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謎の女性


 歩きながら幸助は考える


 これまでの人生について


 裕福というわけではないが貧乏というわけでもない、いわゆる普通の家庭で生まれ育った幸助


 面白くて優しい父親、真面目でしっかりとした母親と3人で暮らしてきた

 笑顔の絶えない家庭で、近所の子供に馬鹿にされたとケンカしてボロボロになって帰ったとき、男なんだしそれくらい元気な方がいいと言う父を少しは心配しなさい叱る母


 その内、幸助そっちのけで口喧嘩を始めてそれを見ていた幸助が笑い出すと最後は全員で笑う

 両親は「どんな体質だろうとお前はうちの息子だ」と幸助を愛していたし、幸助もそんな両親が大好きだった


 しかし10歳で両親を亡くして1人となった幸助を愛するものはなく、疎まれるだけの存在となった

 その後の彼を愛してくれる人もいたがその幸せも長くは続かなかった


 それからだろうか。彼が人の笑顔を見ていないのは


 孤独に生きることに慣れ、他人どころか自分でさえもどうなろうが知ったこっちゃないと思っている幸助にとって世界の滅亡など取るに足らない問題であった


 過去を振り返っている内に目的の場所に着いた

 昨晩の山とはまた違う方角にある山。木々に囲まれた道を40分程歩くと見えてくる幸助のお気に入りの場所


 散々生い茂っていた木々は少し姿を隠し、そこに小さな泉が湧いていた


 飲むと若返るとか精霊が出てくるとか特別な泉ではないが人目につかないようなところにポツンとあるこの泉がなんだか自分に似ているようで幸助は好きだった


 そこで何をするわけでもなくただボーッとすることが散歩ついでの日課となっていた

 そうしている時だけは、過去の嫌な事を忘れることが出来るのだが今日は少し訳が違うようで


「…誰だ?」


 どうやら先客がいるらしい

 自分しか知らない場所だと思っていたがまさか他人がいるとは


 見たところ女性のようだ

 そよ風になびく金髪が木漏れ日に照らされて、キラキラと輝いて見える。まさか泉の精霊が出てきたのではないかと勘違いするくらいその女性は美しかった


「あっ、えーっと」


 なんて話しかければいいか迷っている幸助


「あらごめんなさい、おじゃまだった?」


 気づかれた。女性は少し怯えたような顔をしている

 こんな人気のない所に突然人が現れたからだろうか


「いや、違うん……です。こんな所に人がいるのが珍しいなーって思っ…………いまして」


 敬語が苦手な幸助。それでもなんとか頑張って話しているが


「敬語が苦手なの?普段通りでいいわよ?」


 クスクスと笑われてしまう。察しのいい女性に少しホッとしたような、でもなんか情けないような


「ところで、よくこんな所知ってたわね。よくくるの?」


「毎日の散歩コースなんだよ。ここで人に会うのは始めてだからビックリした。あんたはなんでここに?」


 そう尋ねると女性の顔が曇った

 どうやら触れてはいけないところに触れてしまったようだ


「逃げて…来たの」


 先ほどのハッキリとしたしゃべり方とは一変してとても小さな声で話す女性


「逃げて来たってこんなところまでか?どこから来たんだよ」


 こんな近くの村に住んでいる人間ですら知らない辺鄙なところまでよく逃げて来たものだと表には出さないが感心してしまう幸助


「…………星降」


 女性は少し間を開けてまた小さく話す

 星降、まさか同じ地名を1日に2度も聞くことになるとは思ってもなかった


 黒猫に泥棒に入られたり、女性が逃げ出してきたり星降の治安は大丈夫なのだろうかと余計なことを考えてしまう幸助


「まあ、なんだ。詳しく聞くようなことはしねぇよ。俺はもう少しここにいるつもりだから話したくなったら話してくれよ」


 全く口を開かなくなってしまった女性に気を使ってみる


 普段、人を気遣うことなどないにしてはなかなかいいことを言えたのではないか?

そんな自画自賛を交えつつ女性の方を向くがまだ表情は曇ったまま

 

 しまった。もっと気の利いた言葉があっただろうか

 自分のコミュニケーション能力の無さを責め、頭を抱える幸助


「フフッ」


 不意に聞こえた笑い声。どうやら女性のもののようだ


「あなたのこと見てたらなんだか元気出てきちゃった」


 褒められたのか馬鹿にされたのか、そんなことは置いといてとにかく元気になってくれたようだ


「私のこと話すわけにはいかないけど、おかげで元気出てきたわ」


「ありがとう」


 そう言って女性は幸助にニッコリと微笑んだ


(いや、大したことはしてねぇよ。それより元気になってくれて良かった)


 幸助はそう返すつもりだった

 しかし返せなかった


 女性の微笑む顔を見て何を言おうとしていたかなんて全て吹き飛んでしまった

 胸の奥がジーンと熱くなる。トキメキ、というよりは喜びであった

 邪気など一切含まれていない純粋な笑顔、とても眩しくて心が暖かくなる


 いつ以来だろう、人にこんな笑顔を向けられたのは


「あ、あぁ」


 その笑顔に飲まれてしまった幸助はそれ以上話すことが出来ずただただ喜びを噛み締めるだけだった


 しかしーーーー


「見つけましたよ、お嬢様」


 感動の余韻に浸っている余裕など彼にはなかった


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