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恋する蠍座(スコーピオ)


「あっ、やっと戻ってきたわ」


「遅かったねー……ってその女の子は誰?」


「えっと……さっきトイレで会ってな、1人で来てるっつーから誘ったんだ」


反越日央そりこしひおです。よろしくです」


 まるで借りてきた猫のように大人しくなってしまった日央に幸助は驚きを隠せない

 ついさっきまで生意気に振舞っていた癖に深々とお辞儀をする姿は幸助にとって違和感の塊だった


「そうなの? じゃあ日央ちゃんはお姉さんの隣に座りなさい!」


 半ば強引に永愛は日央の腕を引っ張ると自分の隣に座らせたが話せる相手が見つかったことで日央の寂しさも紛れてどこか嬉しそうだ


「ねぇねぇ! 日央ちゃんはなんでこの試合見に来たの? 私達はね、あの子を応援してるのよ!」


 永愛が指さした先にはあの少年の姿があった。昨日の練習の時より体の固さがとれていい動きをしている


「しゅ……俊太郎しゅんたろう君のこと知ってるですか?」


 永愛の指さす少年を見間違えていないか何度も首を動かして確認する


 そして間違えてないことを確信して恐る恐る尋ねてきた日央の頬が少しだけ赤くなったのを永愛は見逃さなかった


「あの子俊太郎君って言うの!? 赤くなったってことはもしかしてあの子のことがーーーー」


「ストップ! それ以上言うのは止めるです!」


 恋愛スイッチが入って暴走気味の永愛の口を慌てて塞いだ

 しかし心の中で思っていることを口に出されてしまうと物凄く恥ずかしくなり日央の顔は真っ赤で目には涙を浮かべている


(なんで分かったのか分からないですが永愛このひとならまだよしとするです。問題はーーーー)


 僅かに視線を左にずらすと近くから永愛、優輝(膝の上にクロ)、幸助の順番で座っていた


 幸助はサッカーに夢中なようで幸い今の会話は聞かれてないだろうと日央は胸を撫で下ろし試合に集中する


 現在の得点は互いに0点。点数だけ見れば互角の勝負だが実力は相手チームの方が上だろう

 俊太郎のいるチームは先程から防戦一方でなかなか攻撃に転じることが出来ていない


 その後も進展はないまま前半終了を告げる笛が鳴り響いた


「……得点入らないね」


「今のところ相手のミスに救われてる感じね。シュート本数は向こうの方が断然上よ」


 30分近く走り続けている選手達、特に守りに入っている俊太郎のチームの消耗はとても大きい

 1つの油断が失点に繋がってしまうディフェンス側は酷く神経をすり減らしているだろう


 後半を告げる笛の音で選手達は再びコートに戻っていく

 前半の様子からして後半もかなり厳しい勝負になることは明らかだ


 それでも勝つためにはどこかで戦局を変えねばならない。僅かな一瞬の隙でも逃さぬように選手達はより一層集中して後半戦に臨んだ


 前半と変わらぬ試合展開に見ている一行と日央も固唾を飲む

 このまま均衡状態が続くかと思われた時だった


 後半10分。相手チームがこの試合において初得点を飾った

 決めたのは先日練習を見ていたクロが上手だと褒めたあの少年。前半でも頭一つ抜けた活躍を見せていたことが相手にプレッシャーを与える原因になった


 そしてディフェンスの間に出来てしまった僅かなほころびをその少年は逃さなかったのだ


「うわぁぁぁ……マジかよぉ」


「ここで点数取られると精神的に厳しいわね」


「残り時間ももう少ないんじゃないかな……」


 心を折るかのような重い1点は選手達だけでなく応援している観客にも重くのしかかり周囲からは嘆く声も聞こえてくる


(俊太郎君、頑張るです……)


 キックオフで再び時計の針は動き出す。果敢に攻める選手達だが焦りからミスが生まれボールを相手に譲ってしまった

 相手チームの足から足を流れるように繋がれたボールは無残にもまたゴールネットを揺らす


 残り時間を考えると逆転は不可能だろう


 次々と仲間が意気消沈していく中で俊太郎もまた同じように闘志が消えようとしていた


(もうダメだよ。さっきからいいとこなしで……こんなんじゃあの子に情けないって思われちゃう……)


 もう諦めてしまいたい。そう思った時頭の中をよぎったのは昨日優輝に言われた言葉だった


『一生懸命やった奴を笑う奴なんていないよ』


(……そうだ。そうだよね。1番カッコ悪いのは諦めちゃうことだ!)


 俊太郎の顔に闘志の火が灯った。キックオフと同時に果敢に攻め込むがやはりボールを取られ転んでしまう


 しかしすぐさま立ち上がりボールを取り返しに行く。そんな俊太郎の姿を見た仲間も次第に闘志の火が灯り出した


 1つ1つは小さな灯火かもしれない


 しかし集まれば大きな炎へと化けるのだ


 気迫で相手を圧倒し動きを制限させる。そしてそこから生まれた小さな綻びを今度はこちらが崩してやるのだ


「よしっ! ボール奪ったぞ!」


「行けぇ! 攻めなさい!」


 周囲から上がる歓声を背中に受けてボールを託された俊太郎は迫り来るディフェンスを次々と躱していく


 最後に彼を待ち受けていたのはあの上手な少年

 実力は向こうが上だがそんなこと既に分かりきっている

 100回戦えば100回負けるだろう


 ならば今回は101回目の奇跡をものにすればいい


(まだだ……焦るな……もっと近づいて右へーーーー!!)


