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ハッピーボトル ~不運な男が世界を救う~  作者: 縞虎
修行とクロの正体
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秘密を知ってしまった男


優輝と永愛の協力によって明日次に1発与えた日から2週間後

その次の日から明日次は玩具の弓矢を使うことをやめて己の本来の武器である剣、そしてそれを変化させた弓矢をつかうことにした


武器を切り替えた初日はもちろんボコボコにされた2人であったが恐るべき成長スピードで毎日食らいついていった


「ダメだぁ〜。今日も出来なかったよ」


「武器を変えてから馬鹿みたいに強くなったわね」


本日の日付は9月18日

夏は過ぎ去り鬱陶しかった蝉の声もどこへやら、今ではすっかりその声が減っていた

しかし連日気温は高く中でも今日は記録的な猛暑日


体調を考えて本日は明るいうちに修行を切り上げて何か美味しいものでも食べに行こうと明日次が提案した


もちろん明日次の奢りである


「それじゃあ幸助達を呼んでくるからお前達は戻って休んでてくれ」


「「はーい」」


「さて、ご飯はどこで食べようかしら」


「僕はガッツリ焼肉がいいかなー」


物騒な会話が聞こえてきたが気にしないことにして明日次は幸助とクロを呼ぶために移動を開始した


2人が修行をしている場所はとある名も無き山の中

反省会を行った日に命懸けの戦いを繰り広げたあの山だった


「しっかし歩いてみてわかったが随分遠いとこでやってんだな。これを往復走って行ってんだからあいつらも相当体力オバケだ」


ぶつくさ言いながら明日次はやっとの思いで山の手前まで到着する。細かい枝が切り倒され人1人分の道が出来上がっていることからここが入口だと考えるのが妥当だろう


「ここから更に山に登れってのか。全く、オッサンには辛いな」


小さな入口から明日次は山の中へと足を踏み入れた

山を登って行くにつれて段々と体を包む空気が変わってくる。山奥にいることによる涼しさとか木漏れ日が心地よいとかそういう優しいものではない


ピリピリと伝わってくる、全身を刃物で撫でられているような緊張と恐怖

間違いなくこの先に幸助と優輝がいる


「この空気……とんでもないな。しかしなんだ……?こんな感じを前にも体験したことがあるような……?」


疑念を抱きながら明日次は足を止めることなく進む。だが新たに踏み出したその1歩は酷く小さく、そして静かだった


ただ仲間を呼びに来ただけなのに何を躊躇する必要があるのだろうか。堂々と大声でも出して呼べばいい


そう思っていても無意識に体が拒否反応を示す


忍ぶように、すり足で、気配を感じる方向へと進む

足元で落ち葉が擦れる音でさえ煩わしい

小枝を踏んだ時は心臓が胸を突き破って飛び出してくるんじゃないかと思う程跳ね上がった


そこまで必死な思いをして辿り着いた先には戦いを繰り広げる幸助とクロの姿があった

互いに一歩も譲らない攻防は見ているだけでその実力の高さが理解できる程だ


(なんだ、普通じゃないか。しかし幸助

は知っていたがクロもあれだけ動けるとはな……素早い幸助の攻撃をヒラリヒラリと猫のようにーーー)


余計な心配をしたと物陰に隠れながら明日次は2人の攻防を見つめていた

そこで明日次は気づいてしまった


クロの動きにどこか引っかかるところがある。猫のようにしなやかな動きかと思えば虎のように豪快な力強さで襲いかかる


気づいた瞬間、明日次の全身は強烈な吐き気と寒気に支配される


(まさか…………嘘だろ…………?でもあの動きは確かに…………!)


どうすれば

一体どうすればいい

幸いあいつらは俺が居ることに気づいてない


駆け巡る恐怖と混雑する思考の中で明日次は必死に最善策を探し回る

そして出した答えはーーー


「いやーっ!参った参った!こんなとこで修行してるとは大したもんだ!」


「「!!!」」


今来た体を装って、何も見なかったことにして困り顔を浮かべながら2人の間に入っていった


「さ、佐渡!いつからそこに……?」


幸助は酷く驚いた顔で明日次を見た。いきなり現れたから、という訳ではなく何か隠し事がバレた、といったような驚き方だ


クロも言葉や顔には出さないようにしているが驚いているのは明日次の目にも明白だった


「たった今だよ。こっちの方の修行が早く終わって飯行くことになったから呼びに来たんだ」


「なんだよ、驚かせんなって」


安心した、とでも言いたげに大きく息を吐いた幸助


「それじゃあ僕らも帰ろうか。ご飯はなんだろなー」


クロは一瞬にして表情を変えて軽快な足取りで帰ろうとする。あれだけ驚いておきながらすぐに表情を入れ替えられるものだろうか

そんな離れ業、普通の人間ならば顔ごと取替えるまでしないと不可能だろう


それはつまりクロが普通ではないことを証明していた


幸助とクロが下山しようと自分の横を通り過ぎた後、明日次は膝から崩れ落ちそうになった所を慌てて踏ん張った


(ダメだ!ここで気を抜いてはいけない!俺があいつらの戦いを見ていたことがバレるのはマズイんだ!)


