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ハッピーボトル ~不運な男が世界を救う~  作者: 縞虎
修行とクロの正体
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修行開始


8月21日午後3時

一行は優輝と永愛の部屋に集合していた。本日から修行が始まるのである


本当はもっと早い時間から始める予定だったのだが明け方まで起きていたこともあり全員が目を覚ましたのは午後2時過ぎだったのだ


「身体中が痛てぇ」


「床で寝るのがいけないのよ」


「だってベッド使うなって言ったじゃねぇか」


「そりゃそうだよ。あれだけ汚れてたらねぇ……」


幸助とクロが起きて真っ先にやったことはお風呂に入ること。床で眠ったことにより固まった体を温かい湯でほぐす天国のような時間を過ごすつもりだったのだがそこで地獄を見ることになる


シャワーを浴びた時、身体中の傷から電流が走ったように2人の体を駆け巡る。メチャクチャ痛かったがこの散々汚れた体を綺麗にしなければならない


その一心で石鹸に手を伸ばし


そして体を洗った


当然激痛である。痛みを紛らわす為に叫んでみようかと思ったがそれを聞いた人が集まって来たりしたらどうしようか

悩んだ挙句、2人が行ったのは吐息のような小さな声でひたすらうなるだけ

黙っているよりは痛みが紛れるだろうと思った結果の行動だった


「おーす。集まってるなー?」


少し遅れてやって来た明日次は手に大きな紙袋をぶら下げていた。全員が紙袋に注目する視線に気づいたようで明日次はそれをベッドの上に置く


「ふっふっふ。気づいてしまったようだな」


「そりゃそんだけデカかったら気づくよな」


「せっかく揃って修行をするんだから服装も統一しようと思って買っといたんだ」


明日次が嬉しそうに紙袋から取り出したのは上下セットのジャージだった。幸助には黒、優輝にはオレンジ、永愛には赤、色は異なるがどれも同じデザインをしていた


「昨日の買い物ってそれのことだったんだ」


紙袋に書いてあったのは昨日行った羽壱のショッピングモールに入っていた店の名前だったことに気づき優輝はポツリと呟く


「俺からのプレゼントだ!早速着替えて病院の入口に集合してくれ!」


受け取った新品のジャージを早速開封し幸助と優輝は着替え始めた。旅に出てからずっと同じ服を着ていたので新品の服に対して若干感動を覚える


幸助と優輝とクロが出ていった後、残った永愛もそそくさと着替え始めた。流石に2度目はないと思いながらも昨日のことが頭をよぎり自然と手足の動きが速くなった


「さて、集まったな。そんじゃあ少し移動するぞ」


集まった3人は互いに相手の格好を気にする。決してジャージが嫌な訳ではない。むしろわざわざ新しい服を用意してくれたことに感謝しているくらいだ


「ちょっと待て佐渡」


「ん?どーした?」


「どーした?じゃねぇよ。お前もそれ着てんの?」


「そりゃそうだろ。俺だけ仲間外れみたいじゃねーか」


明日次もお揃いのジャージを着ていた。ちゃっかり自分の分も買っていたようで水色のジャージに身を包みこの場にいる誰よりも張り切っている

買ってくれたのは嬉しい。しかし全員がお揃いの服を着ているとなると少し恥ずかしい


「本当は背中に刺繍とか入れてもらおうと思ったんだけどな。時間が無くて断念したんだ」


口には出さなかったが内心ホッとした3人だった。背中にデカデカと『気合い』とか『根性』とか入れられてたら恩を忘れてジャージをぶん投げていたかもしれない


「さあ!時間もないし行くぞ!星降ーファイ!……………続きはどうした?」


「誰が言うか!!!」


先陣切って走り出した明日次に向かって口を揃えてそう言った




移動した先は病院の裏にある野原だった。周囲に人の気配は無くここならば思う存分武器も振り回すことが出来るだろう


「そうだ!さっきうちの部下から連絡があってな。修行を始める前に少しだけ話をさせてもらう」


さっきまで笑顔ではしゃいでた明日次の顔が別人のように真剣になっていた。ここに来てから明日次はちょいちょい部下の存在を出していたがその後に続くのは決まって同じ話題である


「部下からってことはもしかして……」


「鳳南のことだ。どうやらあの戦いにおいて死者が2人発見されたらしい」


その報告に優輝と永愛は驚きの声をあげ、幸助とクロは黙っていたが顔が強ばっていた

犯人であるクロはもちろん、昨晩事実を聞いた幸助は全てを知っている

だがこのことを話すわけにはいかず大切な仲間に嘘をついているような感じがして胸が苦しくなった


「その2人ってのが昨日、お前達から聞いた不思議な力を持つ奴らだ。両者とも一撃でやられていて体に爪で抉られたような痕、喉を噛み切られたような痕、まるで大きな獣にやられたような傷だったらしい」


