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明日次の選択


 星降へと戻ってきた明日次が軽くなった足取りで向かった先

 それは部隊長である琴山嘉治紀の部屋だった


(やっぱり黒猫やつを野放しにしておくわけにはいかない)


 世界の平和を取るか、彼らとの思い出を取るかで悩まされた明日次が出した答えは黒猫の存在を部隊長に報告する事


 つまり世界の平和を取ったのだ


 辿り着いた部隊長の部屋の前。重厚な扉から放たれる威圧感は相変わらずだが屈することなくノックして中へと踏み入った


「失礼します!」


 部屋の中はいつもと変わらぬ風景が広がっている

 机に向かい何か難しい顔を浮かべる嘉治紀の姿があった


「佐渡か。風武での任務はどうした?」


「継続中であります! しかしどうしても報告しなければならないことが出来たので一時的に戻って参りました!」


 ジロりとこちらを睨む鋭い目に背筋を伸ばしてハッキリとした物言いで明日次は答える


「報告? それは任務を中断してまで行う必要があるのか?」


「黒猫ーーーー猫塚忍のことだと言えばよろしいでしょうか?」


 クローー即ち猫塚忍の名前を明日次が出した時、嘉治紀の顔が少し強ばったのが分かった


「……貴様。ふざけているのか? 奴はもう死んだ。あの日、儂らの目の前でな」


「はい、私もそう思っていました。しかし違いました」


 少しだけ怒りの混じった声に怯むことなく嘉治紀を見つめる明日次の目は嘘をついているようには見えなかった


「……わかった。話を聞こう」


 一息ついて平静を取り戻した嘉治紀は頬杖をついて明日次の言葉に耳を傾ける


「以前私が花熊井にて白猫と対峙した時一緒に戦った少年ーー名を不破幸助と言います」


「その名は貴様からの報告で既に知っているがまさかそいつだとでも言いたいのか?」


「いえ、その少年が連れている黒猫。名をクロと言います。それが猫塚忍の現在の姿です」


 死んだと思った人間がどういう訳か猫になって生きていたなど誰が聞いてもおかしな話だと笑うだろう


 しかし嘉治紀は表情一つ変えずに明日次の突拍子のない話を黙って聞いていた


「……どうかしたか?」


 嘉治紀の様子に明日次は驚くしかなかった

 宿敵の名前が出たこと、そしてそいつが生きていたことを知ってもなお異常過ぎるほど冷静だったからだ


 驚きのあまり大きく目を見開いていた明日次は部隊長の声でふと我に返る


「いえ、驚くほど冷静だったので……。失礼だとは思いますが猫塚の名前を聞いた途端にここから飛び出していくものだと私は思っておりました」


「貴様が嘘をついているとは思えぬが俄に信じ難い話。確証が得られぬ限り無闇には動けん」


 そりゃそうだと納得する明日次。少し部隊長のことを単純に見過ぎていたことを心の中で反省した


 しかし嘉治紀が飛び出さない理由は他にもあった


「それに今は猫塚よりも警戒しなければならない奴らがいるのでな」


「……部隊長にそこまで言わせる者がいるのですか?」


「この街に散々指名手配の紙が貼ってあっただろう?」


 嘉治紀に尋ねられるも明日次にはそれがなんのことだかさっぱり分からない


 星降に帰って来る時はいつも転移石を使ってこの城の入口まで戻ってくるので

街の様子など暫く見ていなかったのだ


 黙り込んでしまった明日次を見て察した嘉治紀は続けて口を開いた


「ドクターバッドマッドが脱走した。どうやら柳生の奴が一枚噛んでいるようだ」


「ドクターバッドマッドって確か楓凛が捕まえたはずでは……? いやそれより楓凛が何故そんなことをーー」


「詳しいことは知らん。儂が話を聞いた時には既に消えていたのだからな。大方クビにされたことに腹を立てたのだろう」


「クビ!? 何故ですか!?」


 嘉治紀の口から出てくる言葉に明日次は驚きの連続である

 本来ならば明日次が嘉治紀を驚かすつもりだったのだが見事に上を行かれてしまった


「武器をへし折られた挙句それを隠し最後には醜態を晒した。そんな不甲斐ない奴、幹部どころか部隊にすら必要ない」


 静かに語る嘉治紀の冷酷な声に明日次は何も言わずに黙っていた。関係の無い自分が口を挟むのもおかしなことだと思ったからだ


