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筋骨隆々の乙女 再来


 まだ若き男女の甘酸っぱい青春物語を後にした彼らは旅を再開し本来の目的地であった高苅たかかりへと到着していた


 人が居て、家があって、様々な店があって


 今まで訪れてきた町や村となんら変わりない普通の町だったが1つだけ違うところがあった


「なんかさ、星降守護部隊の奴ら多くねぇか?」


「うん。僕もそう思う」


 町のどこへ行っても目に入るのは星降守護部隊の騎士の姿

 こちらの姿を見ても何の反応を示さないあたりまだ正体がバレてはいないのだろう


 あるいはまだ一部の者しか知らないことも考えられる

 例えば明日次のような幹部の者だけの秘密になっていたりするのかもしれない


「例の異端児絡みでしょ? ほら、前に佐渡が言ってたじゃない」


 一行が明日次との修行に入る前に聞いた話

 ドクターバッドマッドにより世界に放たれた異端児への対応に追われていると明日次は言っていた


 元凶であるドクターバッドマッドは星降の地下に幽閉されていると聞いていたが彼が脱走したことを一行はまだ知らない


「なるほどな。そんじゃあ佐渡みたいに幹部が彷徨うろついててもおかしくねぇってことか」


「そういうことだね。まぁ僕達の姿を見ていきなり襲ってくるなんてことも無いだろうけど……」


 そう言って優輝は執拗に辺りを気にする

 それがかえって目立つ行為になっていることには気づいていない


「それも相手次第ってとこだけどな」


 幸助達と星降守護部隊の幹部はお互いに気づいていないだけでそれなりに面識がある


 互いに拳を合わせた楓凛、乙姫、明日次

 何かしらの接点が出来た秤、有栖、日央


 特に前者に再開するのは危険だ


 もう1度会ってしまえば確実に命のやり取りになることは間違いない


「どうする? 長居しないでそのまま次の場所に向かうか?」


「別に怖がることはないんじゃないかしら? 変なことしなければ絡まれないわよ」


 星降守護部隊に対してさほど頓着のない永愛は特に気にする様子を見せていない


 長旅だったこともあり空腹を迎えていた一行はとりあえず腹を満たす為に近くの飲食店に入ることを決めた


 席に着いた彼らは各々食べたいものを注文する

 それを待っている間、他の席から漂ってくる美味しそうな匂いに食事への期待が高まり油断すると腹の虫が大声で鳴きだしそうだ


「ちょっとトイレ行ってくるね」


「おーう」


 席を立った優輝はトイレを探しに店内を歩き回る


「あったあった」


 トイレはすぐに見つかった。料理が来る前にさっさと戻ろうと中に入って便器の前に立つ


 それと同時に優輝の隣に大柄な男が並んだ


(うわっ! 隣の人背ぇ高いな……。僕に少しくらい身長分けてくれないかなー)