 右か左か、直前まで相手に悟らせないように粘る。そして俊太郎が選択したのは右だった

 しかし相手もこれに反応してくる。このまま行けば確実に止められてしまう


(ーーーーと見せかけて左!!)


 最後の土壇場で俊太郎が魅せたのは一行との練習の際に永愛から教えられた技


「「「行っけぇぇぇぇぇ!!」」」


 完全に虚を突いた俊太郎は沢山の声援と共にボールをゴールへと叩き込んだ


 ゴールネットを揺らしバウンドするボールを見ながら数秒間、時が止まったような感覚に陥った

 少しして我に返った後、ようやくゴールを決めたんだという実感が体の奥から溢れ出して来る


「やった……やったぁぁぁぁ!!」


 両腕を天高く突き上げた俊太郎の元へ仲間が駆け寄っていく


 その後、試合終了を告げる笛の音と共に彼らの戦いは終わった

 結果は2対1で残念ながら敗北だったが選手達の顔はどこか清々しさを感じる


「負けちまったかー。最後良かったんだけどなー」


「でも諦めなかったから最後にゴール決められたじゃん! あれカッコよかったよね?」


「ええ。気合と執念で掴んだって感じでよかったわ」


 試合後、各々感想を述べていると俊太郎がこちら目掛けて走ってきた


「皆さんが練習に付き合ってくれたおかげで僕、頑張れました! ありがとうございました!」


「お疲れ様、カッコイイシュートだったわ!」


 どうやら練習を手伝ってくれた礼を言いに来たらしい

 試合に勝つという願いは叶わなかったが例の『好きな女の子』にカッコイイ姿は見せられたことだろう


 俊太郎は一行から視線を外すとすぐ近くにいた少女の名を呼んだ


「日央ちゃん!」


「俊太郎君……」


 呼んだのは日央の名だった。小さな声で返事をした日央と向かい合った俊太郎

 両者共に顔が真っ赤である


(あれ? 俊太郎が言ってた好きな女の子ってまさかーー?)


「さーて、とりあえず外に出ましょうか」


「えっ? 俺も俊太郎あいつに試合の感想言いたいんだけど……」


「いいから! 行くわよー」


 真っ先に真相に辿りついたのは永愛。しかしこんないい雰囲気に水を差すことなんて乙女の名が廃ると永愛は強引に幸助と優輝を連れ出した


 互いに目を見られない俊太郎と日央の初々しい姿を見てちょっぴり羨ましくなる永愛だった


「その……お誕生日おめでとう」


「あ、ありがと……です。その、試合……お疲れ様……です」


「ありがとう…………負けちゃったけどね」


「でも、最後のシュート……カッコよかった、です」


 ぎこちない会話の続く2人のことがやっぱり気になって遠目から見つめてもどかしそうにしている永愛


 だが肝心の会話が聞こえてこないので状況がまるで分からず更にもどかしくなる


「ところで……幸助あのひと達とは知り合い、だったですか?」


「う、うん! そうなんだ! サッカーの練習手伝ってくれて……あの人達がいなかったらさっきのゴールは無かったと思うし、とっても感謝してるんだ!」


「そう、ですか……」


 一行のことを聞かれた俊太郎は必死に感謝の気持ちを語るがここで会話が途切れてしまいしばしの沈黙が流れる


「その……今、星降に住んでるんでしょ? ……佳香に戻ってくることはないのかなー? って思ってたり……」


「……ゴメンなさいです。日央はまだ星降ですることがある、です」


「アハハ……そっか」


 残念そうな顔を浮かべる俊太郎に対して日央はなんと言えばいいのか言葉に詰まる

 2人の間にはまたしても沈黙が流れたが日央はそれを打ち破るようにある誓いを立てた


「でもいつか……絶対にまた佳香に帰ってくるです! また……俊太郎君に会いたいから……です」


 告白とも取れるような言葉を言ってしまった日央の顔は噴火しそうなくらいに赤い

 女の子にここまで言ってもらったのに黙ってるなんて俊太郎は男として出来なかった


「じゃあ僕はプロのサッカー選手になるよ! そうすればお金も稼げるからいつだって日央ちゃんに会いに行けるから!」


「……どっちが先か競走です」


「うん! 競走だ!」


 ぎこちなかった2人だったが最後は笑顔で約束を交わしまた会う日を夢見てお別れした


 その後、永愛に捕まった俊太郎が根掘り葉掘りしつこく絡まれたのは言うまでもない





「……ふう」


「おっ、日央ちゃん帰って来たんスね。休暇は楽しかったッスか?」


「玲王さん。はい、楽しかったです」


「……聞かなくても顔見ればよくわかるッスね。ドロドロに溶けたアイスみたいッスよ」


「え……日央の顔、そんなに酷いです?」


「そりゃあもう幸せいっぱいって感じッス。幹部がそんなんじゃ部下にからかわれるッスよー」


「むぅ……今日は疲れたのでもう部屋で休むです」


「そうッスね。その顔で城内出歩かない方がいいッスよ」


 転移石を使って星降へと戻ってきた日央は偶然通りかかった玲王と会話した後、自分の部屋へと戻って行った


 そしてその部屋の扉に貼り付けられた金のプレートにはこう彫られていた


蠍座スコーピオ 反越日央 序列10』


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