いつの日か
先ほどから続く攻撃の連続を軽々と躱しながら明日次は優輝と永愛について考えていた
(まずは優輝。花熊井で会った時よりは自分に自信を持つようになった気がするな。ただ戦闘に関してはあまり変わらずってとこか。まだまだ経験不足だな)
(次に永愛。こちらも自信を持って戦っているな。スピードは申し分ないが直線的な動きしか出来ないのを見るとこっちも経験不足か)
接近戦を永愛が、遠距離からのサポートを優輝が行う2人の戦い方は並の人間が相手であれば十分に通用するだろう
しかし相手は星降守護部隊の幹部である佐渡明日次だ
いくらやろうとも攻撃が当たる気配はなくちょくちょく2人の隙を突いて矢を放つ
「ほらよっと」
「いでっ!」
放たれた矢は優輝の肩に命中する。優輝の体には吸着式の矢が何本もくっついており次に撃ち込む場所を探すのが難しくなるほどだった
「日が暮れてきたしそろそろおしまいにするかー」
最後に向かってきた永愛にもう1本矢を撃って明日次は玩具の弓を降ろした
終了の合図を聞くと優輝はその場にへたり込み矢を受けて倒れていた永愛はムクリと起き上がる
「……マジで1発も与えられなかったわ」
「とゆーか弓矢凄く痛いんだけど!本当に玩具なの?」
「当たり前だろ?ちょっと撃ってみろよ」
そう言って手渡された玩具の矢を優輝は力を込めて射るが飛んだのは僅か1メートルといったところだろうか
子供が使うための玩具なのだから本来はそれで十分なのだがこれが明日次の手に渡るとまるで本物のように素早く鋭い一撃が完成してしまう
吸着式とはいえそれだけの威力で受けた2人の体にはしっかりと痛みが刻まれている
「えーと……優輝が23本。永愛が19本。避けたり撃ち落としたりしてる分永愛の方が若干数が少ないな」
体のあちこちにくっついている矢を全て回収しやっとみっともない栗のような姿から解放された2人だったが矢を外したところは真っ赤な跡が残ってしまった
「明日は被弾数が減るようにもっと頭を使いながら頑張れよ。じゃあ帰るか」
長い間待たされて退屈だったであろう幸助の元へと戻っていく3人だったが幸助は幸助で何かをしているように見えた
「何してんの?」
「瞑想さ。無心になることで心を落ち着かせるんだ」
そばにいたクロはそう答えた。3人が戻ってきたことなど意に介さず幸助は座禅に耽って微動だにしない
「すごい……本当に集中してる感じがするね」
「今の幸助なら何をされても動じることはないよ」
「そりゃあ凄いわね。そうだ!佐渡ちょっとそれ貸して」
「ん?いいけどどうすんだ?」
何か悪いことを思いついたように悪魔の笑みを浮かべた永愛は明日次から玩具の弓矢を借りる。そして無防備の幸助に向けて矢を放つ
幸助の右頬に命中した矢は先端の吸盤によりしっかりと張り付く
「ブフッ!」
「ちょっ……永愛……流石にそれは……」
吹き出した永愛に注意しつつ優輝も必死に笑いをこらえている
肝心の幸助だが自分が面白い見た目になっているにも関わらず動じない
完璧に集中しているのだ
その様子を見て優輝も安心してしまったのか調子に乗り始める
「誰かペン持ってない?」
「あるよー」
クロからペンを受け取ると幸助の前髪を上げて額に文字を書いた
『益荒男』
「優輝アンタ益荒男って……どんなセンスよそれ……ククッ」
「幸助にピッタリの言葉だなって……フッ」
「おい……流石にやり過ぎだって……ブフッ」
ついに明日次も笑いが伝染してしまった。こんなに大人しい幸助を見たのは初めてだと3人共次のイタズラを考えていた
「しかし凄いな。ここまでされても全く動じなーーー」
「んな訳ねぇだろテメェらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
仏のように穏やかだった顔は一転。ついに限界を迎えた益荒男幸助は鬼となって3人に襲いかかる
「ヤバイ!逃げるわよ!」
「逃がすかコラァァァァァァ!!」
「うわわわわ!速っ!?」
あっという間に追いついた幸助は2人にゲンコツを1発ずつお見舞いした後、優輝と永愛を両脇に抱えて帰ってきた
「余計なこと言いやがって。お前のせいだかんな」
「ゴメンゴメン。幸助がどれくらい集中出来てるか試してみたくてね?」
「その言い訳、絶対に今思いついただろ」
クロに向かって呆れた様子の幸助を見ながら明日次はあることを感じた
幸助の顔が豹変した時、明日次は全身に鳥肌が立った。急だったこともあり驚いたのは確かだったがそれよりも幸助の放つ圧力を恐れてしまったのだ
(幸助だけ今までとはケタ違いに強くなってる……この数ヶ月間であいつの身になにがあったって言うんだ……?)
未だに心臓の鼓動は速くなったままだ。花熊井で出会った時は多少腕の立つ子供という印象だったが今は全く違う
(もし本気でやり合ったとしたら……こいつはヤバイかもしれないな……)
考えたくはないがいつの日か幸助と本気で戦う時が来るかもしれない
その時のことを考えると思わず体が震えた
しかしそれが恐怖からなのかそれとも武者震いなのか本人ですら分からなかった
「佐渡!お前も笑ってただろうが!許さねぇぞ!」
両脇に干された布団のように垂れ下がる優輝と永愛を抱えながら幸助は明日次に向かって叫ぶ
(いや、変なことを考えるのは止めよう。そもそもこいつらと本気でやり合うことなんてないんだからな)
明日次が本気を出して戦うとすれば様々な理由はあるが相手は全て悪と呼べるものだろう
しかしこっちに向かって怒っている少年の邪気のない真っ直ぐな瞳からは悪の要素なんて欠片も感じられなかった
「ハハッ。悪かったって」
「だから笑ってんじゃねぇって!」
笑顔で答えたつもりだった
実際に幸助もその顔を見て笑っていると認識した
しかしその笑顔はどこか不安が混じっていたのだが明日次も気がついていなかった
というよりは無意識に気づくことを避けたのかもしれない
いつか待ち受ける運命から目を背けようと心の中では必死だったのかもしれない
そんな明日次の心模様を映し出すかのようにさっきまで快晴だった空には雨雲が立ち込めてやがて雨が降り始めた
その時の雨の音はかつて花熊井で白猫と戦った時とよく似ていた
それがただの偶然か、それとも運命のイタズラなのかは誰にも分からない
答えを知りたければ運命に身を任せ静かに流れる時間の中で一歩一歩前に進むしかない
そしてその先でどんな答えに直面し、未来の自分はそこでどのような答えを出すのか
しかしそれがどんな結末を招こうとも彼らは自分を信じて走り続けるだろう