 目測で恐らく2m近くあるだろう長身を羨ましく思った優輝は気づかれないように横目で顔を確認する


「んげっ!」


 顔を見た瞬間、思わずそんな声が漏れてしまった

 長身、筋骨隆々の肉体。何より目に付いたのは男とは思えぬ程の長髪


 そこら辺の女性より気を遣っているのではないだろうか

 照明に照らされた黒髪はキラキラと輝いて見える


 しかし優輝が声を上げてしまった1番の理由


 それはその姿に見覚えがあったからだ


「……あら?」


 優輝の声で隣の人物もこちらに気づいてしまった

 まさか会いたくないと思っていた人物にトイレなんて密閉空間で遭遇してしまうとは


「誰かと思えば優輝ちゃんじゃない」


早乙女さおとめ……乙姫おとひめ……」


 見た目のそのインパクトの大きさ、独特の言葉遣い、忘れるわけがない


 優輝の故郷である勇泉の村にて幸助と共に戦った早乙女乙姫の姿がそこにあった


「お久しぶりね。あなたもここでお食事かしら?」


「そ、そうだけど……」


 たじろぐ優輝に対し乙姫は意外にもフランクな様子で話しかけてくる


 てっきり襲われるかと思った


 しかしお互いすぐに手を出せない理由がある


 状況が状況なのだ


 用を足しているこの状況で暴れようものならみっともない上に悲惨な結果が待ち受けていることは想像に容易い


 それならば今が逃げるチャンス


「じゃあそういう訳だから僕は行くねーーーー」


「ちょっと待ちなさいよ。せっかく再開出来たんだから少しお話しましょ?」


 遅かった。乙姫の後ろを横切った時に襟を掴まれ捕まってしまったのだ


「ちょっと! 手ぇ洗ってから触ってよ! ってか何で男子トイレにいるのさ!?」


「何言ってるのよ。あたしが女子トイレにいたら大騒ぎじゃない?」


「なんだよもう! 前は女とか言ってた癖に面倒臭いな!」


「流石にルールくらいは守るわよ」


「なんか頭痛くなってくるからもう喋らないで。それより手を洗わせて」


 相変わらず襟は掴まれたまま。洗面台に差し出されるように優輝は手を洗う


 乙姫が手を洗っている隙に逃げてやろうと考えた優輝だったがもちろんそんなことを許してくれるはずがない


「逃げるのは勝手だけどその後でどうなっても知らないわよ?」


「ふん! 僕だって強くなってんだ。前みたいにいくと思ったら逆に痛い目に会うぞ!」


「そうね。だからお話しましょ?」


 乙姫の脅しに屈する優輝ではない

 強気に言い返してみせる間に乙姫は手洗いを済ませていた


「あっ、しまった!」


「詰めが甘いわね。挑発に乗るってことは自信がついた証拠だけどそんなんじゃいつか足元掬われるわよ? 今みたいにね」


 返す言葉もない


 結局逃げるチャンスを失い再び捕まった優輝はそのまま席に戻るハメになる


(花柄のハンカチって……。本当に不気味だなこいつは……)


 色々言いながらもしっかり乙姫の動きを観察していた優輝

 明日次との修行によって相手の挙動を確認する癖がついてしまったのを今だけは若干後悔してしまった


「お待たせ~」


「遅かったな優輝。もうとっくに料理来てーーーー」


「お久しぶりね。幸助ちゃん」


 色々なことが起きすぎて全てを処理するのに少し時間が掛かった


 トイレに行ったはずの優輝は何故か襟を掴まれぶら下げられている

 そしてそれを掴んでいるのは以前戦ったことのある早乙女乙姫


 何故こんなところにいるのかも疑問だがトイレに行っただけでどうしてそんなことになるのかも理解出来なかった


「ーーーーハッ!? テメェ、なんでこんな所に居やがんだ!」


「アンタ少しだけ時間止まってたわよ? 」


 だらしなく口を数秒開けっぱなしにした後、我に返った幸助は突然現れた乙姫にくってかかる


「まぁ落ち着いて。理由はこれから話すわよ」


「先に優輝を離せよ」


「んー? どうしようかしらねぇ。とりあえず相席してもいいかしら?」


「聞こえなかったのかーーーー?」


 幸助の言葉におどけた様子で答えた乙姫。結局無視して席に着こうとした瞬間だった


「ーー優輝を離せって言ったんだよ」


 背筋どころか全身が凍りつくような寒気に襲われる

 幸助が静かな怒りを露わにして睨みつけた


 それは間違いなく強者から放たれる威圧感


 それに対し乙姫は恐れを抱いてしまったのだ


「……そうね。このままじゃ話しづらいわよね」


 優輝を優しく席の上に降ろし幸助の顔色を伺う


「ったく……で? 理由ってのは何なんだよ?」


 ひとまず怒りを収めてくれたようで乙姫は安心する


(ちょっとどうなってるのよこの子。勇泉で戦った時とはまるで別人じゃない!)


 幸助、永愛と向かい合う形で座った優輝と乙姫

 そして乙姫が口を開こうとした時だった


「ちょっと待ちなさい」


「どうしたんだよ。永愛?」


「……先にご飯食べない?」


 永愛に言われて机の上を見る先ほど運ばれてきた料理から美味しそうな匂いが湯気に乗って鼻へと入ってくる


 乙姫の登場により一時的に空腹を忘れていた一行だったが改めて目の前にしてしまうと食欲を抑えきれない


「悪い。飯食っていいか?」


「ええ、……どうぞ?」


 冷めてしまう前に慌てて料理をかき込む一行


 とても美味しかったという


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