「おーい佐渡ー。置いてくぞー?」


「おーう!今行くよー!」


1つの決心を胸に明日次は2人の後を追いかけた。そしてご飯の間だけでもそのことを忘れて精一杯楽しもうと誓った


最悪、それが最後の晩餐になるという覚悟があったからだ




「遅かったねー。もう待ちくたびれたよー」


「もうお腹ペコペコよー」


着替えてベッドに腰掛けた優輝と永愛は間延びした声で3人を迎えた。あの後、いつも通り走って帰ってきた幸助、クロ

上手く呼吸が整えられないまま必死に付いてきた明日次は疲れきっていた


「遅くなって悪かったな。シャワー浴びてくるからもう少し待っててくれ」


「もうお腹と背中がくっつきそうだよー」


「考えてみなさい優輝。空腹は最高の調味料になるのよ。耐えて……耐えて……そして食べるご飯はーーー?」


「「最ッ高に美味しい!!」」


「お前ら口元緩んでんぞ」


締まりのない顔で浮かれる2人に幸助が呆れ顔で注意するとこぼれ落ちそうな涎を慌てて拭った


急いでシャワーを浴びて着替えた幸助と明日次も再び集まり5人は羽壱の街へと繰り出す

夜だというのに周囲は昼間と錯覚するほど明るく幸助、優輝、永愛にとってはなかなか新鮮な光景であった


「すごい!夜なのにこんなに明るくて人が沢山いるよ!」


「あまり騒ぐなよ優輝!田舎モンだと思われっぞ!?」


「そういう幸助だってソワソワしてるじゃないの」


「キミもね、永愛」


はしゃぐ3人の後ろ姿に明日次はまた嬉しくなる。しかしそれを失うと思うとーーーなどと考えてしまう自分もいる


(気にしちゃいけない!最後の時まで楽しむんだ!)


雑念を振り払うように頭を激しく振る明日次をクロは気づかれないように鋭い目つきで睨んでいた


そして一行が選んだのは焼肉屋である


疲れたとき、スタミナを付けたいときは肉が1番と豪語する優輝の提案だった


「ぷっは〜!やっぱりお肉とお酒は相性抜群ね!」


豪快にビールを飲み干す永愛の姿に明日次は困惑する


「永愛、お前酒飲んだらマズイんじゃないのか?」


「20歳超えてるからいいのよ!」


「嘘ぉ!?」


見た目に反して永愛は成人。一緒にいる3人でさえ時々忘れそうになるのだから明日次が驚くのも無理はない


「本当だよ明日次さん。永愛は21歳でこう見えても僕らの中で1番年上なんだ」


「見えねぇよな」


「ふっふーん。なんとでも言いなさい!あんたらお子ちゃまにはこの大人の味は分からないんだから!」


「大人ってかオッサンだよな?」


「うん。僕の父さんを見てる気分だよ」


優輝の父親も酒好きである。たまに勇泉の村人を家に招いては全員で酒を飲みどんちゃん騒ぎ

その父親の姿と今の永愛の姿が優輝には重なって見えた


「うるさいわね!お酒くらい飲んだっていいでしょ!」


「お客様、未成年の方の飲酒はーーー」


「だから21歳だっていってるじゃないの!」


「お客様、他のお客様のご迷惑になりますのであまり大きな声はーーー」


「あっ、すいません……」


その後は楽しく食事が進んだ。見た目からは想像出来ない酒豪っぷりで次々ジョッキを空にする永愛

酒は飲めないが負けじと肉を食べて応戦する幸助と優輝


もはや金額などどうにでもなれとヤケ酒気味になる明日次


会計で明日次が泣いたのは言うまでもない


そして時が過ぎ深夜

明日次は反省会を行った病院の中庭にいてある人物が来るのを待っていた


ほろ酔い気分の気持ちよさなどはとっくに忘れ今はただ緊張で震える手足を必死に抑えるだけ

そして程なくしてその人物は現れた


「珍しいね。僕と一体一で話がしたいなんて」


「ああ、待ってたぜーーー」


9月の半ば

気温は下がり冷たい風が肌を撫でる。虫たちの合唱が心地よく耳に流れ込んでくる


昼間は鬱陶しいくらいに照りつけていた太陽も姿を隠し夜は月が美しく地上を照らす

そしてその影からゆっくりと姿を現す


「ーーークロ」



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