「しかしそれが本当なら復讐を企んでいてもおかしくないのではーーーー? 」


「それも充分有り得る。よって幹部はともかく儂は星降ここから動くことが出来んのだ。いざと言う時のことを考え星降の警備を手薄にすることは出来ぬ」


 嘉治紀は当分この地から動くことはない。真っ先に飛び出すだろうと思っていた明日次の予想は大きくハズレた


 それが果たして良いことなのか悪いことなのか判断しかねる明日次だったが目的であった報告は無事に終わったのだ


 まずはそのことに胸を撫で下ろす


 しかしいつまでものんびりしている訳にはいかない

 風武に置いてきた部下達の元へ一刻も早く戻らねばならなかった


 報告と同時に得た新たな情報

 ドクターバッドマッドの脱走とそれに柳生楓凛が関わっている


 そうなればドクターバッドマッドから生み出された異端児の活動も活発になるはずだ


「では私は引き続き風武の任務に当たります。失礼致します!」


 大きな声で明日次が退室するのを見送った嘉治紀は1人残った部屋で不敵に笑う


「まさか生きておったとはなぁ……楽しみにしておくが良いぞ猫塚ァ……」


 部下あすじがいる手前、確証がない限りーーーーなどと言いはしたが猫塚が生きていると知った時から心の高まりを押さえつけるのに必死だった


 すぐにでも真実を確かめに行きたいが楓凛やドクターバッドマッドの動きに注意しなければいけないのもある


 よって1人、偵察を向かわせることに決めた

 誰かいないかと考えた時、ふと1人の男の顔が頭をよぎる


 借りーーーーと言うほどのものではないが先日任務中に無理矢理戻って来させたというのに不完全燃焼のような結果に終わってしまったことがあった


 そのことに対し何か少しだけでも償いが出来ればと考えていた


 きっとその男ならこの話、快く引き受けるだろう


「失礼します!」


「うむ。急に呼び出して済まなかったな」


 程なくして1人の男が部隊長の部屋を訪れた

 普段は砕けた敬語を使う彼も嘉治紀の前では背筋を伸ばしキチンとした敬語になる


「宍戸よ。貴様に1つ頼みたいことがある」


 嘉治紀が呼び出したのは幹部で序列11の宍戸玲王だった

 柳生楓凛の昇格試験において任務中のところを戻されて以来彼はずっと星降に残り日々治安の維持に努めていたのだ


「はい。どのようなものでしょうか?」


「偵察だ」


 そう言われた瞬間、玲王の顔が一瞬だけ嫌そうな顔に変わったのを嘉治紀は見逃さなかった

 しかしとりあえずは話を進めることに集中する


「偵察……どこへ行けばいいのですか?」


「対象は動いてる為正確な場所は特定出来ぬが今は恐らく高苅くらいにいるはずだ」


「目標は?」


「不破幸助と連れている黒猫だ」


 その名を聞いて玲王の口角が僅かに上がった

 とてもわかりやすい奴だと嘉治紀は呆れるが本人もやる気を出しているようなので余計なツッコミは避けることにする


「ではやむを得ず戦闘が避けられなくなった場合はどうしましょう?」


 ものすごく嬉しそうな声で玲王が尋ねる。何かを強請ねだる子供のような輝く瞳を明日次に向けていた


「戦闘許可なんて出せば貴様は真っ先に戦闘を行うに決まっている」


「なっ!? い、いやまさかそんなことないッスよ〜」


 見事に図星を突かれた玲王は目を泳がせしどろもどろ。いつもの口調に戻ってしまっている


 若さ故なのかそれともそれが宍戸玲王という男なのか

 嘉治紀はため息をつきながらもその口元は少しだけ緩んでいた


「だがまぁ良い。戦闘を許可しよう。先日柳生に見せた技もなかなかのものだったのでな」


「やった! ……いや、ありがとうございます!」


 遂に本音が漏れた玲王は咳払いを挟み慌てて真面目に振舞う


(不破幸助って言えば乙姫姉さんを倒したり白猫って奴と渡り合ったりスゲェ強い奴じゃないッスか。うぉぉぉ楽しみッス)


 さっき言われたばかりの偵察という言葉などすっかり忘れて戦う気満々の玲王


 部隊長の部屋から出ていった後、重厚な扉越しでも聞こえるくらい大きな鼻歌を歌いながら玲王は任務へと向かって行った


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