謎の騎士達
2人だけしかいなかったはずのこの場に音もなく現れた3人目
鎧を纏っているところを見ると明らかに一般人ではない。しかも腰には立派な剣を挿している
騎士と例えるのが1番近いだろうか
どうやってここを見つけたのか驚く幸助だが、それよりも驚くことが1つ
(お嬢様? もしかしてすげぇ人なのか?)
「さあ、参りましょうお嬢様。あなたのお父様がお待ちですよ」
そういってそのお嬢様の腕を掴む騎士だが
「離して、私はもう帰らないって決めたの」
どう見ても嫌がっている。その場で踏ん張り、必死に抵抗している
しかしお互いの力の差は歴然であり、女性の体は引きずられ始める
というかお嬢様と呼んでいる割には雑な扱いである
穏やかではないこの雰囲気、関わったら絶対にロクな目に遭わない
そう考える幸助ーーーーそう考えていたはずだった。
「……なんだ貴様は?」
「おいおい、こんなに近くにいたのにまさか気づいてなかったのか?」
幸助は女性と騎士の間に割って入る。その脳裏には先ほどの笑顔が焼き付いて離れなかった
「そこをどけ小僧。邪魔をするなら一般人だろうと容赦しないぞ」
そう言って騎士は剣を抜いた
「丸腰の一般人相手に剣を抜くとは容赦ねぇな」
騎士を睨みつけ挑発する幸助
「言ったはずだぞ。容赦しないとな」
そして剣を構え、幸助に切りかかる
「後悔するんだな!己の軽率な行動を!あの世でなぁぁぁぁぁ!」
そう言って剣を振り下ろす騎士だがそれを軽々と避け、拳を構える幸助
「後悔するんだな。一般人だからって油断したことを」
愕然とした騎士の顔面に拳を叩き込み、騎士は数メートル吹っ飛ぶ。そして木に頭をぶつけて気絶した
「助けてくれてありがとう!あなた強いのね!」
女性はまたニッコリと笑う。その笑顔がやはり眩しくて照れくさくなる幸助
「とりあえずここを離れるぞ、話はそれからだ」
それを隠すかのように語気を強める。そして移動しようとするが
「いたぞ!あいつだ!」
見つかってしまった。さっきの奴と同じ鎧を纏った騎士だ
しかも複数いるようで幸助たちは囲まれてしまった。全員が剣を抜き臨戦態勢をとっている。
「貴様よくも仲間をやってくれたな」
その中の1人が近づいてくる。やはり戦いは避けられないと覚悟を決めた幸助だが
「落ち着けお前達」
集まった騎士達の奥からもう1人騎士が出てきた
他の騎士達とは着ている鎧や携えている剣が違い、派手なところを見るとこの男が隊長で間違いないだろう
しかし他の騎士達に比べてーー若い。もしかしたら幸助と同い年くらいではないだろうか
にも関わらず他の騎士に比べて威圧感が尋常ではない。いつの間にか周りの騎士は剣を納めビシッと背筋を伸ばして立っている
隊長はそのまま幸助のところまで歩いてくる
「あいつをやったのはお前か?」
気絶している騎士を指差し幸助に問う
「ああ、仲間の敵討ちってか?」
いつ襲いかかられてもいいように幸助は身構える
「そのことに関しては仕方ない。この男が弱いのが悪いのだからな」
意外にもあっさりした答えで拍子抜けした
「もう一つ聞かせてもらおう。その女性をこちらに渡す気はあるか?」
やはり、この女性が狙いらしい
お嬢様と呼ばれていたり、大人数の騎士が探しに来たりと女性に対する謎が深まる幸助
女性の顔を見ると酷く怯えている
その顔は始めて出会った時に見た顔だった
「………やだね」
少し間を開けてただ一言そう答える
「なぜだ?お前達は初対面のはずだがそこまでしてやる義理があるのか?」
「さあな」
隊長の問いかけにまた一言で答える
「そうか」
そういいながら隊長は一歩後ろに下がった
それとほぼ同時だった
いつの間にか隊長は剣を抜いており、幸助はその場にしゃがみこんでいた
女性と周りにいた騎士たちは何が起きたか分からず唖然としている
「てめぇ……何しやがる」
そんな中、唯一反応出来た幸助だけが隊長に対して怒りを見せている
「邪魔者を排除しようとしただけだ」
怒っている幸助とは正反対に恐ろしく冷静な隊長はそのまま話を続ける
「我が部隊で定められている決まりなのでな。任務は確実に成功させること。もし邪魔が入るようならばーー」
邪魔者に切っ先を向け剣を強く握りしめた隊長は冷酷に言い放った
「消してしまっても構わない、と」