……。その異端児なんだけどこのところどんどん数が増えててね。彼らの横暴を止めるためにあたし達が世界の各地に散らばってそれを抑制してるの」
乙姫の言っていることは明日次から聞いていたことと全く同じであった
明日次が鳳南から近い風武で任務を行っていたように乙姫はこの高苅を任されているのだろう
「だから今は任務の最中ってこと。あなた達と戦うつもりは無いわ。……本当はあの時のリベンジをしたいところだけどね」
儚げな表情で乙姫はどこか遠くを見つめている
幸助達と戦うつもりがないということはやはりクロの正体はまだバレてはいないということ
厄介な奴に出会ってしまったと思いはしたが乙姫の言葉を聞いて安心した幸助とクロだった
しかし安心に混ざって少しばかりの不安も感じる
(明日次は一体どういうつもりなんだろう……?)
単純に異端児の件で手が離せないのか、それとも他に何か理由があるのか
1度考えてしまえば様々な可能性が尽きないまま頭の中を駆け巡り明日次への疑念も晴れないままだ
「……で、異端児の奴らはどうなのよ? 星降守護部隊の姿を見てビビったりしてないの?」
ここで口を開いたのは意外にも永愛だった
乙姫とは初対面ということもあり大人しくしているもんだと全員が思っていた
しかも相手は気のいいオジサンみたいな明日次とは違い異様な見た目と口調ををした乙姫だというのに構わず話しかけていく
だが考えてみればさっきからマイペースな発言を繰り返している永愛のことだ
彼女の辞書に人見知りという言葉は載ってないのだろう
「あたし達がここに来て何度か戦闘はあったわ。けど、どれも大したことはなかった。それからは姿も見なくなって今では任務という名の休暇みたいなものよ」
ため息をついて退屈そうに語る乙姫
休暇とは言うがその間は高苅から出られないので実際はこの場所縛り付けられていると言っても過言ではない
街が平和であることは誰もが望むことなのだがそれを維持し続けることがどれほど辛いことなのか
縛られることなく旅を続ける一行には想像もつかないことなのだろう
「あたしがここにいる理由は以上よ。優輝ちゃんに乱暴して悪かったわね」
そう言って乙姫は席を立つと会計へ向かっていく
一行を指差しながら店員と話している姿を見たので全員慌てて立ち上がった
「どういうことだよ。貸しでも作ろうってことか?」
「この程度で貸しになるなんて思ってないわ。お邪魔しちゃったお詫びとお礼よ」
食い下がる幸助達だったが乙姫は強引に全員分の会計を済ませ店の外へと出ていく
詫びだ礼だとは言うが金に困っている訳でもなく、ましてや敵だった相手に肩代わりされるのは一行にとってどうにも歯がゆかった
「待ってよ」
「あら? まだ何か用かしら?」
乙姫を追いかけて優輝は店の外へと飛び出す。さっきの言葉が別れの挨拶のつもりだった乙姫は少し驚いたように振り返った
「休暇みたいなものって言ってたよね? じゃあ暇なんでしょ? ちょっと相手してくれない?」
「……どういうことかしら?」
「そのままの意味さ。僕と戦ってって言ってるの」
飛び出した優輝の後を追って店から出た3人は聞き間違えたのかと思うほど意外な言葉を聞いた
優輝が自分から喧嘩をふっかけるなんて今までならば有り得ない話
幸助や永愛ならまだしも優輝がそんなことをするのはこれまでもこれからもないと思っていた
そんな優輝が今は乙姫に向かって武器を構えている
「あなた、自分が何を言っているか分かっているの?」
「もちろんさ。リベンジしたいんでしょ? 僕も自分がどれくらい強くなったか試したかったんだ」
確かな自信を持ち優輝は答えた
乙姫はかつて敗れた相手へのリベンジ
優輝は勝利はしたもののそれは幸助の力があったからで自分1人の力ではない
両者の戦う理由としては充分だった
「……嬉しい話ね。でも嫌よ」
「……え?」
意外にも乙姫は優輝の挑戦を断った