明日次の口から語られる残酷な出来事に優輝と永愛に緊張が走る


「それは誰の仕業なの?」


「分からない。けど人間業じゃないことから恐らく例の不思議な力だと思ってる」


「いつかそんな奴と戦わなきゃいけないのかしらね」


自分達が苦戦した相手を一撃で殺した者がいる。それと敵対する日がいつか来ると思うと恐怖で体が震えた


「そして次の話だ。不思議な力を使う奴らに関してだが俺達はそいつらを『異端児いたんじ』と呼ぶことにした」


「異端児?」


「そうだ。まず奴らが手に入れた力はとある科学者が与えた薬の影響らしい」


科学者というのは以前、下輪旗で柳生楓凛が捕らえたドクターバッドマッドのことである

世の理から外れたような異能力を持ちドクターバッドマッドがそれを子供達と呼んでいることからそう名付けられたのだ


「そういや初めて戦った奴は薬がどうとか言ってたな」


幸助が思い出したのは鳳南に到着する前、運昇と出会った時に戦った少年だ。それに心当たりのある優輝も横で大きく頷いている


「元凶である科学者は既に捕らえ星降の地下に幽閉しているが世界には異端児が散らばってしまっている。俺達もその対応に追われててな」


「じゃああんた、私達と修行してる暇ないんじゃないの?」


「その辺はうちの部下がしっかりやってくれている。それより心配なのはお前らだ。せっかく助けたのに野放しにして死なれたらたまったもんじゃないからな」


明日次が鳳南に訪れたのもその近くの町で任務にあたっていたからで現在は優秀な部下達に仕事を任せている

部下の支えがあってこそ明日次も3人の修行に専念できるのだ


「野放しにして死なれたら……な。随分舐められたもんだぜ」


明日次の言葉は遠まわしに『お前達は弱い』と言っているようなものだった

それに幸助は反応し拳と掌を合わせて骨を鳴らす


「昨日も言っただろ?これからは気合で乗り切れるほど甘い世界じゃないって。とにかく文句があるなら口じゃなく力で言ってみろよ」


そして明日次が取り出したのは小さな玩具の弓矢。子供が的当てで遊ぶためのものだ


「ルールは簡単。2人がかりで俺に一撃でも加えてみろ。それだけでいい、武器の使用ももちろんオーケーだ」


「俺達とその玩具でやり合おうってのか?ますます舐めてんな」


明日次の見下しっぷりに幸助はイラッとしたが大人幸助に言われたことを思い出して素早く首を横に数回振った後、落ち着く為に深呼吸をする

そして準備体操を始めて明日次に挑もうとした時だった


「待て幸助。お前は休みだ」


「は?何でだよ?」


意気込んでいるところを止められてしまった。何故自分が参加出来ないのか不服な幸助は明日次に尋ねる


「昨日約束を守らないでボロボロになって帰ってきたのはどこのどいつだったっけなぁ?」


明日次は笑顔でそう言った。厳密には笑顔を作っているという感じで目が笑っていない。内心かなり怒っているだろう


それを言われると幸助も言い返すことが出来ずに黙るしかなかった

しかし言い訳をさせてもらえるとすれば乗っかったとはいえ修行に誘ったのはクロだ。決して自発的に修行をしようとした訳じゃない


しかし明日次の顔を見るとそんなことも言えない

代わりにクロを見ると両手を顔の前で合わせてゴメンと口が動いていた


「約束破ったんだししょうがねぇよな。今日は大人しくしてるか」


「ゴメンね。あそこまで壮絶なものになるとは思ってなくて……」


修行の邪魔にならないようにその場から離れる幸助とクロ。幸助はこれから修行に入る優輝と永愛を少し羨ましそうに見ていた


「そのおかげで強くなれたけどな。早く体を動かしたいぜ」


「じゃあ体を動かさない修行ってのはどうだい?」


「……なんだそれ?」




幸助とクロが離れたことを確認すると優輝と永愛は武器を構え明日次は2人から距離を取る


「んじゃあ始めるか。ルールはさっき言った通り俺に一撃でも入れればいいだけだ」


「一瞬で決着つけて恥欠かせてあげるわよ!」


真っ先に永愛が飛び出した。武器を持つことにより永愛の速さは格段に上昇し明日次が空けた距離をすぐに詰めてしまった


短剣を強く握り向かって来る永愛の一振りを軽々と右に飛んで躱す


「猪突猛進なんてわかりやす過ぎるな。そして恐らく俺が避けた先にはーーー」


明日次が見たのは優輝がいる方向だった。そして予測通り自分に向かって真っ直ぐ伸びてくる優輝のハンマー


「お前だよな!優輝!」


ハンマーも難なく回避するがその短い時間の間に永愛はまた明日次に接近していた


「次は逃がさないわよ!」


「だーかーらー。真っ直ぐばっかじゃダメなんだよなー」


目前まで迫る永愛に呑気な口調で、しかし手の動きは素早かった

持っていた玩具の弓に矢をセットして慎重に狙いを定め放つ


「んぎゃあ! 」


頭に矢を受けた永愛は情けない声をあげ吹っ飛んだ


「ちょっと永愛!大丈夫ーーーブフッ!」


真面目に修行をしている最中だというのに優輝は空気も読まず吹き出してしまった


なぜなら矢を受けた永愛の額には先端が吸盤になっている矢が張り付いていたからだ

それが面白い絵面で笑わずにはいられなかった


「何笑ってんのよ!」


「だって……面白くて……クククッ」


笑ってはいけないことなど優輝本人が1番分かっている。しかし永愛がこっちを向いて怒っていると額の矢が連動して揺れ、それがまた笑いを誘う


他人事ひとごとじゃねーぞー」


「ぎゃあっ!」


笑っている間にも明日次の容赦ない追撃が優輝の額を直撃する


「でもこりゃ確かにおもしれーな。2人して頭に矢が突き刺さってやんのー」


やはり絵面が面白かったので明日次も笑い出してしまった。しかも小馬鹿にしたような笑い方が非常にムカつく


「もうあったまきた!絶対にやり返してやるんだから!」


「おーその意気だ。でも矢は取るなよ。最後に本数数えるからなー」


開始早々恥ずかしい目に会わされた2人の戦いはまだ始まったばかりだ


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